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不眠にまつわる話

「おがわくん」

私が21歳の頃から付き合いのある
関係性のよくない異性の友達。

私たちが出会った頃、
お互いに不眠だった。

文字にすると胃が苦しくなるような
よくない遊び方をしていたし、
他の人には言えないような
よくない付き合い方をしていた。

お互いにこんな関係は早く辞めたいと
思っていても、不眠は辛くて、
一人では耐えられなくて、
目先の気持ちよさには勝てず、
ずっとその関係性に甘えてしがみついていた。

あれがいつだったかは
はっきりと覚えていないんだけど

ある朝 おがわくんより先に目覚めて、
台所へ飲み物を取りに行ったら、
シンクに見覚えのない汚れた鍋が置いてあった。
冷蔵庫の中には 肩までシロップに浸かり
ガラスの容器に綺麗に並べられた
おいしそうな桃のコンポートがあった。
不思議な光景だった。
あの混沌とした汚い部屋の中で、
すごく輝いて見えた。

食べてみたら美味しかった。

でもなんの記憶もない。
一緒に作ったのか、
自分が作ったのか、
私が寝ている間に彼が作ったのか、 
何も覚えていない。
ただ、あまりにもおいしいコンポートだった。

でも、どんな理由であれ
眠剤でハイになっている状態で、
こんなに美味しい桃のコンポートを
作るなんてことは
絶対に正常な状態ではない。

もうとっくに自分たちの関係は
不健全を通り越していて、
もはや病気の一歩手前だ。
むしろ通り越している。もうやめよう。
と思い立ち、

すぐに自分の服を着て静かに家を出た。
それから一度も連絡をせず
三年会わずにいた。

しばらくしてから
眠れなかった夜にだけ何度か会ったけど、
シラフの彼と過ごす時間は退屈で、
会話も噛み合わなくて、居心地が悪かった。
どの瞬間を切り取っても楽しくはなかった。

一度会うと
「もう二度と彼には会わなくてもいいかもな」と毎回思う。

またどちらかが23時過ぎに眠れなくなるまでは

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