「はたらく」ってわるくない。初バイトで広がった世界
はたらくことへの不安から始めた100本のスプーンでのアルバイト。思慮深く一生懸命な彼が、100本のスプーンでのアルバイトを通して得られた自分自身の変化についてお話を聞いてみました。
初アルバイトは飲食店でと決めていた
ー100本のスプーンが初アルバイトだったんですよね。当初よりぐっと大人っぽくなりましたね。
入った当初は高校卒業したばかりでしたね。それまで親や学校の先生以外の大人とまともに話す機会はなかったし、コミュニケーションにも自信がなくて。でもアルバイトは飲食店で、と決めていて豊洲店オープニングスタッフ募集のタイミングで面接を受けました。
ーそもそも大人と話すこと自体、はじめは緊張しますよね。飲食店で働きたかったのはどうしてだったんですか。
これまで学校という小さい世界のなかに居たので、外の世界に対してビビっているところがあったんですけど、それを払拭したい、見識の幅を広げたいと思っていて。アパレルや専門性が高い分野だと、ある程度おなじ嗜好の人たちとしか触れ合えないだろうなって。そうではなく、多様な人がいる場所として、飲食店、そしてファミリーレストランがいいなと。
ーものすごくよく考えてアルバイト選びをしていたんですね。
任されることで得られたモチベーション
ー実際入ってみてどうでしたか?
まず面接のとき、はじめは店長と1対1だったのに、どんどんギャラリーが増えて最終的に数人の大人に囲まれながら面接するっていう状況で(笑)でもそのときのフラットな雰囲気や気さくな感じを受けて「あ、ここなら大丈夫かも」と。働き始めてからも、それぞれのペースに合わせて教えてもらったので場になじむことができました。いや、初バイトで当初は失敗もたくさんしましたけど…。
ー失敗エピソード、聞きたいです。
まずグラスを運ぶ練習をしたときに、トレンチの持ち方も不慣れで、パンパンに入れた水を先輩の肩に思いっきりかけちゃったり、お客さんのドリンクを倒したこともありました。それでも急かされたり責められたりすることはなくフォローしてもらいながら、慣れていきました。
ーそんなももちゃんが今や、ドリンカーとしてポジションを任されてますもんね。100本のスプーンでは学生スタッフにも各ポジションを積極的にやってもらっていますが、責任を重く感じたりはしないですか?
いや、逆にポジションを任せてもらえて、戦力として捉えてもらえているというところがモチベーションになります。それぞれの適正を見て任せてもらえている感じがあるし、意見も言いやすい環境なのでチームとして動きやすいです。
多様な人々と接することで広がった視野
ー変化や成長を感じる場面はありますか?
顕著に感じるのが、お子さまと接しているときですね。子育てしている人が周りにいないのではじめは苦手意識があって、全然目も合わせてもらえなかったんです。でも最近は笑ってもらえることが増えて、赤ちゃんに触られることもあります。これは明らかに自分自身の変化だなと。
制服着て働いていると、スタッフがロボットみたいに見えちゃう瞬間があると思うんです。でもそれはこちら側がお客さまにどう接するかで変わってくるんだなと、コドモたちを見ていて思いました。
ーがるさんもよく触られてますもんね。コドモは接する相手がオープンマインドかどうかって、すぐに見抜きますもんね。意識していることはあるんですか。
日々ファミリー層と接していると子連れで食事する大変さを感じるので、サービスするときにお皿やグラスの位置を気遣ったり、いまなにが大変なんだろうって意識するようになりました。視点が多くなったんだと思います。
この間、風船を持ってテラス席でお食事しているお父さんがいたんですけど、すごく食べ辛そうにしていて、でももし飛んでしまったら大変なことになるだろうな…なんて思って風船が割れないようにブランケットで抑えて飛ばないようにしたら、快適にお食事してもらうことができました。
ーお父さんの立場にたっての行動だったんですね。これまで100本のスプーンでの2年間で、ももちゃんの世界は広がりましたか?
はじめは「はたらく」っていうことに対する不安を払拭したい気持ちが強かったんですけど、やってみて、はたらくって悪くないなって今は思っています。オープニングから一緒にチームをつくってきた感じとか、ガチで働いてる大人たちの中に混ざって仕事できていることが楽しいし、自分のなかの世界が広がったと思います。
ー少しずつ自分の世界を広げているももちゃんの成長がますます楽しみです。
撮影:藤﨑杏菜
取材・執筆:本間菜津樹