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ビジネス街でモーニング

馬場あき子さんのドキュメンタリー映画「幾春かけて老いゆかん」を観にいこうと思い立った。
だって、その日は水曜日。
映画が、安くみられる日。
そんな日に思い立ったのならば、行くしかない。

短歌は好きだけど、自分ではまったく作れない。
どうすれば、あの限られた文字数だけで、こんなにも情景や気持ちを思い起こさせることができるんだろう。

若かりし頃に、俵万智さんのサラダ記念日を読み、ちょっとまねてみようと思い、えらい目にあったことを思い出す。

今回は、95歳の馬場あき子さんのありのままの姿を見てみたいと思ったのだ。(映画では、93歳から94歳までの1年間の様子だった。)

いやはや、言葉を扱う人というのは、気持ちいいくらいに潔い。
限られた文字数の中で、表現していくからこその培われる力なのか。
はたまた、もともと潔い人が、その道を選ぶのか。

平日の、小さな映画館には、まばらにしか人はいなかった。
そして、その人々は、私以外は、ほぼ間違いなく短歌をたしなんでいそうであった。
場違い感大ありやった。

映画は、10時からの上映だったので、朝の混雑を避け、早めに家を出た。
映画までには、まだたっぷりと時間があるので、どこかでお茶でもしようかと。
ビジネス街なので、開いているのは、チェーン店のコーヒーショップばかり。
その中でも、カフェベローチェを選ぶ。
ここは、お一人様のお客さんが多く、静かに過ごせるし、サンドイッチも美味しい。
コーヒーだけにしようと思っていたけど、パンの香りについついモーニングを注文してしまう。
大きな通りに面した窓際の席に着く。
歩道をスーツ姿の人々がせわしなく歩いていくのが見える。
すたすたすたすた。
目的地に向かう無駄のない歩き方。
そりゃそうや。
頭の中は、今日の仕事の段取りでいっぱいなんやろうなあ。

こうして、平日の朝にモーニングを食べながら、人混みを眺めていたことはこれまでにもある。
仕事がらみの研修で、いつもの勤務地ではないところに行くときは、いつも時間に余裕をもっていき、どこかでモーニングを食べるのが好きだった。
私の住む町は田舎なので、電車がよく遅れるのだ。
心配性だから、いつもかなり早めに家を出る。
そして、仕事先の近くにたどり着いた安堵感と共に、落ち着いてモーニングを楽しんでいた。
窓の外の人の動きをじっと見つめながら、
頭の中では、今日の仕事の段取りや、昨日までの仕事のふりかえりや、明日からの計画などが、めまぐるしく渦巻いている。
突然、手帳になにやら書き込んだり、スマホのメモに入れたり。
落ち着いているけど、忙しい。
そんな時間が好きだった。


でも、ゆっくりめの働き方に変えてから食べるモーニングは違っていた。

あったかい。
パンの香りが鼻の穴に入り込む。
珈琲がしみる。
おいしい。
どんどん身体がときほぐされていく。

少し前までは、おいてけぼりの感覚に陥っていたのに。

ちょっとは、今の状況が居心地よくなってきたんかなあ。

モーニングを味わいながら、
すたすたすたすたと歩いていく人々に、心の中でエールを送る。


がんばれ。
頑張れるときに、頑張れ。
見知らぬ人々に、本気でエールを送る。
無理しすぎんとな。
でも、無理ができるってのもちょっと羨ましいで。


そんなことを考えながら、トーストにかぶりつく。
うまい!!

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