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小川洋子「完璧な病室」

 2024/05/18読了。
 小川洋子初期の短編集4つ。孤児院を経営する両親の元に生まれた人物二人が重要な役割を担う物語が、短編ひとつめとよっつめに配置されている。
 小川洋子さんの小説には、よく「静謐」な文体、という書評がつけられている。代表作のひとつ「博士の愛した数式」は、懐かしさと寂しさを余韻に残す、まさに静謐な日常を愛おしむような物語だった。
 だけど、今回読んだ初期の短編集よっつはどれも違った。うすのろで騒々しく、まとまりがなくて食べ滓だらけの日常を嫌悪していた。
 だから、弟との完璧な病室に、同級生の夫妻が待つ時の止まった家に、プールの飛び込み台を眺める観覧席に、静謐な「非日常」を、主人公の我儘な女性は求めに行く。
 そして、自分以外の世界をそれなりに拒絶し、彼女たちの「日常」の側に登場する人たちに残酷な気持ちを抱くことはあっても、愛することは決してない。
 普段物静かな女性の内面に潜む意地悪な側面が滲んでいるような、でも「非日常」の描き方があまりに綺麗で許されているような、そんな短編集だった。
 完璧な病室、冷めない紅茶、ダイヴィング・プール…。思い返せば短編のタイトルは、そうした神聖な「非日常」を冠するものばかりだ。
 デビュー作「揚羽蝶が壊れる時」だけ少し毛色が違って、認知症の義母を施設に預けた、妊娠したかもしれない状態の、大学4年生かフリーターくらいの女性の物凄い不安定さが主役だった。文章がみっしりゆらゆらとしていて、正常と異常の境目が分からなくなる怖さを感じた。


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