「副業」がしたいわけではない

定年後(今の時代は「再雇用後」と言った方が正確かもしれない)、新たに収入を得る道を見つけるための慣らし運転として有効なのが「パラレルキャリア」だと言われる。長年続けてきた仕事をやめて、いきなり別の仕事を始めるのは難しい。転職をスムーズに進めるには、慣らし運転を今の仕事と並行して始めておいた方が確かに、うまくいきそうだ。だから、パラレルキャリアは必要だと思う。

ただしーー。パラレルキャリアを「副業」と訳すと、ちょっと意味が違ってくる気がする。

企業勤めの人たちが定年後、再雇用後の仕事として現役時代からの本業とは別に準備を始めるべき仕事は、「副業」ではなく、本業の延長、あるいは本業に近いが態様の違う仕事なのではないだろうか。20年も30年も続けてきた仕事なら、恐らく、その仕事が性に合っているのだ。それを、いまの会社をやめてからも、続けた方が、きっとうまくいく。

しかし、定年後には、それまでいた会社が嫌になることもある。会社に貢献してきたと思っていたのに、社員以下の給与になり、お荷物のように扱われるようになると、それまでの会社人生全てが、否定されたような気になる。会社に裏切られた気持ちになる。そこで、すべてを忘れて、違う生き方をしようかと思ったりする。でも、憎むべきは、高齢の社員を生かせない「組織」や「制度」であって、慣れ親しんできた「仕事」ではない。

坊主憎けりゃ袈裟まで憎い。会社憎けりゃ仕事まで憎い。

私がそうだった。

再雇用の初日、メールが使えなくなった。経費精算のためのIDが使えなくなった。単なる手違いだと思うが、間が悪い。定年退職者への対応が温かいものではないと感じた。でも、その後の仕事は、現役時代よりも面白くなった。


週3日勤務のため、雑用的な仕事がなくなり、長いまとめ記事と、インタビュー記事だけになった。時間的に余裕ができ、一つの取材に、それまでより時間をかけられるようになった。インプットとアウトプットのバランスがとても良くなった。記事の反響も大きくなった気がする。

こんなに面白い記者の仕事、やめたくない、と思った。

けれど再雇用も終われば、新聞には(定例的には)書けない。ならば、noteやKindleや、podcastに発表しようーーというのが現在の流れだ。

メディアをパラレルに始めているので、まさにパラレルキャリアなのだが、会社を離れてからも続けようとしているのは、決して「副業」ではない。本業を極めるための仕事、「ライフワーク」なのだと思う 。

書く仕事なので、いつまでも続けられ、会社の仕事をライフワークにしやすいのかもしれない。誰もがそうではないのかもしれない。営業や経理や、人事や総務の仕事は、ライフワークにできないのだろうか。そんなことはないはずだ。会社で培った技を使える場はある。それも、これまで以上に上手に。

目指すべきは副業でなく本業の延長。浮気でなく、本当の恋を全うすることだ。

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