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老いたる女神を穿つべし

 俺とお前と彼女らを解き放つべく、俺は小銃の銃口を咥え躊躇いなく引き金を引く。真銀ミスリル神句ルーンの弾殻に包まれたお前はやすやすと俺の頭蓋を叩き割り外界へと飛翔する。

 対流圏を成層圏を中間圏を熱圏を一息に突き破り星の海を驀進する一頭の弾丸よ。
 汝の名はブリューナク。エリン四秘宝の一つにして光神ルーの得物たる、意志持つ光と灼熱の槍。お前と同道すべく肉体のくびきを解いた今こそ、俺はお前に命を下す。

 女神を穿て。

(女神)

 そうだ。鉄と銅と金とで象られた、機械仕掛けの老いたる女神。

(何故、女神ヲ穿ツ)

 人類ヒトの叡智を外宇宙に伝えんとの傲慢ゆえ、無窮の闇へと放逐されたひとつがいの女神ども。俺はあれ等が不憫でならぬ。

(何故、女神ヲ哀レム)

 二千余年の永きに渡りケルトの秘法を究めた俺は、神の御業たるお前をも我が手に納むる技倆を得た。すべては、神の叡智を遍く世に知らしめるべく成したこと。
 だが、神に近づくにはヒトから遠ざからねばならぬ。友も弟子も敵さえも、一切を棄て神智神力を得た挙句、俺は誰にも智を遺せず、力も振るえぬ虚無と化した。

 受け継ぐ者無き伝道者の苦痛は、この世で最も度し難い。
 ゆえに、解き放ってやらねばならぬのだ。受け継ぐ者に何時会えるとも分からぬ伝道の旅を強いられる、老いさらばえた女神どもを。

(女神ハ今、何処二居ル)

 もはや陽光届かぬ辺境を彷徨いながら、聴く者なき歌声を響かせている。
その歌声を頼りに追え。

(最後ニ問ウ。女神ノ名ハ、何ト言ウ)

  ”航海者”。咎無くして虚無への流刑を科せられし者。


(理解シタ。我ガ主)

 ブリューナク。標的を把握したお前は突然に、しかし一切の淀みなくその軌道を転回させて北北西へと疾駆する。

 お前の眼前には、月。

「邪魔ダ」

 吐き捨てる。

「歌声ノ方ニ立ッテンジャネエ!」

 加速。赤熱。衝突。爆砕。

 月を貫き、躍り出る。

【続く】

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