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売れない先生と私の話 ヨリミチ



  先生の家は、少し田舎だ。都心からバスなら40分、電車ならば30分程の街にある。都会の喧騒はないけれど、田舎のせせらぎもない。都会ではないけれど、田舎でもない。


 なんというか、全体的に古いのだ。どこか時代が止まっているみたいで、なんだか懐かしい匂いがする街なのだ。

 駄菓子屋には、未だに錆びたタバコの看板なんかがあって、家の周りは、ブロックとかではなく、木の垣根で区切ってある。

   先生の住むアパートも例外ではなくて、内装は新築のようにリノベーションされているのだが、外装は、年期を感じる仕上がりになっている。

   そんな先生のアパートも、つい最近、階段が朽ちて一段取れたらしい。大騒ぎになったそうで、現在、階段を作り直してるそうで…
自分の部屋の床が抜けるんじゃないかと、先生はひやひやしてらっしゃいました。


  そんな折りに。


  街の総合病院から、私に一通の電話がきたのです。


  「もしもし、、あの。、紙白です。」


 電話越しに聞こえてきたのは、少し申し訳なさそうな先生の声でした。

 先生の家の窓には、小さな柵のようなものが付いていて。先生は、いつもその柵に頬杖をつきながら、窓枠に腰掛けて黄昏ることが多いのです。

 しかしある日、いつものように柵に手をかけたところ、朽ちた階段と同じように取れたそうで、二階から落ちて、腰骨を少々怪我して、今、入院しているのだとか。
 
 真剣に、事の顛末を話す先生とは裏腹に、私は笑いを堪えるのに必死になっていました。いや、もう半笑いだったかもしれません。ギャグ漫画のような落ち方がツボに入っていました。

  そんな様子を察してか、私が笑っているんじゃないか?僕は大変だったのに、と先生は少し拗ねていた。
  
  少したって、電話を切ると私は、先生の必要品をまとめて、お見舞いついでに持っていくことにした。

  きっと病室に入ると、「俺は不幸だ」、と言わんばかりの顔をして寝ているのだろう。だけれども、今日のお見舞いはきっと喜ぶに違いない。先生に知らせたいことがあるのだ。とびきりの良いニュース。


  ガラガラッ

  
  「先生、ついに……」


   数秒後、大声で叫んだ先生は、看護士さんにしっかり怒られていました。

  

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