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コンサータを忘れて旅行に行くとどうなるか

コンサータという薬を飲んでいる。ADHDの "症状" を緩和する薬らしい。

1年前にADHDと診断されて、半年ほど前からコンサータでの治療が始まった。
自分の本来持つ特性を治療するなんて、おかしな話だと時折思う。
それでも日常生活に支障が出てしまったからには、放置するわけにはいかなかった。

コンサータを飲みはじめて、朝のつらさが軽減された。
目覚ましの音で起きられる。その後しばらくしてベッドから抜け出せる。朝のルーチン作業を黙々とこなせる。
以前は身体が重く(実際に本当に重く感じていて、両手をベッドについて這うようにしてなんとかベッドから抜け出していた)、起きたあとしばらく続く頭のぼんやりとした状態から抜け出すまでに1時間近く要していた。

それ以外に改善されたことは特にないかな、とつい最近まで思っていたのだけど、それは全く違っていたと最近思い知らされた。
1週間の旅行にコンサータを忘れてしまい、散々なことになったのだ。

コンサータのない日々はとにかく疲労を感じやすかった。
光がとても眩しく感じ、音があちこちから聞こえてきて、隣で話す人が何を言っているのか聞き取れない。元の自分がこれほどまで光や音の刺激をそのまま受け取っていたとは。

日中の強い眠気にも驚いた。
観光地を歩いているときでさえ、すぐに頭がぼんやりしてくる。ところどころ記憶がないのは、もしかして歩きながら寝ていたのでは?と自分が心配になる。

方向音痴も悪化したというか、元の状態に戻った。
なぜ方向音痴の人は自信満々に真逆へ進んでしまうのだろう。

握力もなんだか弱くなったようで、よく手に持ったものを落としていた。
自分で締めたドアに挟まったり、毎回小銭をぶちまけたりと、動作にも随分と不安を感じた。

人の話というか、相手の意図を理解できないことも多々あった。
そもそも人の話を聞かずに反射的に身体が動いてしまっている・または反射的に返事をしてしまっている、という感じだった。

同行者はいつしか介助者になっていた。散々である。

旅行から戻って荷物をほどきながら、ああ本来の私と久々に会ったな、と思った。
毎日こんな調子で、ただ生活しているだけで疲労困憊で、そしてなぜか怪我をしている。角の多い部屋を跳ね回るボールのような生き物だと思った。

私はコンサータを飲んでようやく人並みなのかと思い知り、ただただ自分という存在が憐れになってしまった。

まるで自分で自分のことを人間だと信じて頑張っていた宇宙人が、ある日突然、自分はヒトじゃないんだ、と気づいてしまった感覚だった。
今まで頑張っちゃってたけど、全部空回りだったよ。そんな虚しさとか。
それでも今さら「実はわたし、宇宙人だったみたいです」なんて言えない孤独とか情けなさとか。
もういっそ母星に帰りたいよ、というホームシックのような寂しさと悲しさがあった。自分の母星がどこかも知らないのに。

たまに「この人は私と同じ星の出身かもな」と思わせる人に出会うことがある。そんなとき私は、地球人だらけのこの星ですこしホームシックが和らぐ気がする。

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