大白小蟹『うみべのストーブ』(リイド社)その①
・和山やま『カラオケ行こ!』(KADOKAWA)と大白小蟹『うみべのストーブ』(リイド社)を購入。どっちもオモシロそうだった。
・和山やまさんは他の作品も読んだことがあるので、面白いのは間違いない。今日はこの本を買うために本屋さんに入った。だが、ふらふらと店内を巡る内に『うみべのストーブ』を買うことにした。帯によれば『このマンガがすごい!2024 オンナ編 第1位』らしい。知らなかった。平積みされている単行本の上に置かれた試し読みの冊子を手に取った。表題作「うみべのストーブ」を読むこと賀出来た。あらすじはこんな感じ。
コミュニケーション不足で恋人に降られた青年スミオ。彼女がいなくなったことで初めて彼女が心の支えだったことに気づいたものの、彼女とは連絡がつかない。情けなくメソメソと泣くスミオに声が掛けられた。
「スミオ 海へ行こう。」
それは、二人の様子をずっと見守ってきたストーブが発した声だった。二人にとってのかけがえのない時間はストーブにとっても大切な時間だった。だからこそ、元気を無くしたスミオを見ていられなかった。ストーブはスミオ連れて、彼女が好きだった冬の海を見に行く。彼女に連絡を入れて、スミオとストーブはじっと待ち続ける。
・元カノのことが忘れられなくて、できることなら復縁したいスミオ。恐らく来ない彼女を待ち続けるスミオに、ストーブは二人が互いを好きだったことを、何度でも思い出すと告げる。暗い夜の冬の海を前に、落ち込むスミオと彼を照らすストーブを引きで映して物語は終わる。
彼女(えっちゃん)がスミオを振る際の言葉も印象に残った。夜帰宅したえっちゃんにスミオは誕生日のケーキを用意していた。しかし、スミオは朝から誕生日について全く触れていなかった。それなのにケーキは用意しているスミオに対して、えっちゃんの感情のダムが決壊してしまう。
えっちゃんは、一緒にいても黙ってばかりのスミオに耐えられなくなったと告げる。切り分けられたケーキに立てられた三本のろうそくがドロドロと溶け出して、表面にロウを垂らしているコマが台詞の合間に挟まっていた。この台詞を読んで、確かにそうだよな、と思う。勉強や労働、あるいは何かしらがあって一緒にいられる時間はそう多くない。だからこそ、その間は自分にリソースを割いて欲しい。押しとどめて口に出してこなかった気持ちがついにあふれ出したのだと思う。「ふたり足して2かそれ以上」という所から、2でも幸せなのに、2にさえなることができないという絶望を感じ取れる気がする。もうこれ以上どうにもならないんだろうな、と感じる表現だ。
人生の中で出会いも別れも何度でもある。別れても、確かに互いに好きだった瞬間は確かにあった。その時々の気持ちはきっと無くならないし、別れが来たからといってその気持ちが嘘にはならない。ただ、スミオには次の出会いもあるし、忘れてしまうかもしれない。でも、ストーブだけはそれを覚えている。ここのバランスだな、と思う。これがスミオだけなら何となくジメッとした終わり方になってしまう気がする。でも、無機質なストーブが何故か喋って、感傷的に慰めてくれる。そのおかしさと、機械だからこそ「忘れない」という言葉の信頼感が爽やかな読了感をもたらしてくれる。
電源コードがコンセントに刺さっていないストーブが海まで行って、スミオを横で暖め続けているのもあり得ないんだけど、自然に受け入れていた。何だろうな、脱力感?読んだ後にちょっと心が軽くなる、そんな気がする。
・まだ面白さを表現仕切れていない気もする。もう少し読み込むと面白さを言語化できそうだ。
短編集なので、次の話が気になってすぐに単行本を手に取ってレジへと向かった。