【インキのひみつ】「100年ドラえもん」のこだわりを訊きます。
こんにちは! ドラえもんルームです。
今ある最高の技術によって、
ドラえもんが誕生する22世紀の未来まで、
『ドラえもん』のコミックスを届けたいという想いからスタートした、
てんとう虫コミックス『ドラえもん』豪華愛蔵版 全45巻セット「100年ドラえもん」のプロジェクト。
その制作現場から情報をお届けしていきます。
前回の「印刷編」に引き続き、「100年ドラえもん」のブックデザインを担当する名久井直子さんにお話を伺っていきます。
今回のテーマは「インキ」です。 (聞き手:佐藤譲)
その名も、サタンブラック!
ーー印刷用インキの原料は、顔料とワニス。顔料が発色のためのもので、ワニスは顔料を用紙に定着させる働きを担っている・・・・・・今回の取材をするにあたって調べて、初めて知りました。
日本中で様々なインキが作られていると思います。今回の「100年ドラえもん」の本文では、どのようにインキを選んだのでしょうか?
名久井:
インキ選びは、実は、すぐに決まりました。
「100年ドラえもん」は「より良いもので、より未来へ残そう」という方針なので、2020年の今、一番強いと思われる黒を提案しました。
その名も、サタンブラックです。
ーーサタンブラック・・・・・・!
名久井:
2013年に登場した漆黒度の高い墨インキです。同時発売のデビルブラックというインキもあります。
ーーいずれも悪魔的なネーミングですね・・・・・・!
名久井:
段違いにまっくろなインキなので、一択でした。
一番大事なのは、藤子・F・不二雄先生が描かれた漫画『ドラえもん』の中身なので、なるべく美しく表現できるように、という意図です。
サタンブラックとデビルブラックの細かな違いについて製造元の株式会社T&K TOKAさんに伺ったところ、「サタンブラックは標準品(赤口)、デビルブラックは青口となり、暖色系、寒色系の絵柄により使い分けていただいております」ということでした。
サタンブラックで印刷した「100年ドラえもん」版1巻より。出力線数アップとの相乗効果で、描線がくっきりと、ベタ部分は鮮やかに印刷されています。
サタンブラックの実力とは?
ーーどんなときに使われるインキなのでしょうか?
名久井:
黒を綺麗に出したいものがあるときに使います。
たとえば、絵本だったら、「すごく黒色が重要な夜のシーン」に使うイメージです。
ーー普段、あまり色について考えていないので、黒にもいろんな黒があるんだ、ということが驚きです。
名久井:
インキって粒子でできていて、つぶつぶなんですね。その粒子が大きかったり、あるいは、小さかったり、様々な要因で、インキの性質が決まってきます。
ものの光を吸い込むと、黒になります。サタンブラックは、光の吸収が大きいインキで、他のものよりも、より黒く見えます。
ーーサタンブラックの黒を、仮にジュースで例えると?
名久井:
ジュースで例えると・・・・・・サタンブラックは、目の前でフルーツを搾ったそのままの100%ジュース、というくらい濃度が高い黒です。
ーーだんだんとサタンブラックの実力が分かってきました。通常のてんとう虫コミックスでは、プロセスブラックという一般的な黒インキが使われています。「100年ドラえもん」でサタンブラックにすることで、どんな変化が出るでしょうか?
名久井:
サタンブラックの墨が綺麗なおかげで、階調が濃いところと明るいところの差が、もっと今までよりもはっきりと出ています。これによって、F先生が描かれた原画にはあった奥行きを、より一層、本の中でも出せると考えています。
ーー出来上がりを見るのが楽しみです! 次回は「紙」についてお聞きします。
ドラえもんルームより
初めて試験的にサタンブラックで『ドラえもん』を印刷してみたとき、鮮やかさに仰天しました。「印刷編」でご紹介した「150線という線数の高さ」と相まって、線がキリッとして、F先生が描かれた絵が細かいところまで見えるのです。皆さんもきっと驚かれることと思います!
ちなみに、インクじゃなくて、インキ? と思った方へ。インキを製造している企業へ取材をしたところ、ボールペンや万年筆などに使用されている液状のものは「インク」、印刷会社を経由して印刷されるものは「インキ」と呼ばれる事が多いようです。インクとインキの表現の違いについて、はっきりとした区別や違いはありませんが、印刷業界では「インキ」と呼ぶそうです。
©藤子プロ・小学館