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そこに「人」は在るか ― 地域において僕たちにできること

 9月29日、ローカルメディア「まちまち眼鏡店」の座談会『変化するまちを見つめる 東東京から』がHAGISOにて開催された。トークゲストは、かつしかけいたさん、内海晧平さん、伊東弘樹さん。
以下ではトークセッションの内容をまとめた。最後に僕がそれから考えていることを記した。


セッションでは主に再開発に関してのトークが展開された。また、イベント後にもまちまち眼鏡店のスルキさんとブリコル平井の内海さんとお話させていただいた。

再開発のイメージ


 まちの再開発をきっかけに街の風景の保存について、「どのように町の記録や記憶を残すべきか。」が問題になっている。立石では「のんべえの聖地を守る会(現:立石をまもる会)」という団体が再開発に対する反対運動をおこなっていた。しかし、地元の人々は違和感を感じていたそうだ。彼らは「酒の都」というレッテルに対して、町がそれだけのものではないという考えを持っており、町には普通な部分も多いと感じている。さらに、再開発には無関心な態度を持つ人も少なくない。再開発に対しては、大きく変わることはないとの意見や、便利さを追求すればどの街も似たり寄ったりになるという懸念がある。再開発では単なる「更新」ではない、それによる人や時間の「断絶」が問題となる。それにもかかわらず、地域の中には賛成や反対といった様々な立場の人々がおり、単純な対立構造とは言えない状況がある。断絶が進むことで団結の難しさが生まれるが、特定の強固なコミュニティを作成したいわけではないという複雑な感情が存在する。

かつしかけいたさんが関わっているプロジェクト。のんべえの聖地を守る会の方との出会いから始まったそう。

下町のグラデーション


 「下町」という言葉には現在ではポジティブなイメージが定着している。しかし、「谷根千」や「東東京」といった地域では、この言葉の意味は含まれていない。江戸川区などの歴史が短い下町地域では、物理的な建物に「下町らしさ」というものは必ずしも現れていないが、地域の文化やコミュニケーションの形にはその特徴が色濃く残っている。例として、外国料理店の店員が小学生に傘を貸すような日常の風景がある。一方で、地域の特色を「郷土誌」としてまとめることには興味がないという声もある。実際に、多くの外国人がこの下町の風情を自分たちの故郷と重ね合わせ、そのために住み続けている。その「下町風情」に固定の型を当てはめる必要はない。問題としては、「らしさ」というものをどう定義するかが挙がる。具体的に「立石らしさ」というものは何か、という質問に対して、全ての人々が共通の答えを持っているわけではない
昭和レトロ、下町らしさなどはイメージにすぎず、そこに「人」はいない。

伊東さんが執筆されている小松川の記事が収録されている。小松川はもともと再開発で生まれた場所だそう。

誰のためのデザイン


 活動や取り組みにおいて「誰のため」に行うかという疑問が存在するが、ひとつの考えとしては「自分たちのため」にやるというものがある。例えば、藍染大通りの冊子の制作は、自分たち自身のために行われており、これを続けるためには関わる人々が自信を持つことが重要である。その上で、外部の人々はその取り組みに寄り添うことができる。しかし、地域に対して「盛り上げたい」という意図や、「好きだから」という単純な感情だけではない。地域に対する思いや感情は、地縁や育った環境によって複雑であり、悪い面を知っているからこそ無条件で好きとは言えない。興味があれば住むことを提案する声もあれば、実際に離れてから地域の良さを感じる人もいる。一方で、長く住んでいる人々は特定の活動に参加しないこともあり、マンション住まいの人々は地縁の繋がりを持たない場合が多い。このような様々な視点や考え方を持つ人々の意見は「まちまち」であり、一様ではない。
サービスデザインにおいては、ターゲットを設定するかもしれないが、地域においてはそれが通用しない。根津の人なる共通のイメージは存在しない。僕は最初にそこを誤解していた。最初に良いシステムを考えて、後から根津の人の意見を取り入れれば、良いものになると思っていたのだ。しかし、どんなに面白いシステムを思いついたとしても、そこに人がいなければ、聞いている人は何も面白くないことがわかった。なぜなら、何も起こっていないからだ。イメージが湧かないのだ。だから、何かしらの手段で表現する必要がある。

内海さんが研究されている藍染大通りでのイベント

まちまち


 今回イベントを主催しているまちまち眼鏡店とは谷根千(谷中・根津・千駄木)のローカルメディアだ。町の人によって定期的に編集会議が行われ、それぞれの視点で見た谷根千の面白いところを記事にしているため、谷根千がまさにまちまちに描かれている。ローカルメディアは、他のメディアと比べてターゲットが明確に設定されていない。しかし、記事を書くにあたって、内では密な人のコミュニケーションがある。リアルな関係があるからこそ、それは外に向けて発信するというよりも自分たちが楽しいから発信するのだ。自分たちの町に誇りや自信をもつことで、表現するようになるのではないだろうか。メディアをつくることで、今回のようなイベントや交流会のような人が集まる場をつくることができる。そして、町に寄り添うことができるのは外部から来た僕たちにできることではないだろうか。

下町祭りに向けて


 今年の僕らのテーマは「営みの美術館」だ。なんとなく言いたいことはわかるが、それをどういったかたちで表現するのかをずっと悩んできた。根津に来てもうすぐで1か月が経つ。これまで僕がやってきたことは呑むことだ。お金はなくなり、残ったのは人のつながり、面白いエピソード、おすすめのお店の情報だ。これらはどれもかたちにはならないが、大切なモノだ。しかし、僕が面白いと感じるのはその大切なモノが生まれる場だ。ぼくらはおすすめされたお店を回るのだが、たいてい貸し切りや定休日のお店にあたる。そして、偶然入った店でまた新しい出会いに恵まれる。その瞬間はとてもワクワクする。僕はこの瞬間をみんなと共有したい。

イトナム会

 根津に来てからすぐに根津の方々との顔合わせ会があった。そして例大祭の後も打ち上げがあった。しかし、根津の方々とはあまり根津について話を聞ける時間はなかった。そこで当初は二回目の顔合わせ会としてイトナム会を学生主体で開催しようと計画していた。しかし、中間講評を経て、なにかモノをつくらないといけないという意識が強くなったと同時に、自分たちが今までやってきたことを振り返ってみて、ワクワクした瞬間を共有するモノは作れないだろうかと考えるようになった。現在は、その経験を拡張したり、再解釈するためのメディアとしてかたちを考えてみようと思っている。

第一回イトナム会
日時:10月5日(木) 19時~21時半場所:ねづくりや(文京区2-22-10)

今後のお知らせはインスタグラムで発信
https://www.instagram.com/nezu_artproject/


根津・千駄木下町まつり

根津神社をメイン会場に、根津・千駄木で9つのサブ会場がある。
飲食の屋台も、今年は復活。

根津・千駄木下町まつり
日時:10月14日(土)・15日(日) 両日とも10時〜16時場所:根津神社(根津1-28-9)ほか


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