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【印刷のひみつ】「100年ドラえもん」のこだわりを訊きます。

こんにちは! ドラえもんルームです。

今ある最高の技術によって、ドラえもんが誕生する22世紀の未来まで、てんとう虫コミックス『ドラえもん』を届けたい!
そんな想いからスタートした、
てんとう虫コミックス『ドラえもん』豪華愛蔵版 全45巻セット「100年ドラえもん」のプロジェクト。

「100年ドラえもん」には、どんな技術が詰まっているのでしょう?
100年先の未来まで本を届けるって、どういうことなのでしょうか?

「100年ドラえもん」は絶賛制作中。その制作現場から情報をお届けしていきます。
前回に引き続き、『100年ドラえもん』のブックデザインを担当する名久井直子さんにお話を伺っていきます。
今回のテーマはズバリ、「印刷」です。(聞き手:佐藤譲)

前回記事はこちら。

 

印刷とは、物質のこと

ーー印刷について、私にはほとんど知識がありません。家にインクジェットプリンターがあり、C・M・Y・Kと書かれた4色のインクのどれかが燃料切れのたび、買い足しています。ですが、どんな仕組みで印刷がされているかは考えたことがありません。今回は、そんな私にも、「100年ドラえもん」の印刷の凄さが分かるように、教えていただきたいと思っています!

名久井:
昔、プリントゴッコという、小さな印刷機が家庭に普及したことがありましたよね。

ーーああ! 家にパソコンとプリンターがない時代に、プリントゴッコで年賀状をつくったことがあります。毎年、インキやランプを購入していた記憶があります。

名久井:
プリントゴッコは、孔版印刷の一種です。孔版の「孔」とは穴のことで、版に孔(あな)を開けて、そこからインキを擦りつけます。
 私は中学生の時に、プリントゴッコでCMYK分解した版をつくって、フルカラー印刷をしていました。なので、私は小さい頃からCMYKって知っていて、馴染みがあります。

ーープリントゴッコは、もともと『ごっこ遊び』からのネーミングらしいですが・・・・・・。名久井さんの遊びは、だいぶ変わっていますね。それにしても、今のプリンターに比べると、プリントゴッコはずいぶん手間がかかった記憶があります。

名久井:
印刷をすることって、物質のこと、なんですよね。データではなくて、物体があることなんです。そもそも、紙の本が、物質かつ工業製品です。だからこそ、大量の本を、事故なく、機械で形にして、お客さまへお届けするまでうまくいくことが、商品としての本の大前提になります。

ーープリントゴッコをやっていたときは、よくランプが切れてやり直しとか、インクが切れてやり直しとか、様々なミスがありました。今の家庭用印刷機でも、印刷ミスはたまにあります。

名久井:
連綿と受け継がれる技術が、日本各地の印刷会社さんにあります。私たちが読む本は、どんな本もその恩恵を受けています。


出力線数による変貌

ーー「100年ドラえもん」の印刷が、これまでの『ドラえもん』と違うところを、ひとつ教えてもらえますか?

名久井:
出力線数です。通常のてんとう虫コミックスは133線に対して、「100年ドラえもん」は150線で作っています。線数は、印刷の精細さを表す尺度で、単位はlpi(lines per inch)です。つまり、1インチの中に、いくつ線が引けるのか、です。

ーー線数が高い・低いで、どんな違いがあるんでしょうか?

名久井:
高い数字であればあるほど、綺麗になります。たとえば、新聞の印刷は線数が低いものです。新聞に掲載される写真を見たら分かりやすいですが、ファッション雑誌に比べて、すごく粗いですよね。ファッション雑誌は線数が高いです。
 ただ、線数の高さは青天井ではなく、印刷の制約や、版の制約があります。「1000線にすればいいんだ!」というと、そういうことではありません。

ーー『ドラえもん』が、133線から150線へ。数字としてはあまり変わった印象はないのですが、どんな違いがあるんでしょうか?

名久井:
線数が上がっている分、より細かく印刷ができます。「細かい」ということは、濃淡の差がなだらかに出せるんです。藤子・F・不二雄先生が描かれた原画の濃淡の塩梅が出やすくなります。

ーー第1巻でいうと、違いが分かりやすいコマはどこでしょうか?

名久井:
99ページのタイムマシンのコマが一目瞭然だと思います。実際にお手元に届いたら、是非、見比べていただきたいです。

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「100年ドラえもん」は、すべてオリジナル原稿からスキャンした最新データをもとに作られています。そのうえで、印刷の出力線数を133線から150線にしたことで、濃淡がなだらかになっています。

名久井:
線数が低いと、黒から白までのグラデーションが、極端に言うと、「黒・濃いグレー・薄いグレー・白」のように段階がガクンガクンとなっちゃうんです。線数が高ければ高いほど、なだらかにステップを踏めて、綺麗にうつります。

ーー133線から150線への変化は、数字でいうと少しの変化ですが、実際に目にすると大きな違いですね!
 次回はインキについて伺いたいと思います。


ドラえもんルームより

「100年ドラえもん」のこだわりとして、出力線数が大きく違うのが特徴のひとつです。モノクロのまんがは「2値化」といって黒白がパキッと分けられているんですが、グレースケールになっている漫画には階調があります。同じモノクロの印刷ですけれど、ページによって違うんですよね。
 階調のあるグレースケールのほうを150線で印刷にしたことにより、階調がなだらかに出ています。また、2階調になっている完全に黒白が分かれているほうのページも、150線で刷るとエッジがシャープに出ています。出口を150線にしていることで、どちらに対しても、より情報量が多いものになっているのが特徴です。
 数量限定生産の「てんとう虫コミックス『ドラえもん』豪華愛蔵版 全45巻セット『100年ドラえもん』」。第1期の予約締切は8月31日(月)です。詳細は公式サイトをご覧ください!