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水滸噺 20年12月【徽宗はいつも気まぐれ】

あらすじ
宋皇帝徽宗 招安を志し
瓊矢鏃瓊英 子午山三顧の礼
林冲公孫勝 部下を案じ
北方水滸伝 実写化の大御礼


すいこばなし 注意書き
北方謙三先生水滸伝何でもありな二次創作です。
・水滸伝の原典ネタは日常茶飯事、スマホにPCなど電子機器も飛び交うし、あの人が梁山泊で元気に生きていたりする、異世界からお届けします。
・原作未読の方でも楽しめるように、ネタバレを極力避けていますが、薄々感づいてしまう個所が垣間見えますので、その点はご注意ください。
楊令伝編で出てくる好漢は、すなわち水滸伝を生き残った者ということですので、未読の方はその点ご留意いただいた上でお読みください。
・作者のtwitterにて連載しています。
・今月号、バックナンバーのご意見ご感想、リクエスト等々、こちらまで
 お寄せいただけると、とても嬉しいです!いつも助かっています!
・原作に興味を持たれるきっかけになったらこれ以上の喜びはありません。

それでは行ってみましょう!

梁山泊

梁山泊…雪もチラホラ降る季節になってきた。湖畔を見ながらの雪見酒も美味い。

騎馬隊

騎馬隊…お茶会を催したり鍋を囲んだりすることが多い。意外に仲良しなのか?

人物
林冲(りんちゅう)…食い意地をなんとかしろ。
索超(さくちょう)急先鋒(きゅうせんぽう)なのに控えめなのをなんとかしろ。
扈三娘(こさんじょう)…食卓でふんぞり返ってるのをなんとかしろ。
馬麟(ばりん)…気配り上手にほどがあるのをなんとかしろ。
郁保四(いくほうし)…巨体にもほどがあるのをなんとかしろ。

1.
林冲「…」
馬麟「林冲殿は」
林「なんだ」
馬「苺から先に食うのか」
林「好きだからな」
馬「…単純だな」
林「何が言いたい」
馬「なぜショートケーキに苺が一つだけ乗っているのか、考えたことのない者の言い草だぞ、林冲殿」
林「そんな事を考えてケーキは食わん」
張藍(私も考えたことない…)

馬「調和だ、林冲殿」
林「調和?」
馬「生クリームの舌触りと甘味。そしてスポンジケーキの歯触りと甘味」
索超(語るな、馬麟)
扈三娘(もう食べちゃいました)
郁保四(無粋な…)
馬「その両者の調和に苺の食感と酸味が加わるのだぞ、林冲殿」
林「そこまで言うならば俺が代わりに食ってやる」
馬「!」

馬「…」
林「やはり子午山で採れた苺だ。歯応えがある」
馬「…」
張「林冲様、馬麟殿の心のケアを」
林「なぜだ?」
馬「…」
郁(固まってしまった)
索(微動だにせんぞ)
扈(いいお茶ね、張藍)
張(それどころじゃ…)
馬「…」
林「女々しいぞ、馬麟」
馬「…食べ物の恨みで返すぞ、林冲殿」
林「?」

馬麟…林冲を見る目が血走り始めた。
林冲…みんなが帰ってから張藍と作戦会議。
張藍…だから軽率なことはやめなさいと言ったのに。
索超…騎馬隊のお茶会ではしょっちゅう冷や汗をかく。
扈三娘…ケーキもお茶も美味しかったから満足。
郁保四…ケーキに刺さってる旗を密かに集めている。

2.
馬麟「…」
林冲「すまなかった、馬麟」
馬「…」
林「馬麟!」
索超(馬麟が林冲殿を翻弄している)
郁保四(この場では林冲殿も馬麟殿の掌の上だ)
扈三娘(どっちもどっちですね)
林「馬麟!」
馬「…」
林「頼むから俺に肉をよそってくれ!」
索「野菜ばかりてんこ盛りだな」
扈(よそってはあげるのね)

索「鍋奉行鉄笛仙を怒らせたのが運の尽きだ、林冲殿」
郁「野菜も美味しいですよ」
林「肉をてんこ盛りにされた皿を持って言うな、郁保四!」
馬「直箸と他人の皿から奪うのはご法度だぞ、林冲殿」
郁「ご奉行様の言うことですからね、林冲殿」
林「おのれ!」
索「いただこうか」
扈(男は分からない)

索「よく煮えているな、ご奉行様」
郁「さすがです!」
林「馬麟。頼むから肉を」
馬「畑の肉で我慢しろ」
林「豆腐では力が出ん」
馬「そろそろ雑炊にしよう」
林「俺が肉を食う前に締めに入るな!」
索「卵もタンパク質ですよ、林冲殿」
郁「肉が美味い…」
林「やかましい!」
扈(でも暴れないのね)

馬麟…騎馬隊の鍋奉行でもあり焼肉奉行でもある。
林冲…ギャアギャア文句を言いながらなんだかんだで野菜も豆腐も全部食べた。
索超…俺の干物も焼いてもらいたいな。
扈三娘…我関せずと粛々と食べてた。
郁保四…彼がいると勝手に野菜が増し増しで出てくる。

3.
林冲「梁山泊で最強なのは誰だと思う?」
索超「また面倒な話題を」
扈三娘「林冲殿、と言ってほしいのですか?」
郁保四「扈三娘殿!」
馬麟「…」
林「たしかに俺は個人の武や戦において遅れをとる気はないが」
索「おや?」
林「他の分野でも最強であるとは思っていないぞ」
郁「意外とまともだ!」

林「…仕切り直して」
郁「」
馬(ここぞで隙を見せるからな、郁保四)
扈(生きてるならいいです)
林「索超は器用不器用だ」
索「気にしてることを…」
馬「だが騎馬隊には欠かせない男だ」
扈「私たちでマークした甲斐がありました」
索「なんだと」
林「馬麟と扈三娘は偏っている」
馬「…」
扈「…」

林「馬麟は鉄笛、扈三娘は戦しか取り柄がない」
馬「…」
扈「まるで林冲殿のようで光栄です」
索(また!)
林「郁保四は論外だ」
郁「」
索(まだ死んでいるのか)
林「結局騎馬隊最強は俺と言う結論になるのか」
馬「ならばそれを張藍殿に言ってこい、林冲殿」
林「!」
扈「まさか言えないのですか?」

林冲…張藍に最強の話をふったら私のことですかと即答された。
索超…武芸も指揮も料理も上手いけど、概ね二番手以降。
馬麟…鉄笛は一番。あとは女子力。
扈三娘…美貌は一番。女子力は皆無。
郁保四…林冲に懲らしめられた。

致死軍&飛竜軍

致死軍&飛竜軍…冬だろうが野営の多い部隊。一番寒いのは隊長の眼差し。

人物
公孫勝(こうそんしょう)…凍っているのではないかと思うほど極寒の見張りでも微動だにしない。
劉唐(りゅうとう)…自慢の赤毛が凍り付くのが気になる。
楊雄(ようゆう)…顔色はもともと悪いが、青ざめるともっと悪く見える。
孔亮(こうりょう)…懲らしめても独火星(どっかせい)に照らせば何とかなると思われている節がある。
樊瑞(はんずい)…筋トレ後の身体の湯気で粽を蒸せた。
鄧飛(とうひ)…鎖鎌の持ち手が冷たすぎて難儀してる。
王英(おうえい)…雪が頭上から降ってくるとかなりの確率で全身埋もれる。
楊林(ようりん)…雪で作る彫像の名手。やたら器用。

4.
公孫勝「…」
劉唐「寒くないですか、公孫勝殿」
公「…」
楊雄「絶対寒いですって、公孫勝殿」
公「…」
劉「なぜ俺たちと焚火に当たらんのですか?」
楊「樫の木を盛大に燃やして暖をとりましょう、公孫勝殿」
公「…いらん」
劉「なぜです!」
楊「風邪ひきますよ!」
孔亮(風邪じゃなくて病気だな)

劉「孔亮は野ざらしにしておきますから」
孔「」
楊「俺らと火にあたりましょう、公孫勝殿」
公「いい」
劉「…何かお気に召さないことが?」
公「温もりなど不要なだけさ」
楊「またそんな…」
公「…偵察に出る」
劉「一人で行かないでください、公孫勝殿!」
楊「俺が共に行きます!」
公「不要だ」

公「…なぜあそこまで世話を焼きたがるのだ」
?「…」
公「出てこい、一清」
一清「!」
公「いつまで私の懐にいるのだ」
一「♪〜」
公「早く出ないか、一清」
一「!」
公「…」
一「…」
公「誰に似たのか頑固な猫だ」
一「♪〜」
樊瑞「公孫勝殿?」
公「寄るな樊瑞」
樊「?」
公「歩むと死ぬ」

公孫勝…一清という猫にやたら懐かれている。いたら鬱陶しいが、いなくても鬱陶しい。
劉唐…寒空の公孫勝を探しにいって遭難。
楊雄…猫アレルギーを気にされて入ってこなかったなどつゆ知らず。
孔亮…冬空の火星に照らされた。
樊瑞…一歩も歩けず一夜を明かした。
一清…致死軍新兵より強い猫。

水軍

水軍…寒冷化問題を解消したもののやはり冬の湖畔は寒い。

人物
李俊(りしゅん)…水軍我慢大会脱落一番乗り常習犯。
張順(ちょうじゅん)…雪と見まがうほど身体が白い浪裏白跳(ろうりはくちょう)
阮小七(げんしょうしち)…酒が大好きだから調練前に一杯ひっかけてくることしばしば。
童猛(どうもう)…兄の童威よりも凝り性。湖畔の地図も凝りまくり。
項充(こうじゅう)…李応と飛刀の調練をしたら様々なフォームで投げられるようになった。
阮小二(げんしょうじ)…弟子の趙林が酒を覚え始めて難儀している。

5.
童猛「湖底の地図を作ってみた」
李俊「これで梁山湖の水深が分かるのか?」
張順「俺が確かめてくる」
童「作業中に宝を沈めておいたから、それを回収してきてくれ」
張「おう、面白そうだ」
張敬「俺も行きます、叔父貴」
阮小七「いったい何を沈めたんだ、童猛?」
李「…おや?」
項充「李俊殿?」

阮小二「よくできた地図だな」
趙林「この位置ですね、隊長」
順「一体どんな宝が…」
敬「潜りましょう、叔父貴」
阮「この紙は水の中でも読めるのか?」
趙「不思議な紙ですね」
順「行ってくるぜ」
敬「!」

李「…畜生、童猛の野郎、もしや」
項「何をこそこそしている、李俊殿?」
李「項充!」

七「宝はあったのか、張順」
順「だからお前らを呼んだ」
七「この酒は!」
童「李俊殿がこっそり仕入れていた南国の酒だ」
敬「相変わらずせこい真似しやがる」
二「言うまでもないが、お前たち」
趙「死んでも言いません」
童「飲もうか…」
敬「李俊殿にバレませんか?」
順「死ぬ時は一緒だ、敬」

童猛…李俊の隠し場所に濁酒を代わりに置いておいた。
張順…美味い酒を独り占めするとは。
張敬…今度李俊殿に説教してやりましょう!
阮小七…一気飲みしてひっくり返った。
阮小二…大人の飲み方を教えてやる
趙林…隊長飲み過ぎですよ。

李俊…調練で覚えてやがれ。
項充…飲みそびれて塞ぎの虫。

二竜山

二竜山…山の麓の映画館で超人気アニメ映画を見に行ったらしく。

人物
楊志(ようし)…全く他人事と思えなかったな。
秦明(しんめい)…息子の秦容が岩のような身体つきになってきた。
解珍(かいちん)…久しぶりに解宝と猟に行ってきて虎を仕留めてきた。
郝思文(かくしぶん)…息子の郝瑾と娘の郝嬌からの父の日プレゼントが嬉しかった。
石秀(せきしゅう)…曹正のソーセージの匂いが着物に付いた気がしてならない。
周通(しゅうとう)…地道にコツコツ己を鍛えるところは李忠に似た。
曹正(そうせい)…映画館にソーセージの営業に行ったが匂いが強すぎた。
蔣敬(しょうけい)…黄門山の面々と飲んでいたらすげえものを見た。
李立(りりつ)…いつかは掲陽鎮に帰りたい。
黄信(こうしん)…愚痴りすぎたら口が曲がる夢をみた。
燕順(えんじゅん)…清風山の面々で飲むときは無礼講だが王英は許さない。
鄭天寿(ていてんじゅ)…冬になると弟のことを思い出す。
郭盛(かくせい)…楊令と雪だるまを作った。
楊春(ようしゅん)…史進を雪に沈める罠を作った。
鄒潤(すうじゅん)…雪に埋もれてしまった時は瘤のおかげで発見された。
龔旺(きょうおう)…張清のデートが心配でしょっちゅう偵察に出ては石で撃退されていた。

6.
曹正「良い映画だったな」
楊志「うむ。まるで誰かの生き様を見ているようだった」
楊令「父上よりもかっこよかったです!」
志「なんだと!」
石秀(なぜか既視感を感じたのだが…)
令「父上と曹正殿は鬼の役です!」
志「断る!」
曹「大人気ないな、楊志」
志「私は令と共に闘いたい」
石「…承知」

曹「結局俺たちが鬼の役か」
石「豚鬼か?」
曹「操刀鬼だ」
令「鬼め!この吹毛剣で首を落としてやる」
石「まずは豚鬼の脂肪を滅多刺しにしろ、楊令」
曹「黙れ」
令「母上を離せ!豚鬼!」
曹「おのれ。楊令まで!」
済仁美「助けて、令!このままでは妓楼に落とされる」
曹「…」
石「痛い所を…」

令「青面獣の呼吸!一の型!」
曹「やってみろ!」
令「死域!」
石「なんだと!」
令「」
石「強い!」
曹「だてに楊志のせがれやってねえな!」
令「」
石「撤退だ!豚鬼!」
曹「操刀鬼だ」
令「逃がさん」
石「本当に死域に入ってやがる!」
曹「勘弁しろ、楊令!」

志「令が強くて出番がないぞ」

楊志…楊令と共に闘う日を夢見て今日も調練。
楊令…死域ですか?意外と簡単に入れました。
済仁美…本当に仲の良い親子で…

石秀…一体あの既視感はなんだったのだろう。
曹正…映画館にソーセージの営業に行ったついで。

7.
楊令「見ろ!白嵐!私の刀だぞ!」
白嵐「!!」
楊志「令。吹毛剣をどこへやった」
令「私は刀を使います!」
志「なんだと!」
令「炎の呼吸の使い手になるのです!」
志「せっかく私が作った吹毛剣を!」
令「だって父上の吹毛剣と違って、毛が断てないではありませんか」
志「しかたないだろう!」

令「私は炎の呼吸の使い手で、父上は鬼です」
志「青面鬼になって、お前も鬼にしてやろう!」
令「私は鬼になるなら魔神になります!」
志「大きく出たな、令!」
令「父上でも鬼になったら首を落とします!」
志「やってみろ!」
令「炎の呼吸、死域!」
志「私も!」
令「」
志「」
済仁美「あなた」

志「仁美も鬼にしてやろう」
令「母上!」
済「…雨の降る前に、私の着物を取り込んでいただけましたか?」
志「しまった…」
令「…母上が鬼に」
済「令。あなたの父上が私に食われる前に…」
令「すぐに取り込みます!」
志「死域で片付けるぞ令!」
令「はい!」
志「」
令「」
済「全く」
白「!」

楊志…死域に入ったものの、うっかり転んで取り込んだ洗濯物を台無しにしてしまった。
楊令…聖夜に買ってもらった刀で大はしゃぎ。
済仁美…夜用の着物が一枚紛れ込んでいたのに後から気づいた。
白嵐…人も獣も鬼も弱肉強食だな。

聚義庁

聚義庁…冬の寒さを吹き飛ばす企画を立案したのだが。

人物
晁蓋(ちょうがい)…冬の水浴びは欠かさない。
宋江(そうこう)…冬は布団が温すぎて出たくない。
盧俊義(ろしゅんぎ)…冬は大汗をかきながら辛い鍋を食う。
呉用(ごよう)…冬だろうが何だろうが深夜残業。
柴進(さいしん)…雪化粧の梁山泊に心を打たれて詩を吟じた。
阮小五(げんしょうご)…冬だろうが半そで半ズボンの元気者。
宣賛(せんさん)…覆面をクリスマス仕様にしたら大うけした。

8.
宋江「梁山泊大縄跳び大会が三日目を迎えた?」
盧俊義「やっている事も忘れていた」
呉用「酷いですな、盧俊義殿」
盧「死域に入っているのではないか?」
呉「もはや止めるに止められない状態です」
宋「よし、見に行こう」
盧「残っている軍は?」
呉「騎馬隊と致死軍と遊撃隊です」
宋「やはりな」

索超〜扈三娘林冲馬麟〜郁保四
劉唐〜公孫勝樊瑞孔亮〜楊雄
鄒淵〜史進杜興陳達 〜鄒潤

宋「鄒潤は助っ人だな」
盧「とんだトバッチリだ」
呉「杜興が死にそうです」
宋「生死を超越して戦っているのだ」
呉「よくこの齢でついて行ってますな」
盧「飛び手と回し手どちらが先に死域に入ったのだ?」

宋「遊撃隊が脱落したが」
盧「死域に入ったせいで気づいていない」
呉「薛永を呼びましょう」
宋「また騎馬隊と致死軍の一騎討ちか」
盧「両軍が死域に入ったら止めようがないだろう、呉用」
呉「妨害した者が死にます」
宋「両軍が飢えて死ぬのではないか?」
盧「やるだけやらせておくしかないな」

宋江…結局どっちが勝ったのだ?
盧俊義…まだやっているだと?
呉用…もう七日目で安道全のドクターストップが…

騎馬隊チーム…軒並み体重がガタ落ちし、機動力に磨きがかかった。
致死軍チーム…軒並み体重がガタ落ちし、機動力に磨きがかかった。
遊撃隊チーム…裸で飛んだ事を誰も突っ込まない。

三兄弟

三兄弟…李逵じゃないとできないタスクが山積み。主に日常だが。

人物
魯達(ろたつ)…背中を掻いてくれ、李逵!
武松(ぶしょう)…湯呑を粉砕してしまった、李逵。
李逵(りき)…自分があと何人いたら兄貴分の世話をまんべんなく焼けるのか考えない日はない。

9.
李逵「北京でどんな仕事があるってんだ、燕青」
燕青「少しめんどくさい仕事がある」
李「なら俺がそいつの首を取ってきてやろうか?」
燕「そういう仕事ではない」
李「なんだつまらねえ」
燕「しかし私が頼めるのは李逵しかいないんだ」
李「どんな仕事だ?」
燕「条件があってな」
李「なんだよ」

燕「板斧は使わない」
李「おう」
燕「しゃべってはいけないし…」
李「…?」
燕「酒を飲んでもいけない」
李「…それで俺は何ができるんだ?」
燕「仕事になれば分かる」
李「さっぱり分からねえ」
燕「行く先は…」
李「やけにでかい場所じゃねえか」
燕「北京で一番の所さ」
李「…何で俺が?」

武松「李逵は?」
燕「もう仕事場に行っているはずだ」

女「李逵ちゃん!炒飯大盛三人前!」
李「…」
女「ありがとう!」

武「ここは?」
燕「北京一番の大衆食堂さ」

女「李逵ちゃん!香料まだある?」
李「…」
女「ありがとう!」

武「たしかに板斧はいらん」
燕「喋れないし、酒も飲めない」

李逵…黙々と照れながらご飯を作り続けて今年最大の売り上げに貢献。
燕青…あの店の女将に気に入られて店の手伝いをさせられそうになったんだ。
武松…やけに美人の多い店だな。

10.
魯達「髪が伸びたな」
武松「切るか、兄者」
魯「李逵は?」
武「野草を摘みに行った」
魯「…お前だけか、武松」
武「善処はする」
魯「ならば武松」
武「どうした兄者」
魯「小刀の刃の向きが逆なのをなんとかしてくれ」
武「!」
魯「俺を切ったらお前の頭骨を陥没させるからな、武松」
武「…」

魯「もう既にお前の頭骨はこの世に残らんほど傷を負わされたな」
武「小刀がなまくらなのだ、兄者」
魯「研いでからやらんか」
武「分かった」
魯「今更研ぎ始めるな」
武「いかん!」
魯「今度はなんだ」
武「力が余って小刀を粉砕してしまったのだ…」
魯「李逵はまだ帰らんのか!」

李逵「兎だ!」

魯「小刀は残っているな?」
武「…あと一つだけ」
魯「もし小刀を粉砕したら、それがお前の頭骨だと思え」
武「兄者…」
魯「さっさとやれ」
武「…」
魯「…ようやくコツを掴んだか」
武「…!」
魯「…武松」
武「ごっそり落としてしまった…」
魯「どう落とし前をつける?」
武「俺も坊主になる」

魯達…血まみれになった挙句、魯智深に逆戻りした。
武松…坊主になってから魯達の拳骨が待っている。
李逵…帰ってきた時に相手を間違えたと思った。

文治省

文治省…書と印鑑のセクション。腱鞘炎注意。

人物
蕭譲(しょうじょう)…日常の字がもっぱら秦明の字になってしまった。
金大堅(きんだいけん)…印鑑よりも人形を掘りたい。
裴宣(はいせん)…聖夜の夜は嫁としっとり過ごす予定に、思わずにやけてしまった。

11.
金大堅「彫れない…」
蕭譲「今度は何が彫れんのだ?」
金「梁山泊の守り神として女神様を彫ろうとしているのだが」
蕭「おう、それはいい」
金「満足のいく顔と身体に仕上がらんのだ」
蕭「どれどれ…」
金「これだが」
蕭「…ずいぶんとお前の性癖が彫り出されとるのう、金大堅」
金「なんじゃと!」

蕭「小柄で幼い少女だのう」
金「無垢なかわいらしさを表現しておるのだ!」
蕭「もっと凛としているか、楚々としている女の方が良いではないか」
金「それがお前の性癖か、蕭譲!」
蕭「お前の像は所持していたら青蓮寺に摘発される代物ではないか?」
金「何を失礼な」
蕭「梁山泊の条例でも危うい」

金「梁山泊の守りの女神様を彫って、なぜ摘発されるのだ!」
蕭「モデルの問題だと言うとる!」
宋江「どうした二人とも」
金「宋江殿!」
宋「例の像はできているか?」
金「はい。こちらに」
蕭「宋江殿は一体どんな像を彫られたので?」
宋「絶対に覗くな」
蕭「」
宋「一度しか言わぬぞ聖手書生」

金大堅…そういえば、宋江殿から依頼された像も…
蕭譲…宋江の予期せぬ強い気に当てられて驚いている。

宋江…誰にも見せない戸棚の中には…?

塩の道

塩の道…燕青が焼いたクリスマスケーキは砂糖ではなく塩がまぶされていたという。

人物
盧俊義(ろしゅんぎ)…久しぶりに燕青をこっぴどく叱った。
燕青(えんせい)…だってどちらも白い粉ではないか…
蔡福(さいふく)…なめてんのか、燕青。
蔡慶(さいけい)…なめてねえからそんなことになるんだ。

12.
盧俊義「蔡兄弟の名前は」
蔡福「はあ」
盧「随分とめでたい名前だな」
蔡「私生活は福が逃げていくばかりですがな」
蔡慶「俺も慶事なんていつあったかですよ」
盧「なんだ、せっかくの聖夜だというのに」
福「我らは盧俊義様や燕青とは生態が違うので」
盧「確かに動力源が脂肪だものな」
福「…」

盧「なるほど。確かにしょっぱい塩のような仕事ばかりではなく、甘い砂糖のような仕事を任せても良いかもしれんな」
福「味はどうでもいいですから、我らから仕事を切り離してくだされ」
慶「たまには俺たちだって北京の聖夜をうろつきたいんですよ!」
盧「ならばついでに梁中書に歳暮を届けてこい」

福「梁中書の歳暮だと?」
慶「一体何をチョイスしたんだろう」
福「クリスマスカードも足してやるか」
慶「なんて書くんだ?」
福「十万貫也」
慶「本当に性格悪いな、兄貴」
福「俺が肥すのは私腹ではない。太鼓腹だ」
慶「大差ねえよ」
福「十万貫あったらどうする?」
慶「生辰綱には使わねえな」

蔡福…後ろで梁中書の密偵が全部聞いてた。
蔡慶…クリスマスどころか年末年始返上で尻拭いさせられた。
盧俊義…こういう隙があるからこの扱いなのだ。

梁中書…盧俊義から良い塩が贈られてきた。官塩にして荒稼ぎしようと画策したところを燕青に握られた。

朱貴・朱富のお店

朱貴・朱富のお店…お忍びで酒盛りするには絶好のお店。

人物
朱貴(しゅき)…魚肉饅頭を切らせたことは一度もないのが自慢。
朱富(しゅふう)…魚肉饅頭以外の魚料理も美味いんだがなかなか注文が来ない。

13.
魯智深「頭ひとつ出ていたというが」
朱仝「どうした魯智深」
盧俊義「なんの話だ」
魯「この面子だと頭ひとつでそうもないぞ」
朱「俺は梁山泊一の身長だ」
魯「いや、分からんぞ」
盧「騎馬隊の騎手に巨漢がいるかもしれん」
魯「むしろ髭だな、朱仝は」
朱「美髭公だからな」
盧「見事な髭だ」

盧「私は何が頭ひとつ出ている?」
魯「塩分」
朱「そこは知恵でいいのではないか」
盧「玉麒麟と呼ばれた頃はお前らに劣らぬ筋肉だったのだが」
魯「ほう」
盧「塩の道を率いてから太ったな」
魯「たしかに武もできるだろう、盧俊義」
盧「北京の商人で一番だ」
朱「それは惜しい」
魯「頭ひとつだ」

魯「巨軀で集まってみたものの」
朱「密度がすごいな」
盧「世が世なら摘発対象だ」
魯「我らは摘発されたら死罪では済まんだろう、盧俊義」
盧「その時は燕青がいる」
魯「俺を助ける者は誰だ?」
朱「向こう見ずな賊の頭領が無茶しそうだな」
盧「朱仝は?」
朱「俺の背中は雷横だ」
魯「梁山泊らしい」

魯智深…最近懲らしめた鎖鎌の使い手を思い出した。
盧俊義…燕青に担がれても平気なくらい痩せようと思った。
朱仝…鄆城で雷横と宋江と出会えた時は、高俅に感謝した。

間者

間者…盗みっこ選手権は毎度白熱する。顧大嫂の宝物や孫二娘の銀の髪飾りを盗んだ者の命は保証しない。

人物
時遷(じせん)…小柄で敏捷だから腕力には自信がない。内野の間を抜けるしぶといバッティングが持ち味。
石勇(せきゆう)…大柄だが武芸はそれほどでもない。彼らは隠密してなんぼ。
侯健(こうけん)…腕が長いからボクシングで有利。燕青に突きを習った甲斐があった。
孫新(そんしん)…顧大嫂にプロポーズした時の首飾りは一世一代の買い物。
顧大嫂(こだいそう)…ダイエット特集の雑誌を買い込んで久しい。気にはなるけどする気は更々ない。
張青(ちょうせい)…すべての事の発端は銀の髪飾り。
孫二娘(そんじじょう)…ここぞというときは銀の髪飾りをしている。

14.
時遷「俺が若い頃どうしても盗めなかった鎧がある」
石勇「頭領がですか?」
時「いつかお前が盗むことがあるかもしれんから、鎧を盗む調練をするぞ」
石「一体どんな鎧だったんで?」
時「クソやかましい鎧だ」
石「それは」
時「おまけに刺々しい装飾品が山ほど付いてて」
石「…」
時「やたら重い」

石「なんでそんな鎧を欲しいと思うんですか?」
時「男は面倒くさい物ほど好き好むもんだろう?」
石「女の話ですか?」
時「ノルマ追加だ、石勇」
石「しまった!」
時「身の毛もよだつ金属音がするパーツを加えてやろうか」
石「一体どこにそんなパーツが…」
時「毎週一冊販売される書のおまけだ」

石「こんなん着るやつの顔が見たいです、頭領」
時「林冲の同僚だ」
石「ああ…」
時「何を察している、石勇」
石「何も」
時「この緊急着脱ボタンは間違っても押すな」
石「これは鎧なんですか?」

石「…まさか本当に盗むことになるとは」
孫新「さすが石勇」
石「そこを触るな、孫新!」
孫「!?」

時遷…若い頃唯一盗めなかった鎧に未練たらたら。毎週発刊されるおまけ付き鎧雑誌が未だに完成しない。
石勇…金属音アレルギーになって久しい。あの鎧を着用している徐寧の顔を見ただけで背にじわりと汗をかいた。
孫新…賽唐猊発熱ボタンをうっかり押してしまってやけどした。

林冲さん家

林冲さん家…客間は嫁さんのお茶会の場だったり、バカの作戦会議場だったり色々用途がある。

15.
馬麟「…」
張藍「林冲様に苺を食べられてしまって拗ねてるの」
瓊英「それは」
金翠蓮「気の毒!」
馬「…なぜ俺がこの輪の中に?」
張「隊長の妻として、部下の心のケアは担わないと」
瓊「食べ物の恨みは恐ろしいですからね」
金「やるなら徹底的によ、馬麟殿」
馬「…」
張「また桃花山に送る?」

馬「そこまで怒ってはないが…」
張「済州のスイーツ屋に子午山の苺を卸したのは馬麟なのよね?」
瓊「本当ですか!」
金「瓊英?」
瓊「あの苺は近隣の果物屋からお菓子屋まで、血眼になって探している逸品なんです」
馬「さすが王進先生の作った苺だ」
張「禁軍師範から苺農家になったの、王進殿?」

金「子午山って果樹園なの?」
馬「主体ではない」
瓊「焼物もやってますよね」
馬「王進先生が」
張「いつから苺を作り始めたの?」
馬「いつからだったかな…」
張「まあ鮑旭殿曰く、馬麟が品種改良にとても熱心だったって話だけど」
金「そうなの!」
馬「鮑旭!」
瓊「いいではないですか馬麟殿」

馬麟…顔色を苺のように赤くしながら、苺栽培の苦労話を始めた。
張藍…意外に甘党なのよね、馬麟。
瓊英…私も子午山に行って販路を開拓する予定です。
金翠蓮…あっという間に売り切れるのよ、あの苺ケーキ。

16.
安道全「なぜ私たちに?」
林冲「俺では解決できん問題だからだ!」
白勝「安道全に聞いても大差ないと思うぞ」
安「そうだな。この手の話題は白勝の縄張りだ」
林「馬麟の苺を食べたばかりに…」
白「まずお前は他人の皿の飯を食うのを慎め」
林「食ってないなら良いのではないのか?」
白「これだ」

白「俺たちはお前のように見境なく他人の飯は食わんな」
安「私の皿の上の肉を狙ってないか、林冲」
林「どうせ食わんのだろう?」
安「お前の速さで食わんだけだ」
白「好物を最後に食べたい奴だっているんだからな」
林「考えられん…」
安「よくそれで張藍殿を嫁にできたな」
白「まるで分からん」

林「おのれ貴様ら!」
白「張藍殿の目が曇っていたとしか思えんな」
安「ヤキが回っていたのではないか?」
林「張藍に対してその言い草は許せん」
白「酔っていたか、ノリだったか…」
安「その点は張藍殿に詳しく聞いてみたいものだ」
張藍「私の意思です。お二人とも」
安「」
白「」
張「何か?」

林冲…結局なんの話だったかどうでもよくなった。
安道全…まあ似た者同士だな。
白勝…いつからスタンバイしてたんだ。
張藍…林冲様の良い所を聞きたい?三日眠れませんよ?

鄆城

鄆城…豪放磊落な将校が今日も若い兵を相手に飲んでいる。

17.
柏世「…雷横殿」
雷横「まだ泣いてるのか、柏世」
柏「…好きだったんですよ」
雷「仕方ねえ。一杯付き合ってやるから来い」
柏「いえ、そういう訳には…」
雷「ならしゃんとしやがれ!」
柏「…よろしくお願いします」
雷「飲め」
柏「…」
雷「話してみろ、柏世」
柏「半年でした…」
雷「そうか」

柏「笑って別れたはずなんですがね…」
雷「笑って別れて、一人になって泣く。いいじゃねえか」
柏「よくないですよ」
雷「彼女にはてめえのベソかいた面じゃなくて、笑った顔が残ってるんだろう?」
柏「…まあ、そうですね」
雷「別れってのは突然だからな」
柏「雷横殿も?」
雷「軍人だったらな」

柏「俺もそうですね」
雷「ああそうだ。男は死に場所は選べないが、死に方は選べる」
柏「…まだ死にたくないです」
雷「当たり前だ。だが、いつ死ぬか、いつ別れるかなんてのは俺たちには分からん」
柏「…」
雷「だから最後は笑って別れよう、柏世。お前はそれができた」
柏「…」
雷「それでいい」

雷横…最後は笑って死にたい。
柏世…最後は雷横と笑って帰った。

掲陽鎮

掲陽鎮…李俊にはなんだかんだで子分が多い。人材は豊富だが兵と船が足りないのはいつものこと。

18.
童威「おう、兄貴」
李俊「また走ってきたのか」
童「まあな」
李立「お前は足も速いし船も漕げるんだな」
童「掲陽鎮の男なら当然だ」
俊「馬も乗れるだろ?」
童「勿論だ、兄貴」
立「歩兵も騎兵も水兵にもなれるじゃねえか、童威」
童「確かに!」
立「器用なやつだよ」
俊「童猛はどうなんだ?」

童猛「俺も兄者と同じくらいのことは出来るが」
威「こいつは一つのことをとことんやる方が得意だな」
俊「そこは似てねえんだな、お前ら」
猛「かもしれねえ」
威「俺は飽きっぽいからな」
俊「もし俺が水軍の頭になるようなことがあったら?」
威「手下になってもいいが、俺は歩兵も騎兵もやりてえ」

俊「俺はどちらかというと童威と同じだ」
立「俺は童猛と似てるかもしれねえ」
威「そういう所あるよな、二人とも」
猛「俺はもっと器用になりてえ」
威「俺はもっと技を極めてえよ」
俊「穆弘と穆春はどっちだと思う?」
立「奴らか…」
威「俺じゃねえな」
猛「俺でもねえぞ」
俊「奴らは奴らだな」

童威…掲陽鎮きってのオールラウンダー。
童猛…掲陽鎮きってのプロフェッショナル。
李俊…掲陽鎮きっての闇塩商人。
李立…掲陽鎮きっての人を見る目。

少華山

少華山…史進が来てからというもの、何もかもが変わってしまった。

19.
史進「…」

楊春「史進はなにをしているのだ?」
陳達「自身の日頃の行いを見直しているらしい」
楊「何を今更」
陳「九紋竜と対話することで神機を得ようとしているそうだ」
楊「それは兄者の十八番ではないか」
陳「俺も手遅れにも程があると思うが、見てて面白けりゃいい」
楊(陳達兄貴も、既に…)

史「…」

陳「まだ神機を得られねえそうだな」
楊「無駄なことを…」
朱武「俺だって簡単に神機軍師を名乗ったのではないぞ」
陳「そうだよな」
楊「史進が神機を得たらどうなると思う?」
朱「変わらん」
陳「裸族が裸族である事を自覚した所で着物を着る方向に舵は切らんだろう?」
楊「違いない」

史「!」
陳「どうした史進。少華山の兵の乳首の数を数え損なったのか?」
史「全部数えた」
陳「そうか」
楊(陳達兄貴も手遅れだな)
朱(今知ったことじゃない)
史「ついに神機を得たぞ、皆」
陳「ほう」
史「神機賢者史進だ」
朱「神機で得たものは?」
史「手遅れならば開き直るまで」
楊「そうか」

史進…手遅れでも俺は変態ではない。
朱武…羞恥の神にでもなればいい。
陳達…最近俺の扱いが酷いのはなぜかな?
楊春…変態と普通が二人づつの現状に危機感を覚えている。

雄州

雄州…落とし穴に落ちる関勝の悲鳴は風物詩。

20.
関勝「今日の穴はひときわ深いな!」
宣賛「なぜこうも容易く穴に落ちるのです」
関「穴の落ち心地を確かめてやってるのだ」
宣「今日のはどうでしたか?」
関「藁が少ない!もっと落ちる者の身になって穴を掘れ、宣賛!」
宣「罠なんですけど」
関「いいからさっさとはしごをよこせ!」
宣「それが」

金翠蓮「この今にも引きちぎれそうな縄はしごしかないんです」
関「なぜもっと頑丈なはしごを用意せんのだ」
宣「そもそも落とし穴に落ちた者の救済を考えて掘ってないんですが」
関「こんなに深い穴を自力で這い上がれるわけがないだろうが!」
宣「このはしごは私なら支えきれましたから大丈夫です」

関「余計な動きをしたらすぐに引きちぎれそうなはしごだ」
宣「無心になるのです、関勝殿」
関「…」
宣「そういえば、関勝殿」
関「…」
宣「欲しい書物があるのですがね」
関「…」
宣「あいにく銭が足りないのですよ」
関「…」
宣「この書物があれば、軍学講座の意義が…」
関「黙ってろ!宣賛!」

関勝…叫んだ途端にはしごが引きちぎれた。
宣賛…雄州軍の皆を呼んできます。
金翠蓮…絶対わざとやってるのよね、宣賛様。

子午山

子午山…冬は厳しい季節。王母様のお吸い物で目覚めよう。

人物
王母(おうぼ)…冬でも元気なパワフルお母さん。
王進(おうしん)…目覚めの悪さを克服しようとして死域。

21.
張平「楊令殿!朝ですよ」
楊令「…寒い」
張「楊令殿!」
楊「あと半刻…」
張「剥きますよ!」
楊「剥かないでくれ…」
張「見苦しいですよ、楊令殿!」
楊「なんとでも言え…」
張「このっ!」
楊「寒い!」
張「おはようございます、楊令殿」
楊「…おはよう、張平」
張「今日も見苦しかったです」

楊「見苦しいところを見せた…」
張「寒くなってから毎日のように見ています」
楊「聞いてくれ、張平」
張「どうぞ」
楊「あれは私ではない」
張「じゃあ誰ですか?」
楊「私の幻だ」
張「ずいぶん実体のある幻ですね」
楊「その幻は私から起きるという選択肢を奪い取るのだ、張平」
張「なるほど…」

楊「だからたとえ朝起きる時に私が見苦しい姿を晒していたとしても、私の幻だと思って見逃してくれよ、張平」
張「幻でしたら、王母様の朝餉もいりませんね?」
楊「!」
張「寝起きの見苦しい楊令殿の幻を祓うためには空腹が一番だと王母様に伝えておきます」
楊「もう起きているではないか、張平!」

楊令…寝起きの自分の幻との立合いにどうしても勝てない。
張平…寝起きの楊令なら多分勝てると思っている節がある。

王進…まどろみから覚める途中で死域。
王母…寝ながら死域入りしているいい歳になる息子を一喝。

青蓮寺

青蓮寺…総帥は仕事に純粋だが、他の部門でも純粋らしい。

人物
袁明(えんめい)…師走の末はいつも大きな靴下を買い込む。
李富(りふ)…白髪頭はサンタさんっぽいかもしれないが、声がしゃがれすぎている。
聞煥章(ぶんかんしょう)…間が悪すぎるのだ、こいつは。
洪清(こうせい)…師走の末は悩みが深くなるらしい。
呂牛(りょぎゅう)…聞煥章の間者になってから、運気が急降下している。

22.
袁明「今年も終わりに近づいているな、洪清」
洪清「…」
袁「この一年も梁山泊を相手に誠心誠意仕事に邁進してきた」
洪「…」
袁「私の一年間の働きを、あのお方は必ず見ていてくださる事だろうな、洪清」
洪「…」
袁「フレッシュマンと見間違う真紅の衣装に身を包み贈り物を授ける老人」
洪「…」

洪「…」
女将「洪清さん、いつもの?」
洪「頼む」
女「浮かない顔してるじゃない」
洪「…」
女「大盛りにしておくから、元気出して」
洪「…もしも主君が」
女「ご主君が?」
洪「サンタクロースを信じていたとしたら?」
女「…その内気づくんじゃない?」
洪「蔡京と同い年でも?」
女「おっと」

洪「…」

呂牛「…あれは、洪清」
聞煥章「さっさと行くぞ、呂牛」
呂「なぜ相国寺の市を一人で?」
聞「袁明様は?」
呂「一人だ」
聞「護衛の任はどうしたのだろう」
呂「面白そうだ」
聞「殺されるぞ、呂牛」
呂「…おや、見失った」
聞「なんだと?」
洪「話がある」
呂「」
聞「」
洪「地下へ」

袁明…十二月は毎年ソワソワしている。靴下もキチンと用意してあるという。
洪清…あまりにサンタの隠密度が高すぎるせいで気づくに気づけないままここまで来てしまったという。

聞煥章…想像を絶する仕事を依頼されてしまった。
呂牛…とんだとばっちりだ…

23.
聞煥章「えらいことになった」
呂牛「観念しろ、聞煥章」
聞「私の義足の音で起こしてしまうのではないか」
呂「もう草鞋を履かせてあるから安心しろ」
聞「馬ではない!」
呂「あと枚を噛め」
聞「兵でもない」
呂「今から音を立てることは死を意味する戦だ、聞煥章」
聞「…分かった」
呂「行くぞ」

袁明「…」
聞(なんと緊張感のある寝室だ)
呂(早く終わらせるぞ、聞煥章)
袁「…」
聞(律儀に赤い靴下をぶら下げてある)
呂(音を立てるな、聞煥章)
袁「…洪清」
聞「!!」
呂「!」
袁「…喉が渇いた」
文立「…ただいま」
聞(連れてきてよかった)
呂(心が毀れるかと思った)
袁「鼠がいるぞ、洪清」

聞(馬鹿な!)
呂(隠れろ)
袁「…洪清?」
洪清「はい」
聞(洪清!)
袁「鼠がいるぞ」
洪「それは、殿」
呂(義足をどけろ、聞煥章)
聞(無理だ)
洪「気のせいです」
袁「…」
洪「…」
袁「そうか。気のせいか」
洪「…」
袁「それとだ…」
洪「…」
袁「報告か、聞煥章?」
聞「!」
袁「その衣装は?」

袁明…今年の真紅の衣装に身を包んだおじいさんの正体が聞煥章だと思っていない。
聞煥章…やり直し、ですか?
呂牛…トナカイの格好。名前は牛なのに。
文立…水を汲むふりしてとんずら。
洪清…明日再チャレンジしろ、聞煥章。

禁軍

禁軍…宋国の歴史を学ぶ調練で居眠りする者が続出した。

人物
童貫(どうかん)…若いころの苦労はあまり思い出したくない。
趙安(ちょうあん)…フレッシュマンのルーツを心に刻み込んでいる。

24.
趙安「フレッシュ!」
公順「趙安殿?」
何信「寝言でもフレッシュマンの啓蒙をされているとは、さすが趙安殿」
公「一体どんな夢を目見ているのでしょう」
趙「フレッシュ…」
何「おや?」
趙「フレッシュなど笑止…」
公「趙安殿?」
趙「数多ものフレッシュマンの命運もここで終わりよ、王安石」

公「趙安殿!起きてください!」
何「待て公順」
公「なぜです!」
何「ちょっと面白くないか?」
公「確かに」
何「ヤバそうになったら起こすぞ」
趙「フレッシュマンは永久に不滅だ、司馬光!」
公「司馬光?」
何「旧法党の長だ」
趙「フレッシュマンなどキモいだけだ、王安石」
何「白熱してるな」

趙「旧法党の方がはるかにキモいぞ、司馬光」
公「そうなのですか?」
何「起きたら聞いてみよう」
趙「フレッシュマンの光は国を照らす光だ!」
公「趙安殿!」
何「大丈夫ですか?」
趙「…夢を見ていた」
公「どんな夢を?」
趙「新法党の皆が旧法党の面々に追放される夢だ」
何「なぜそんな夢を」

趙安…旧法党の衣装は悪趣味極まりなかったぞ。
公順…こんな意匠が本当にまかり通っていたのですか?
何信…やはりおかしいな。この国は。

25.
童貫「書を読む調練を行う」
鄷美「そんな!」
畢勝「書を読むのが嫌だから、禁軍を志望したというのに!」
童「…武挙にも筆記試験があったはずたが?」
畢「私は体力試験のみで合格した経緯があります」
鄷「私も地方軍では体力のみ評価されていました」
童「こんな由々しい問題を抱えていたとは…」

童「将校はどうだ?」
李明「書を読む調練ですと!」
馬万里「文字を見るだけで蕁麻疹が」
陳翥「私は筆を握るだけで湿疹が」
韓天麟「俺は脳裏に文字を思い浮かべるだけで頭痛が」
童「貴様ら本気で言っているのか?」
李「それが…」
馬「我ら一同、書に触れるのが嫌で禁軍に入りました!」
童「…」

童「あの脳筋どもに知恵をつけるための書物はないか、侯蒙、許貫忠?」
侯蒙「兵法書はいかがですか?」
童「私が兵法だ、侯蒙。兵法書など不要」
侯「…」
許貫忠「ならば四書五教は?」
童「私が寝てしまった」
許「…」
侯「ならばこの書はいかがですか?」
童「替天行道?」
侯「敵を知るのです」

童貫…泣きながら一気に読んでしまった。
鄷美…筆記試験は壊滅的。
畢勝…文書伝達が壊滅的。
李明…公順に借りた漫画は読む。
馬万里…筆の持ち方がヤバい。
陳翥…開封府以外の街を知らない。
韓天麟…帝の名を知らない。
侯蒙…梁山泊入山パンフレットを取り寄せた。
許貫忠…どっちもどっちでは?

26.
童貫「本日の調練は梁山泊を想定した模擬戦を行う」
鄷美「はっ!」
童「我が軍と相対する梁山泊軍の面々は誰がやる?」
鄷「私が林冲をやります!」
畢勝「いえ、私が林冲を」
李明「ならば私は関勝を」
馬万里「抜け駆けか!李明!」
童「…禁軍を担う者は?」
陳翥「…」
韓天麟「…」
段鵬挙「…」

童「どこの軍の者だ、貴様ら」
李「先日許貫忠殿の開催された、替天行道朗読会に心を打たれたもので」
馬「敵を知るためには自身が敵を演じるところから始めようと考えました」
童「ふむ」
鄷「よって私が林冲を」
童「林冲は私だ」
鄷「そんな!」
畢「誰もがやりたい役を」
童「お前は董平だ、鄷美」

童「調練始め」
鄷「双槍将鄷美だ!」
畢「なんの没羽箭畢勝見参!」
許貫忠「結局全員が梁山泊の面々になって調練ですか?」
童「お前は呉用だ」
李「大刀李明!」
馬「霹靂火馬万里!」
童「皆が溌剌としている」
許「豹子頭元帥…」
童「突撃」
鄷「元帥の騎馬隊が!」
畢「黒い甲胄まであるぞ!」

童貫…豹子頭元帥と言われて少し嬉しかった。
鄷美…槍を二本なんて使えたもんじゃない。
畢勝…礫なんて当たらないぞ!
李明…青龍偃月刀が重い。
馬万里…狼牙棒が重い。
陳翥…弓の名手だが花栄ほどではない。
韓天麟…双鞭は勝手が分からない。
段鵬挙…大斧が重い。
許貫忠…しまったミスを連発。

楊令伝

遊撃隊

遊撃隊…実写化の知らせに驚いたのは作者だけではないはずだ。

人物
班光(はんこう)…私たちが実写化されるか賭けませんか?
鄭応(ていおう)…ならないに銀5粒。
葉敬(しょうけい)…俺まで持たないに銀5粒。

27.
史進「調子が悪い」
班光「どう調子が悪いのですか?」
史「何かしっくりこんのだ」
班「確かに今日の調練もあまり乗り気ではありませんでしたね」
史「迷いがあるのだ…」
班「史進殿が?」
史「着物を着るべきか、脱ぐべきかの…」
班「迷うまでもありません」
史「すけべ小僧め」
班「違います!」

史「脱ぐ一択とは。潔いまでのすけべだな、班光は」
班「私を口実にしないでください!」
史「葉敬!」
葉敬「は!」
史「着脱パターンCだ」
葉「了解!」
班「…」
史「決まった」
葉「見事です、史進殿」
班「…」
史「…」
葉「…」
史「寒いな…」
葉「冬ですし」
史「…着よう」
葉「そうですな」

史「やはり調子が悪いぞ、班光」
班「脱ぐ時は溌剌としていたのに…」
史「貴様が脱がんから調子が悪いのか?」
班「シシハラです!」
史「その言葉を聞くだけで湿疹が…」
班「史進殿の湿疹?」
史「何が言いたい、班光」
班「湿疹が史進殿の調子を乱しているのでは?」
史「お前のせいではないか!」

史進…ここ一番で湿疹が痒くて力が抜けるのだ。
班光…失神するまで厳しい稽古を課された。
葉敬…着脱パターンは108通りある。

28.
鄭応「史進殿の棒が年々細くなっているな…」
班光「ついに去勢されたのですか!」
鄭「…武器の棒のことだ、班光」
班「」
鄭「聞いたのが俺だけでよかったな、班光」
班「…くれぐれも内密に」
鄭「チクる気もねえよ」
班「なぜこんなリアクションをしてしまったのだ…」
鄭「やはり毒されているな」

班「鄭応殿に弱みを握られてしまって…」
花飛麟「どんな?」
班「とても口に出しては言えません…」
花「また史進殿でつまらない事を言ったのだな」
班「…否定はしません」
花「そういえば、史進殿が棒に代わる新しい武器を模索されていたな」
班「棒ではないなら、竿ですか?」
花「班光」
班「…」

班「いつから私はこんな破廉恥になってしまったのだ…」
史進「元からだ、むっつり班光」
班「史進殿!」
史「己の卑猥さを直視できず苦しんでいるな」
班「私は卑猥ではありません!」
史「そういう奴に限って、すけべな事で頭がいっぱいなのだ」
班「!」
史「しかし俺は卑猥な事で悩みはしないぞ」

班光…えっちな妄想で頭がいっぱい。もうダメかもしれない。
鄭応…班光の下ネタはエグいんだよな。
花飛麟…私の裸体を眺める視線が嫌らしすぎるんだ。
史進…やれやれ。後進を導くのは結局俺か。

29.
史進「やはり調子が悪い」
班光「湿疹のせいですね」
史「塗るものはないか、班光」
班「ハンドクリームなら」
史「なぜそんなものを携帯しているのだ」
班「ささくれたくないんで」
史「貴様はささくれどころか、もう来るところまで来ちまった尻のイボだ」
班「いちいち言い方が嫌です!」
史「笑止」

史「ハンドクリームではない。湿疹に塗る薬だ、班光」
班「キンカンなら持ってるんですが」
史「貴様の巾着袋には何が入っているんだ?」
班「リップクリームや絆創膏などが」
史「女みたいな周到さだな」
班「褒めてるんですか?」
史「結局持ってないのか、班光!」
班「皮膚科で処方してください」

史「そういう中途半端さが副官止まりである理由だぞ、班光」
班「史進殿にマッチした塗り薬なんて持ってません!」
史「使えん」
班「葉敬なら持っているのでは?」
史「持っているか、葉敬?」
葉「水虫の薬なら持ち歩いてますけど」
班「史進殿が御立腹だぞ!」
葉「これでいいなら」
史「…助かる」

史進…冬になって湿疹やら水虫やら刺青の跡やら色々痒いところが増えた。
班光…エグいですね…
葉敬…使い切らないでください!史進殿!

30.
史進「カット!」
班光「もうやめてください史進殿!」
史「ならば俺の納得のいく演技を見せろ!」
班「どうしてこんなことに…」
史「俺の伝説を実写で放映することになったからだ」
班「なぜ史進殿が史進殿を演じないのですか?」
史「俺の人生の戯曲を俺が演じてどうする!」
班「監督したいのか」

班「…ついにこの場面が」
史「これは戦だぞ、班光」
班「戦の方がまだましです」
史「配置につけ!」
班「…」
李瑞蘭「班光ちゃんが史進なの?」
班「ご足労ありがとうございます」
史「葉敬!」
葉敬「鄒淵殿を演じきってみせます!」
史「鄭応!」
鄭応「班光を殺す勢いで奇襲します」
史「よし」

葉「敵だ!史進!」

班「したたか」李

鄭「奇襲!」
班「いかん!」
李「史進!」

史「カット!」
班「なぜです!」
史「なぜ着物を片手に飛び降りてきた」
班「!」
史「一からやり直しだ」
班「…本当に、すっ裸で?」
史「言うまでもない」
李「抜き差ししてたけど、抜き差しならなかったから」

史進…実写版の自分の場面のできに期待している。
班光…私たちが実写化する時は来るのでしょうか。
葉敬…期待薄だな。
鄭応…出たらかえって驚くぞ。
李瑞蘭…したたか場面もどこまでやるのかしら。

31.
班光「史進殿!」
史進「どうした班光。そんな絶望したかのような声を出して」
班「なぜ脱ぐのですか!」
史「おっと」
班「シシハラカードを!」
史「落ち着け班光」
班「もう史進殿の尻を見るのも限界なんです!」
史「分かった。それではなぜ俺が脱ぎ始めたのかを聞かせてやろう」
班「いいです!」

史「それは九紋竜を彫ったからだ」
班「…でしょうね」
史「九紋竜の史進だ!と名乗っておきながら、着物を纏っていたら全く分からんだろう?」
班「最悪竜のアップリケを自慢していると思われそうです」
史「だから最低でも半裸にならないと九紋竜を名乗れんのだ」
班「それでは…」
史「分かったな」

班「史進殿が九紋竜を彫る前はどうだったのですか?」
史「鋭いな、班光」
班「なぜ九紋竜を彫ろうと思ったので?」
史「…昔はよく脱ぐ子どもだったのだ」
班「今もです」
史「だから裸小僧とか脱ぎ捨て坊やとか不名誉なあだ名で呼ばれていた」
班「…」
史「そこで閃いた」
班「竜を彫れば良いと…」

史進…子どもの頃から着物がまどろっこしくてな。渾名の由来を身体に彫ればいいと考えたのだ。
班光…脱ぎたいがために身体を張りすぎでは?

年末特別編

32.
徽宗「梁山泊の好漢を見てみたい」
高俅「無理です、陛下」
徽「つまらんことを言うな」
高「奴らは賊徒ですぞ」
徽「それをなんとかしろ」
高「招安しますか?」
徽「しよう」
高「…即答ですか、陛下」
徽「何をためらう必要がある?」
高「奴らにその気があるか…」
徽「その気にさせるのだ、高俅」

宋江「高俅からの密書が届いた」
林冲「今すぐ燃やしましょう、宋江殿」
宋「招安の申し出だぞ、皆」
盧俊義「なぜそんな書を読むのだ」
宋「無論そんな口車に乗る気はないが」
呉用「ならばなぜそんなウキウキしているのですか?」
宋「梁山泊一武道会を開けと勅命も一緒に届いたのだ」
呉「勅命?」

呉「本当に勅命が…」
林「俺たちは勅命の外にいるから従わなくていいだろう」
公孫勝「ほう。梁山泊で武芸を競うのに遅れをとるつもりか」
林「なんだと」
呉「…ちょっと待ってくれ、林冲」
林「呉用殿?」
呉「私のように武芸以外に自信のある者は何を競うのだ?」
林「…知力を?」
宋「なるほど」

徽宗…梁山泊から返答が来たのか?
高俅…それが思わぬ返答が届き…

宋江…全員の公平を期した競技にしよう。
盧俊義…一体どんな競技が…
呉用…武芸以外ならば出番が…
林冲…武芸の方が分かりやすいと思うが。
公孫勝…お前のような脳筋ばかりではないのだ、梁山泊は。

33
林冲「それで結局梁山泊の面々で何を競うことにしたのですか」
宋江「武芸でも智略でもない」
呉用「ならばなんですか」
宋「これだ」
公孫勝「箸?」
宋「皿の豆をもう片方の皿に移す競技」
林「それは」
宋「公平な勝負ではないか?」
盧俊義「指が少ない私は?」
魯達「腕が一本の俺は?」
宋「…」

晁蓋「せっかく我らも無理をして来ているのだからもっと派手な競技にしてくれ」
楊志「武と智を得意とする者が組になるのはどうでしょう」
宋「さすが楊志」
晁「では武を得意とする者は私」
盧「智を得意とする者は私の所に集え」
宋「…」
晁「どうした宋江」
宋「私はどちらに入ればよいのだ?」
 
高俅「結局競技一つ決められぬ有様です」
徽宗「…」
高「陛下」
徽「朕は心打たれた」
高「どの点に?」
徽「梁山泊一人一人の良さを活かさんと種目決めに苦悩する宋江達の絆に」
高「…」
徽「梁山泊を招安せよ。勅命である」
高「陛下」
徽「なんだ」
高「今日は巨大花石綱が」
徽「ではそちらだ」

宋江…何も決められないまま年を明かした。
晁蓋…何をするでもなく帰った。
盧俊義…この面々を統率できるのは宋江殿しかいないな。
林冲…武でいい。
公孫勝…武でいい。
呉用…智でいい。
魯達…武でいい。
楊志…武でいい。

徽宗…顔に見える花石綱で爆笑。
高俅…結局どうでも良くなったか。

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中学生の頃から大好きだった、北方謙三先生大水滸シリーズのなんでもあり二次創作です!