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山下清展 佐川美術館はやっぱり落ち着く

新聞広告に、マティス展の紹介を見つける。

行きたいなあ。ち、東京か~~~。

そして、ふと思い出す。
そういえば、佐川美術館でやっている山下清展はいつまでやったっけ?

なんと、今日が最終日じゃないか。
いつか見に行けるなんて思ってたら、こんなことに。
まさしく私あるある。

慌てて、チケット予約をして、車で佐川美術館に向かう。

山下清さんといえば、どうしても芦谷雁之助さんが浮かんでしまう。
そして、握り飯。
丸刈り頭にランニング。
ずたぼろリュックサック。

もちろん、忘れちゃいけないのが、素晴らしい貼り絵の作品。

作品としては、私の好みではないけれど、いったい山下清さんて何者?って思わせる力のすごいことは確か。

目に焼き付けた景色は、決して忘れない。
何度でも再現できるほどになんて。
そんな人の作品は、ぜひ本物を見たいじゃないか。


山下清展をしている佐川美術館は、エントランスから心がゆるんでしまう。
ちゃぽちゃぽ流れる水の音。
どこまでも続く水庭のど真ん中にいる、それはそれは雄々しいエゾシカ。
入口にたどり着くころには、昨日のうっとおしい電話も忘れてしまう。
受付のお姉さんの言葉は、もはや入ってこない。
聞こえてるんだけど、何を言ってるのかわからん。
シャバのことは忘れて、すっかりどっぷり、美術館にひたる。

山下清展では、子どものころからの作品を、ほぼほぼ時系列に沿って展示されていた。
清さんの環境の変化と作品の変化の様子があまりにも顕著で、とてもわかりやすく見ることができた。
そして、貼り絵はやはりすごかった。
影の付け方や立体感の出し方を、じっくり見たすぎて、
遠近両用メガネをはずして、作品との距離ほぼ15センチで鑑賞する。
作品によっては、足元に台が設置されていて、15センチ鑑賞が許されないところもある。

もっと近づきたいなあ~。

そう思いながら、視力の悪さを呪っていると、静かな館内に、ドンっと大きな音が鳴り響いた。
私の少し前方あたり。
そっと、そちらを見やると、70代くらいのおじさまが、足元の台に前のめりの姿勢で乗っかっているところだった。

わかるわ~。

もっと近づきたくて、ほんまに近づいてしまったんやなあ。
とっても上品そうなおじさまだったので、思わず乗ってしまった台の上でのちょっとまぬけな姿とのギャップが、かえって絵になっとった。
山下清展にぴったりやん。

絵だけでなく、山下清さんの言葉もこれまた面白かった。
だらだらと続く(すっ、すみません。)なかなか句点が出てこない文章。
そこに、清さんの物事のとらえ方がうかがえる。
一つひとつなんやな。
しっかり順を追っていくんやな。
そして、素直な感想に、くすっと笑ってしまうことも。

裸婦を描くように言われて、ストリップ劇場に行くんだけど、全然描けなかったらしい。
きっと、裸体に見とれていたんだろうと思いきや、踊り子さんの動きが速すぎたからで、結局、楽屋で描かせてもらったらしい。
見とれんかったんか~。

こんなに有名にならなければ、きっともっと放浪してたかったんやろうなあ。
有名になったから、海外に行って新たな作品を作ることができもしたんやろうけど、でも、もっともっと放浪を積み重ねた末の作品を見てみたかったなあ。
どんな作品になっていったのか、まったく想像できない。

特性からくる天才肌。
それだけでなく、つくり続けることで培ってきたものの大きさに、心打たれる。
言葉でのアウトプットがスムースでなかったようだけど、ご本人が書いたノートからは、言葉で表現したくてたまらんかったんやろうなあってことが伝わってくる。

それにしても、芦谷雁之助さんもすごい。
ご本人と、とっても似ておられる。
写真で見た山下清さんと、そっくりである。
もちろん、ドラマや映画は、かなりデフォルメされているところもあるらしく(そりゃそうか。)、実際とは異なるところは多々あるんだろうけど、
ここまで似せてたんかと、そこにも感動した。

もうひとつのおすすめは、佐川美術館内にあるカフェである。

カフェから見える景色が、なんとも心落ち着かせてくれる。
ガラス張りの大きな窓の向こうに、水面が揺れる水庭。
そして、椅子の座り心地のよいこと。
初めて座った時なんて、座った瞬間に思わず立ち上がってしまった。
すぐに椅子を裏返して、あちこち確認してしまった。
Hans Wegnerのものらしい。
さすがである。

常駐展の佐藤忠良さんの彫刻も大好きである。
毎回、
「ちょっと、服くらい着せてあげたらええのにねえ。」
というおばさま方に遭遇する。
躍動感あふれる少女の姿に、圧倒されちゃうんやろうなあ。

そういえば、山下清さんも、ヨーロッパ旅行で見かけた詩人の銅像が、裸体であることを、嘆いていたなあ。

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