夜中の電車③

目覚めてからかなり時間が経ったように思う。思うとしか言えないのは車窓からの景色はずっと真っ暗で何も変わらないからだ。そしてあいにく僕は時計を持ち合わせていなかった。車内をもっと観察してみよう。他に特にやることもないのだし。
内装は阪急電車にとてもよく似ていた。ただ、二車両しかない。運転席を覗いても誰もいなかったが不思議と恐怖を感じることはなかった。なんとなく、正しいあるべきタイミングで電車はブレーキを踏むだろうと確信していた。とにかく記憶を取り戻さなければ。もしかして僕は死んでしまったのだろうか。銀河鉄道の夜によく似た状況に思わずそのような考えが頭をよぎる。まあただ今は体が動いているしこうして考えることができる。そもそも生と死など最初から曖昧な境界でしかない。他者の死は惜別を伴うから苦しいものかもしれないが、自分の目線で見たら死というのは認識可能かどうかもわからない不可触の領域なのだ。決して想像の枠を超えることはない。だったら好きなように死を定義していいはずである。人々は死を無闇に恐れすぎている。
そんなことを考えていると、電車が徐々にスピードを落としていることに気づいた。よく見ると橙色の電灯の明かりが見える。もしかしたら駅についたのかもしれない。やがて電車は完全に停車し、ドアが開いた。


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