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オタフクソース VS つけてみそかけてみそ

郷里の広島を離れて随分久しいが、最低限の矜持として冷蔵庫にオタフクソースは常備しておくようにしている。

過日、小腹が空いたので食パンを食べようと思ったら、バターを切らしていた。

しまった、迂闊だったよ、何で焼く前に確認しなかったかな、あぁ、ダメだ、こんなことをしているから自分はダメなんだ、と深く反省しながら苦肉の策でオタフクソースを塗ってみたら、死ぬほど美味かったので驚いた。

単に食パンにオタフクソースを塗ったもの以上の何かがそこに現れた。

あんまり美味かったものだから、翌日このことを職場で同僚に教えてやった。

すると数日後にこの同僚が顔を曇らせて、「君にはすっかり騙されたよ。全体、君は味覚がおかしいぜ? ともかくもう金輪際、君の言うことは信じないからそのつもりでいたまえよ」と随分心無いことを言ってきた。

そんなバカなことがあるものかと思って仔細に話を聞いていくと、そもそもオタフクソースを使っていないとわかった。家にあったナンタラお好みソースを使ったという。

おいおい、自分はオタフクソースと食パンの素敵な関係を紹介したんだぜ? 勝手にアレンジしたものが不味かったとか言われてもそれは知らんさ、全体君はオタフクソースを侮っているようだね? あの光り輝く、清らかなオタフクソースを、そんじょそこらのソースと一緒にしないでくれたまえ、と言ってやったら、同僚は「うぬ〜」と言った。

元来情趣を解さないつまらない人物ではあるが、ここまでうんこ人間だとは思わなかった。結局その後オタフクソースで試したかどうかは知らない。勝手にすればいい。

今日、このオタフクトーストをまた食らおうと思って冷蔵庫を開けたら、『つけてみそかけてみそ』が目についた。妻は生粋の名古屋っ子なので、これをいつも常備しているのだけれど、なんだかオタフクソースに真っ向から挑んでいるような不敵さがある。

「ふふん、面白いじゃァないか」とそう言って、1枚の食パンにオタフクソースと半分ずつ塗ってみた。

みそパートも思ったよりは美味かったが、やはり「食パンに味噌を塗った味」を超えるものではない。気の毒だが所詮「1+1=2」のレベルで、オタフクソースに比肩し得るものではなかった。

もう満場一致でオタフクソースの勝ちだったが、それを言うと夫婦げんかが勃発しかねないので黙って食った。西を向いて食った。



よかったらコーヒーを奢ってください。ブレンドでいいです。