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老人とアライグマ

 幼稚園へ行っていた頃にスーパーカーの消しゴムが流行った。元々は、当たりくじが出たらヌンチャクが貰えるガチャガチャのハズレだったのが、ハズレの方が流行ってしまったものらしい。
 消しゴムと云ったって、それで擦っても一向消えない。黒く汚れるばかりである。だから本当は消しゴムではない。消しゴムのような何かである。

 スーパーカーブームが落ち着くと、今度はウルトラマンの消しゴムが流行った。
 最初に手に入れたのはブラックキングという怪獣だった。その時分にはまだウルトラマンもよく知らなかったから、名前を知ってもピンと来ない。
 暫くはそれ一つきりしか持っていなかったけれど、ウルトラマンがわかってくるにつれて、段々消しゴム人形も増えて来た。

 ある時、やっぱりガチャガチャで、ウルトラマンキングが出て来た。
 ウルトラマンキングはウルトラマンの爺さんである。爺さんでは格好が悪いから、そんなに大事にしていなかったが、伊神君の家へ遊びに行ったら随分羨ましがられた。そうして、自身のコレクションのどれかと交換してくれと云う。
 云われて見ても、伊神君の持っている内にあんまりこちらの欲しい物がない。
それよりも、部屋の電灯にぶら下がっている小さなぬいぐるみが気になった。アライグマだった。
「じゃあ、これとかえっこでもええ?」
 そう言ってアライグマを指したら、伊神君は顔を輝かせた。そんな物でいいのかと云った感じである。
「ええよ!」

 アライグマはその日からずっと、自分の家の電灯にぶら下がった。
 今は家を建て替えて電灯の紐がなくなったのでトイレに飾ってある。飾ったのは母だけれど、伊神君の家から来た物だとは、もう忘れているだろう。


よかったらコーヒーを奢ってください。ブレンドでいいです。