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「登場キャラクター索引」で、掲載キャラクター総数が2800を越える理由をお伝えします。

 藤子・F・不二雄先生が描き、ご自身で掲載作品を選び、順番を決め、時に原稿に加筆修正された、てんとう虫コミックス『ドラえもん』1巻〜45巻。ドラえもんルームはこの45巻と徹底的に向き合い、『引くえもん』を制作中です。てんとう虫コミックス『ドラえもん』豪華愛蔵版 全45巻セット「100年ドラえもん」の特典として付きます。
 前回の取材では、「阿井上男」が「登場キャラクター索引」でトップに来ると思っていたら、まさかの3番目だった、という驚きの声も徳山編集長の口から出ました。

 今回は、「登場キャラクター索引」について、さらに詳しく伺います。取材に答えてくれるのは、前回に引き続き、ドラえもんルーム編集長の徳山さん、『引くえもん』を制作しているライターの秋山さん、目黒さんです。 (聞き手:佐藤譲)

※掲載するページ見本の画像は、いずれも、現在編集中のものです。最終的な実物とは異なる場合があります。


対象は「役割を果たしている」キャラクター

ーーそもそも、ドラえもんルームでは、『ドラえもん』の登場人物をこれまでにリスト化したことはなかったのですか?

徳山:
 もちろんリスト化はしてきました。
 たとえば、『Fライフ』の第2号(2014年)に、「オールキャラクター名鑑」というページがあります。その企画は、『ドラえもん』だけでなく、『藤子・F・不二雄 大全集』を対象にしたものでした。

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秋山:
 ただし、『Fライフ』では、名前が付いている人物を中心にしていたので300名ほどでした。今回は、てんとう虫コミックス『ドラえもん』1巻〜45巻に絞っているとはいえ、名前が付いていない登場人物にも広げているので、膨大です。

徳山:
 ひみつ道具を使用した際に影響を受けるおじさんや、犬や猫も数え始めたので、最初は山の高さがぜんぜん見えませんでした。


ーーおじさん、犬や猫・・・・・・、「登場キャラクター索引」では、そこまで射程に入るんですか・・・・・・。

目黒:
 お話の中で「役割を果たしている」人や動物や事物を数え上げています。

徳山:
 セリフがなくても、表情だったり、リアクションだったり、何かお話のために役割がある人は、「全部、指さそう!」と話しました。


ーーそして、2879名の登場キャラクターがいた、と。
 F先生が、それだけの登場人物を生み出した、ということですよね。それが凄い。

アジも、イシダイも、早目優も、はる夫の本を運んだ車も!

ーー「お話の中で役割を果たしている」ということの、具体例を教えてください。

徳山:
 31巻に「海坊主がつれた!」というお話があります。
 とある出来事を経て、のび太のパパと、パパの友だちは釣りで決闘をすることに。一緒に釣りに行き、まずパパの友だちがアジを釣り上げます。そのアジも、「登場キャラクター索引」には入ります。


――え?

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「登場キャラクター索引」より「アジ」。

徳山:
 アジは、のび太のパパの友だちに釣られるという役割を果たしていますから。
 そして今度は、パパがイシダイを釣ります。もちろん、そのイシダイも入ります。パパに釣られるという役割を果たしたので。

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31巻「海坊主がつれた!」より。のび太のパパがイシダイを釣り上げる一コマ。

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「登場キャラクター索引」より「イシダイ」。

ーーアジやイシダイの釣られるという役割・・・・・・。一つ目の具体例で、「登場キャラクター索引」づくりの途方もなさが分かってきました・・・。

徳山:
 ぼくらは感動しています。というのも、そのイシダイの目は、ちゃんとF先生が描くキャラクターの目をしているんですよ!
 残念ながら、パパの友だちが釣るアジは角度的に目が見えないんですが、ピチピチしているアジの動きが見事に描かれている。F先生の絵の力です。


ーー続けて、「登場キャラクター索引」をパラパラとめくっていたら、早見優さんならぬ「早目優」というキャラクターも入ってくるんですね。

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「登場キャラクター索引」より「早目優」。

徳山:
 セリフの中で文字で登場するキャラクターです。
 前回お話しした「阿井上男」と同様に、『ドラえもん』の世界には、必ず、早目優はいます。当然、「登場キャラクター索引」でも引けるようになっています。


ーー同じ「は」行のところで、「はる夫の本を運んだ車」というものもあって、衝撃的なんですが。

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「登場キャラクター索引」より「はる夫の本を運んだ車」。

目黒:
 お話の中で役割を果たしているので、客観的な仮の名称を付けています。


ーー車ですよ?

目黒:
 役割を担っている車なので、「登場キャラクター索引」の対象となります。

徳山:
 そういうことです。

状態の異なるのび太が引ける!

ーーちょっと頭がクラクラしてきました。「登場キャラクター索引」ののび太くんのところで、箸休めをしていいですか。

徳山:
 どうぞ、こちらです。

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「登場キャラクター索引」より「のび太」の一部。「のび太」は10ページ以上にわたって関連キャラクターが掲載されています。


ーーえっ!? 延々と色んな「のび太」が続くんですが・・・。

秋山:
 ここでは、状態の異なるのび太を入れてあるんです。


ーー状態の違うのび太・・・!

徳山:
 ここを読むと、たとえば、のび太は2回犬になっていて、1回うさぎにもなっていることが分かります。

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「登場キャラクター索引」より「のび太」の一部。

徳山:
 「顔も頭もどうでもいいパワー全開ののび太」もいます。
 全部、のび太です。

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「登場キャラクター索引」より「のび太」の一部。


ーーますます、単なるキャラクター索引じゃないことが分かってきました。

徳山:
 たとえば、「のび太がガキ大将になるお話ってなんだったっけ?」と疑問に思ったとします。
 そんなとき「登場キャラクター索引」を引けば・・・

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「登場キャラクター索引」より「のび太」の一部。


ーーいた! ガキ大将ののび太!

徳山:
 すると、2巻の「ゆめふうりん」というエピソードを読みに行けます。
 うすぼんやりと、「こんなキャラクターいたなぁ」というものは、必ずこの索引の中に入っています。名前がついていないものは、できるだけ客観的な言葉で付けて、あいうえお順にしているんです。

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「登場キャラクター索引」より「のび太」の一部。


ーーちょ、ちょっと待ってください。「午前9時ののび太」「午前10時ののび太」も入ってくるんですか?

秋山:
 メインの時間軸ののび太以外の、それぞれの時間ののび太を入れています。

徳山:
 9巻に収録されている「のび太ののび太」というエピソードを読んだら、よく分かると思います。

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「登場キャラクター索引」より「のび太」の一部。


ーーのび太から離れられなくて恐縮ですが、また気になるものが・・・・・・。しずかになったのび太、ですか!

徳山:
 しずちゃんになったのび太は、のび太です。「登場キャラクター索引」では「のび太」に入ってきますよね。

目黒:
 何故、のび太はしずちゃんになったんだろう? 
と気になりますよね。


ーーのび太だけで、ずっと見ていられますね。

徳山:
 のび太は『ドラえもん』のエピソードに全て登場する唯一のキャラクターです。ちなみに、レギュラー登場ののび太は別表にしてあります。こちらです。

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「登場キャラクター索引」より「頻出キャラクター登場話一覧」の一部。

ーー全話の中で、レギュラーキャラクターがどこで出ているか、が分かるんですね。

秋山:
 『ドラえもん』って誰が主人公の漫画か? という問いを立てると、やはり、のび太なんですよね。てんとう虫コミックスの全822話のエピソードで、一話も欠かさず出てくるのはのび太だけですから。
 ドラえもんがいない回というのもあるんです。ドラミちゃんが活躍する回で。
 ただし、現在作成中の「頻出キャラクター登場話一覧」にはカバーや総トビラも含めているので、最終的な登場回数はドラえもんに軍配が上がっています。

徳山:
 こういう表は、初めてつくりました。表を見ていて思うのは、F先生は、こんな風に『ドラえもん』を描いているんだ、ということです。
 ドラえもんとのび太のあとは、しずちゃん、ジャイアン、スネ夫、とこの順番で登場回数が多い順なんです。
 そして、そのあとに、のび太のママが続く。


ーーやっぱり、ママなんですね。その印象はあります。

徳山:
 野比家以外でも、ジャイアン、スネ夫、しずちゃんそれぞれのママが頻繁に登場します。しずかママでも50回以上登場するんですよ。
 逆に、ジャイアンやスネ夫のお父さんはなかなか登場しないレアキャラとも言えます。


あいうえお順索引の醍醐味

ーーアナウンサーの方もたくさんいますね。

徳山:
 名前の出るアナウンサーは、ひとりだけいて、「亜部アナウンサー」という方です。


ーーたしかに、よく見ると、名前が書かれていますね。

徳山:
 アナウンサーの欄を眺めているうちに、「亜部アナウンサーが出た36巻の『酒の泳ぐ川』って、どんな話だったっけ?」と疑問が出てきます。


ーー気になるサブタイトルですね。

徳山:
 そして、亜部アナウンサーを眺めていたら、右隣にいる「あばら谷二郎」くんに目が行く。そうすると、5巻の『重力ペンキ』を読みたくなりますよね。

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「登場キャラクター索引」の「あ」の項目の一部より。


ーーあばら谷くんの弟ですね。印象に残っています。

徳山:
  そして、「あばらや」には、「あばら谷」という名字と、「あばら屋」というお菓子屋さんがあります。


ーーあばら屋というお菓子屋さんは、私は意識したことがありませんでした。

徳山:
  アナウンサーを眺めていたら、いつの間にか、あばら谷くん一家が登場する『重力ペンキ』を読み、そして、お菓子屋さんのあばら屋へ。こういう、新しい『ドラえもん』の体験ができるのではないか。これは、あいうえお順の索引の醍醐味なんじゃないか、と思っています。

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「登場キャラクター索引」の「あ」の項目の一部より。


ーーたしかに、国語辞典の面白さって、そういう偶然の新しい出会いですね。

徳山:
 インターネットの検索は、語句を知っているときに調べることには向いているんですが、偶然の出会いは少なくなりましたよね。
 あいうえお順の索引って、全く無関係なんだけれど、名前が近いことで、隣で目に入っちゃって、新しい探索が始まる、みたいなことが起きやすいと思います。


ーー手触りがいいので、色んなページをめくっていたくなります。

徳山:
 紙でパラパラめくる、という行為をしながら、思いもかけない出会いや、自分の記憶との再会があるのではないか。
 ぼくたちもそういう状態で読むのがすごく楽しみなんですよ。


F先生が描いたものをすべて数えきる

ーー引き続き、制作を頑張ってください! ちなみに、「登場キャラクター索引」を制作している中で、徳山さんの新しい気づきはありますか?

徳山:
 登場人物たちをひとりひとり確認しているなかで、「これは作者のF先生が、描いているんだよな」ということを改めて意識させられます。


ーー絵を通して、F先生の意思を感じるんですね。

徳山:
 F先生が描いたものだから、ひとつひとつ数えなければ。そうして、「登場キャラクター索引」は膨大な数になりました。

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ーーたまたま今「は」のところを読んでいたら、象の「ハナ夫」が登場しました。ハナちゃんも。

徳山:
 どう見ても、F先生の象、としか言いようがない象ですよね。


ーー「花で音楽を奏でるユリの新種」も出てきますね。

徳山:

 F先生が描くキャラの花、としか言いようがありません。こういう登場人物たちを見逃さずに、「登場キャラクター索引」に入れています。


ーーありがとうございます。いつまでも話が尽きませんね。笑
 今回は「登場キャラクター索引」で掲載キャラクター総数が2879となった理由の一端を知ることができました。次回は、「ひみつ道具名索引」と「サブタイトル索引」についてより詳しくお聞きしたいと思います。

©藤子プロ・小学館