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S22 『冬がはじまるよ』

「楽しい?一ノ瀬さん?」

ヨウコの付き添いでやってきたWデートで出会ったその彼は、まったく私と同じような感じでこのWデートに呼ばれていた。

「楽しいよ。というより、ヨウコが幸せそうだからうれしいって感情かな」
「へ~、そこも僕たち一緒なんですね。おれもタツヤが幸せそうに笑ってるの見れて友達ながら、すごいうれしいです」
「松井くんって、いいひとなんだね。友達想いの」
「そうですか?でも、それ、そのまま一ノ瀬さんにお返ししますよ笑」
「え~??そんなことないでしょ」
「いや、そんなことありますよ、きっと。意外と気が合うのかもしれないですね、僕らも」


二人でくすくすと笑い合っていると、遠くからヨウコとタツヤがやってきて、あのジェットコースター乗ろう4人で、満面の笑みでくるものだから私たち2人も合わせるかたちで乗ることになった。

こんなにワイワイ楽しく、誰かと遊んだり、男の人といっしょに過ごすのが久々過ぎて、とても疲れたけど、懐かしいイイ気分になれた。


「今日はありがとうございました!タツヤくん、また連絡するね!ユウスケくんもありがとう、来てくれて!じゃあ、またご飯でも、遊びでも、行こうね」


ヨウコは嬉しそうに改札に入っていき、残った3人も挨拶をそこそこにして、駅でバラけた。

はずだったのが、
たまたま、松井くんとあるところまで同じ方向だったわたしは、2人で歩いてそこまで行くことになった。


「木内さん、すごく喜んでましたね、今日のこと。タツヤもすごいうれしそうだったし。これ、あれですね、あの二人多分付き合いますね」

「でしょうね。まあ、私も友達としてあんな幸せそうな表情見たら、応援したくもなるよね」



2人であの二人のことをたくさん話しながら、あるところまで到着した。



「あの、一ノ瀬さん。。少し小腹減りません?僕、いま猛烈にそこのおでん食いたいんですけど、ごちそうするので少し食べません?」


そういって、彼はコンビニに私を連れて行き、何を食べたいか聞いてくれた。


「ぼくは、大根、玉子、もち巾着、牛すじが食べたいんですけど、どうです?」
「私もそれ好き。というか、今言ったやつ全部好き」
「そうなんですか!?奇遇ですね!じゃあ、1つずつ買って、と、、あ、じゃあこれは僕のオススメなんでプレゼントさせてください」


お会計を済ませ、店の外に出て、おでんの容器を開けると、
しみしみの大根・玉子、食べ応えのありそうなもち巾着、牛すじ、そして[白滝]が2つずつ入っていた。


「これ、最後に食べてください。出汁と具のたくさんのエキスを一気に吸わせて食べるコイツが最高なんですよ」

一つの容器を2人でつついて食べるおでん。


あんなにも遠ざけてたのに、今すんなりと食べているおでん。


そして、彼が教えてくれた新しいおでん、白滝。

ぜんぶが美味しくて、ぜんぶがあったかかった。


「あったかいね」

彼の発したその言葉に、これまでで、こんなにも味わったことのない“あったかさ”を感じた。



そのとき、私のなかで、あの冬が始まった。



(了)

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