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ロストジャイヴ

 仕事を邪魔されるのが大嫌いだ。俺が四気筒を駆るこの夜のハイウェイのように、何事も滞りなく片付けたい。



「「「クタバレ運ビ屋ァー!!!」」」

 下卑たがなり声の三重奏。火球を吐き出す音三つ。
 着弾。全て躱す。二つは路面を爆砕。一つはクルマを吹っ飛ばす。焼け焦げた廃車を轢き潰して迫る馬鹿でかいバギーの駆動音。
 野郎は確か三つ首ガロシェ。八雲会最高幹部我島ガシマの子飼い。
 
 そう、我島。今回のヤマの依頼主。

(積荷は会頭オヤジ遺体ホトケです。くれぐれも粗相の無きように)
 我島のツラが脳裏に浮かぶ。金縁眼鏡の糸目野郎、目の奥が嗤っていやがった。


 糞が。仕事の邪魔だ。

 

「ジュディ!」
「イエスボス」 
 単車のAIに叫ぶ。色も素っ気も無い返答。
「切り返せ。奴を消し炭にする」
「イエスボス。私も辟易していたところです」

 自動操縦にシフト。路面に円形の焦げ跡を残してスピンターン、半身の姿勢でシートに立ち真正面からバギーに突っ込む。
 バギーの座席に仁王立つ醜悪な巨体。首と胸と腹の三つの顔がげたげた嗤い大口を開けた。口奥に灯る火球の光。
 瞬間、俺は自分の頭をメットごと掴みフルスイングで投擲した。再び単車に跨がりバギーとすれ違う。
 爆薬を詰め込んだ特注品のデュラハンヘッド。そいつがガロシェの火球とカチ合う。
 
 閃光。爆音。爆炎。振動がびりびり空気を伝う。対岸のガラス張りのビルが橙の炎に煌めいた。
 玉屋タマヤ


「ボス。緊急事態です」
 停車してスペアヘッドを装着する俺を、上擦った声でジュディが呼ぶ。
「馬鹿か。とっくに緊急事態だ」
「七秒前に積荷の中身が変化しました。原因は不明です」
 
 悪態を吐くのも忘れて後部座席に括り付けた死体袋のジッパーを引き下げる。
 肥えた小男の遺体の代わりに居たのは、それより更に小さい黒髪の女児。小さく寝息を立てている。


 
 八雲玲那。死んだ会頭の愛娘。
 先月、俺が運んだ遺体。


【続く】