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拝啓、iPhoneSE 一緒に世界を旅した日々

拝啓 新緑の候、コロナウィルスも収まる様子もなく季節も移り変わっていきますがいかがお過ごしでしょうか。このような日々の中に恐縮ですが、初代iPhoneSEことあなたから、iPhoneSE2へと機種変更をさせていただきました。あなたと一緒に世界中を旅した日々が懐かしいです。

 あなたとの出会いは、私がiPhone5sをオーストラリアで落として壊したところから始まりました。5sと変わらない姿でしたが、ゴールドの上品な色合いが私を大人っぽく見せてくれましたね。4ヶ月程日本で働いた後、あなたと一緒に飛行機に乗りスペインへと降り立ちました。あの時の私はスペイン語が全く分からず予想以上にスペイン人が英語を話せないことに悪戦苦闘したことを思い出します。そんなとき、あなたはいつも翻訳という役目を果たしてくれました。初めて自力でバスのチケットを買い、グラナダという地方都市へ着き、まだバックパッカー初心者の私を宿へ案内してくれたのもあなたのオフラインマップのおかげです。あなたと過ごす旅の初日、ヨーロッパの7月は日が沈むのが遅く、日本とは違う湿り気のない涼しい夜でした。

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 初めてアフリカ大陸、モロッコへと足を踏み入れる私とあなたは、船でジブラルタ海峡を渡りました。時差と船の遅延によりタンジェの街に着いたのは夜中の1時過ぎになりましたね。モロッコ定番「道案内したから金くれ野郎」と出会い、抵抗せずお金を渡したのはいい判断でした。朝起きると屋上から素晴らしい街並みが広がっていたこと、泊まっていたスペイン人が「日本の漫画は芸術の一つだね」と言ってくれたこと。あなたも覚えていますか?サハラ砂漠のどこまでも何もない果てしない大地、風の音だけを感じる無音の世界であなたはwi-fiの電波「Sahara」を拾ってしまったこと。あなたの存在がない場所は地球上に存在しないのかと思いました。

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 スペインでは一緒に300Kmの道のりを毎日約30Kmずつ歩きましたね。疲れきって先が見えなくなった時は、あなたのマップを使って残り何キロか調べたり、この先上り坂がないか調べたりしてしまったズルイ私をいつも優しく見守ってくれたことを忘れません。スペインを一緒に歩いた日々は、間違いなく私の人生で忘れられない経験となり、今でも私に幸せをくれています。あなたのおかげであの道や丘、一緒に過ごした友人達、美味しいご飯や一緒に歌った歌、素晴らしい景色の数々を昨日のように振り返ることができます。

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 マルタ島では美しい海を一緒に泳ぐことが出来ましたね。メキシコではセノーテという美しい湖に一緒に飛び込み遊んだことも忘れられません。エクアドルではアシカと一緒に泳いだり、実は凶暴な彼らと目があった時はちょっと怖かったですね。動物好きは私にとってはあんなに動物と一緒に暮らせる島はガラパゴス以外ないだろうと確信しています。

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 ペルーでは、あなたをトイレに落としてしまったことを今でも申し訳なく思っています。それでも今もこうして生きていてくれることは奇跡のようですね。用を流した後で良かったです。南米大陸ではアジア人が珍しいのか歩いているだけで「一緒に写真を撮ろう」と言われましたね。あなたが撮った私と知らない人の写真は今でも残っていますが、正直使い所はありません。あなたと一緒に高さ4000km級の山に登った時は、あんなに自分の身体が鉛のように重い経験は初めてで、登った先にあった氷河湖の青さが心に残っています。そういえばワイナピチュを一緒に登った時、雨季で綺麗な景色は見れないと言われたのに奇跡的に晴れた雲間から幻想的なマチュピチュを見れたのは日頃の行いが良いからでしょうか。

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 ボリビアでは私の不注意からお金が盗まれたけど、よく考えればあなたが無事だったことは運が良かったと言えそうです。あなたは最先端ではないけれど、ウユニ塩湖の素晴らしさをこんなに綺麗に残してくれました。アルゼンチンのパタゴニアでは氷河の上を歩いたことや、夏なのに雪山を登ったこと、朝日で赤く染まるフィッツロイを見て、こんなところまで来たんだなと感慨深い気持ちにさせられましたね。

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 唯一あなたの本領が発揮できなかった国といえばキューバでしょうか。wi-fiもなくインターネットが気軽に使えなくて、wi-fi公園でプリペイドカードを購入してでしかインターネットを使えない仕組みはきっとあなたも初めてだったでしょう。私はあなたから自立しようと極力キューバの生活をあなたなしで楽しんでいました。宿もいつもならあなたを使ってブッキングドットコムで予約するところを、知らない家のインターホンを鳴らして泊めてくれと頼むしかなく、度胸がついたと自負しています。二日に一回くらい繋いでいたインターネットですが、まさか3日後のキューバからカナダへの飛行機の時間が変わったとメールで来ていた時は、インターネットのない国でそれはないだろうという気持ちと、自己責任の文字を改めて強く感じました。

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 無事に日本に帰ってきた時、あなたが側にいることが奇跡のように思えるくらい私は旅の中で色々なものを失くして、新しいものを手にしていました。それは失くしたお金やiPodや指輪という物だけでなく、小さなプライドや自責感な気がします。私はバック一つで旅をしていましたが、バックは容量以上を詰め込むことが出来ず、何かを手放して何か新しいものを入れていることに気がつきました。きっと人間だって同じで何かを手放したら、新しい何かが入って来るのだろう、なんて旅と自分の人生を並べて考えるのは滑稽でしょうか?だからこそ、あなたのように一緒に旅立って、同じ場所に一緒に戻ってこれたことを奇跡のように嬉しく思っています。

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 再びコロナ騒動も落ち着いた折には一緒に旅に出たいものですね。何卒お身体ご自愛くださいませ。

                         敬具


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