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Kバレエ「ラ・バヤデール」鑑賞記録

6月9日(日)Kバレエ「ラ・バヤデール」千穐楽を観てきました。今回は3階正面席。
正直浅川ガムザ目当てにチケットをとったので、降板がショックでショックで……浅川さんのつよつよガムザ様見たかった〜〜〜!!!の気持ちが拭えない。

しかし代役の長尾さん、抜擢も納得のキレッキレ回転だった。堂々と真ん中踊ってた。
プライドが高く、ニキヤにナイフを向けられたときもつい守りの姿勢をとってしまった自分が許せない&屈辱を感じているのも伝わってきた。
つんと取り澄ました様子が世間知らずで生意気なスクールカースト最上位のクイーンビーといった感じ。
若いダンサーだからこそ演じられるガムザッティだった。

対して杉野ソロルはすっごいお調子者。
だから神聖な火の前でニキヤに愛を誓っちゃうし、その直後にガムザッティを紹介されても胸キュンしちゃう。
戦士として、戦果の大きいほう(巫女との禁断の愛<王族との婚姻)に惹かれた部分もあるのかも。
ソロルが象に乗って再登場するときはあまりにもドヤァとしていて笑いそうだった。
「オレってば大出世しちゃったぜ」って聞こえてきそう。
杉野さんの演技力はソロルでも発揮されていて、愛嬌があって好きだった。
踊りの技術に関しては、杉野さんならもっとできるはず!!と思った。
やはり真ん中は重圧なのだろうか。
杉野さんの魅力は演技力だと思うので、伊坂文月さんのポジションを継いでほしいな……と勝手に思っている。

今回は2年前に東バ、先月新国のバヤを観たあとでの鑑賞で、違いを楽しめたのも良かった。
場面の再構成だったり役柄の解釈だったり、いろんな違いを許容できる懐の深さが古典の魅力だなと再認識。
自分のなかの物語の解像度も多少は上がった気がする。

Kバレエ熊川版では1幕1場は大僧正の怒りで、次はラジャの怒りで、3場はガムザッティの怒りで幕を閉じていき、憎しみの連鎖がよく見えた。
そのあとの婚約式ではニキヤがガムザッティに憎しみを向けるも、最期は諦めとともに死を選んで憎しみの連鎖を断ち切る。
うわーなんてドラマチックなんだ!と気づいて感動。

そうそう、今回の婚約式ではアクシデントも。
団扇ガールズの一人が団扇を落としてしまい、そのあと上手の男性が団扇を拾うも、団扇を落としたダンサーは下手の立ち位置。
どうやって受け渡しするのかと思っていたけれど、太鼓の踊りに夢中になっている間に団扇ガールは団扇を取り戻していた。
どうやったのだろう? 天晴なチームワークでした!

太鼓の踊りはほかの上品な踊りとのコントラスト効果もあって、目を離せないくらい凄かった。ド迫力。
吉田さんはマッスルスーツ着てる??ってくらい筋肉ムッキムキで、鬼気迫る表情。ちょっと怖いほどだった。

休憩を挟んでバヤ最大の見せ場、影の王国は24人構成。
先月の新国は32人もいたのでちょっと少なく感じたけれど、たぶん24人が標準的な構成のはず。
あれ、Kってこんなにコールド揃ってたっけ?と思うくらい揃っていて美しかった。
ただもっと照明落としたら幻想的なのにな〜と新国と同じくもったいなく感じた。
Kのコールド(バレエ・ブラン)では白鳥の湖が一番好きだな。つよつよの白鳥たちが圧巻。

影の王国から戻るとソロルが死んでいるのはちょっと衝撃だった。
主役なのに最期の瞬間が描かれないなんて。
でも杉野ソロルは徹頭徹尾クズ(褒めてる)で、ニキヤの最期のとき自ら背を向けてガムザッティの手をとったのに、勝手に後悔して薬物におぼれる人物。
そうだよね、コイツいつの間にか死んでる野垂れ死にタイプのクズだよね、と最期の瞬間が描かれないのも納得できてしまう。
誠実に後悔したアルブレヒトと比べると、ソロルのほうが格段にクズ度が高いと私は思っている。

ソロルの死の直後、ガムザッティが蛇に噛まれて倒れるのは因果応報の天罰かと解釈したけれど、ちょっと分かりにくかった。 

そして寺院崩壊のあと現れるブロンズ・アイドル。
この登場のタイミングは仏による粛清を巧く表現していてさすが。
石橋さんは圧倒的な威厳でブロンズ・アイドルを踊っていた。
ブロンズ・アイドルは超絶技巧派と正確無比派があると先月思ったばかり。ここで威厳派来た。
プリンシパルが踊るからこそのブロンズ・アイドルかもしれない。
暗く落とした照明のなかスポットライトを浴び、金粉を纏った身体が眩しいほどに輝いていた。
ブロンズ・アイドルは光ってなんぼ!拍手!
寺院も奥行きが感じられる格好良い舞台セットで、その奥にある仏像の背後にブロンズ・アイドルが見える演出も良かったな。
東バのブロンズ・アイドルはカーテンコールで手をつなげてなくて(金粉ついちゃうから)かわいそ可愛いな〜と思っていたけれど、今回石橋さんはスマートに手をつながずにカーテンコールに出てて、レヴェランスまで格好良かった。こんなところまでさすがプリンシパル。

ラストは雲(スモーク)がもくもくとたなびく中、天上でニキヤとソロルが再会して互いの手を取り、緞帳がおりる。
死してなおニキヤはソロルを好きなままで、ソロルも初志貫徹して真の愛はニキヤに捧げていて、ハッピーエンドって見方もできる。できるのだけど。
私はソロルが死後も幻のニキヤを追い求めて、自分に都合のよい虚像(自分の罪を赦してくれて、引き続き自分を愛してくれるニキヤ)を作りあげたのだと解釈した。
いやだってハッピーエンドと捉えるには都合が良すぎる……。
ハッピーエンドとするにはソロルがあまりにクズすぎる……。
そんなかんじで、ラストまで解釈の余地があり楽しいラ・バヤデールでした。

あと忘れてはならないのが衣裳!
どれも素敵だったけど、特にニキヤとガムザッティの胸下に真珠やビーズのついているデザインや、ガムザッティの婚約式衣裳の肩のあみあみ。天才か。
下の写真は3月のジゼルのときに展示してあったもの。
実際にダンサーがまとうとさらに魅力があふれていた。

ニキヤの衣裳
ニキヤの衣裳(拡大)
ガムザッティの衣裳
ガムザッティの衣裳(拡大)
ガムザッティの衣裳(婚約式)
ニキヤの衣裳(婚約式)
ソロルの衣裳
ブロンズ・アイドルの衣裳

今回のコールドを観て、Kバレエのダンサーのレベルが底上げされているのをひしひしと感じた。
一方で、スターダンサーの不足も感じている。前回の「カルミナ」の覇気を浴びたあとなので余計に。
熊川さんほどでなくとも、いるだけで舞台が引き締まるダンサーってカンパニーに一定数必要なんだと思う。
第一線で長く活躍していた祥子さん・遅沢さん・伊坂さん・宮尾さん(個人的には矢内さんも)が一気に抜けた穴はなかなか埋まらない。
首脳陣もそれが分かっているからプリンシパルを複数キャスティングしているのだろうけれど……。そして今回は浅川さんの降板という仕方ない事態はあれど……。
国内ではKバレエが一番好きなのは今も変わらないので、国外からゲスト・ダンサーを招くとかKバレエを卒業した先達にゲスト出演してもらう(オプトではやっているので本公演で!)とかして、どうにか現在の天井を突き破ってほしい。


さてさて、なんかもう充分書いた気もするけれど、ロイヤル(シネマ)・東バ・新国・Kと観てきて、比較した感想をまとめておきます。

衣裳

私はヨランダ・ソナベンドの衣裳デザインに惚れ込んでいるので、ロイヤルの衣裳が群を抜いて好き。
次点でKの衣裳、ディック・バードのデザインもテンションが上がりました。

ニキヤvs.ガムザッティ

この二人の対決もロイヤルが一番迫力あった。
なんとガムザッティがニキヤにビンタ。そりゃニキヤも刃物で応戦します。

ブロンズ・アイドル

これはKバレエが一番好き。
婚約式の余興としてではなく寺院崩壊のあとに出てくるのも良いし、照明効果なのか一番眩しく輝いていてこの世ならざる者感が出てた。
熊川さん自身が思い入れのある役だからこだわって演出したことが伝わるし、この役のダンサーも相当なプレッシャーを背負って踊っているものと想像する。一体どれだけのプレッシャーだろう……。こわい、すごい。

ラスト

新国の牧版が一番腹落ちしました。
ソロルは追いすがるけどニキヤは振り返らずそのまま行ってしまうという、“その後はご想像にお任せ”の加減が心地良かった。

影の王国

東バが一番美しかった!
暗い照明に白いコールドの衣裳が映えて、さらに鏡面のような床材がコールドの白を幻想的に反射させていて、特にちょっと距離のある席からだと美しさのあまり泣けた。
数年前のバレエの饗宴でも東バの影の王国を観たけれど、そのときは席が近すぎてダンサーがぷるぷる震えてバランスをとっているのが見えてハラハラしてしまい、影の王国の鑑賞時はちょっと距離のある席が良いと学びを得ました。
上演回数の差によるダンサーの熟練度もあるのだろうけど、演出によってかなり幻想感に違いが出る印象。

総合的には東バが一番好きだったなあ。影の王国は偉大なり。
でもどの版もキャストによって評価が変わりそうなので、現時点では、という感想でした。


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