私の妊娠経過②

つわりって?こういうもの?

 職場への報告は病院へ行った次の出勤日にした。
 妊娠経過が思わしくない可能性もあったけれど、つわりなどの体調不良で休むことが目に見えていたから、休みを取りやすくするために心拍確認前に報告した。

 社長はびっくりしていたけれど、授かりものだからと祝ってくれた。
 それは職場の人たち全員が同じで、そのときは「ああ、いい会社に入ったな」と思えたのだった。

 妊娠した、という結果がはっきりしたからなのか、新婚旅行中は気にするほどではなかった気持ち悪さというものが日を追うごとに増していった。
 ドラマやネットでの体験談で見かけるものは「トイレとお友達☆(顔面蒼白)」というものだったが、私の場合は吐くまではいかなかった。
 ある意味その方が私にはつらかった。
 吐いてしまってもすっきりするものではないのだろうが、吐きそうなのに吐けない(嘔吐恐怖症というわけではない)ことはいままで経験したことのないつらさだった。

 妊娠自体初めてなので、吐いていないからつわりなのかどうなのかもわからないなあ、果たしてこれはつわりと呼んでいいものか、という思いが常にある。
 しかし一日中車酔いをしているような、船酔いをしているようなあの気持ち悪さは、いま思うと確かにつわりだったのだろうと思う。
 一説によると自分の体に宿った命を「異物」だと認識してしまうから気持ち悪くなるのだとか。
 本人が「妊娠した、これは私の子供」と認識しているのだから、わざわざ異物なんて思わなくてもいいのに。勝手だなあ、人間の体。



エコー写真の愛おしさ

 つわりはきつい。ほんとうにきつい。

 しかし、妊婦健診で見るモニター越しのわが子に何度も助けられた。

 妊娠初期は毎週健診に行き、エコーをしてもらって「今、何mmですよ」とか教えてもらっていた。
 豆粒みたいな見た目だけど、ほんとにこれが生きてる私の子供なんだな、という不思議な気分。

 9wくらいのとき、いつも通りエコーしてもらって、びっくりした。

 いままで豆粒みたいな、米粒みたいな見た目だったのに、急に人の形になっていた。

 パッと見ただけで頭、腕、足がわかる。
 いまはエコー写真しかないけれど、当時はちっちゃな手足をうねうねと動かしていたことを覚えている。
 たぶん両腕で顔を隠しているような、足は膝を曲げているような、そんなエコーだった。

 妊娠したとわかった瞬間から「母になる」という感覚は持っていたけれど、それが一層強烈になった瞬間でもあった。
 エコーしてもらっている最中は泣かなかったけれど、家に帰ってエコー写真を見返してひっそり泣いた。
 ほんとうに、私のお腹で育ってくれてるんだなあって。

 13wくらいのときにはもうはっきりと子供らしい(?)体つきをしていた。
 そのときはエコーに背中を向けていたけれど、頭と背中とうっすら背骨も見せてもらった記憶がある。

 どんどん育っていくわが子は、私の生活を確実に幸せなものへと導いてくれていた。



マタニティマークとお客様

 母子手帳を交付してもらったときに、市からマタニティマークがついたキーホルダーをもらっていた。
 見たことのあるやさしい絵柄で私は何の迷いもなくカバンにマタニティマークをつけていた。

 しかしある日、ツイッターを何気なく見ていると、マタニティマークを付けていたことによって嫌がらせをされたり、ひどいときには突き飛ばされたりすることもあると知った(しかも女性が危害を加えてくるって!)。

 もちろんそんな人たちは一部でしかないとは思っていたが、そんな記事を見てしまってはキーホルダーを付けているのは怖くなる。
 通勤途中や買い物のときは極力はずすようにし、会社に到着してからつけるようにした。

 会社でつけている理由は、後述する出来事から社長に指示されたのだが、私の会社にはときどき一般のお客様も来社されることがあり、取り扱っている商品が重いこともあってお客様から運んでくれるようにお願いされることがあるからだ。

 はじめは会社でもマタニティマークをはずしているようにしていたが、ある時、対応をしたお客様に20kgほどの商品を運ぶように言われてしまった。
 妊娠する前はなんてことない荷物ではあった。
 重いものを運ぶように言われたら呼んでね、と周りの社員も言ってくれていた。

 ただそのとき少し躊躇してしまった。

 妊婦は重いものを持たないように言われているので持てません?力をぐっと入れるとダメらしいので?
 なんて言えばいいのかとっさにわからなくなった。
 先輩でも誰でもすぐにぱっと呼べばよかったのだけれど、「言い訳」みたいになることがすごくめちゃくちゃとっても最強に嫌だった。

 固まってしまった私に、お客様から怒号が飛んできた。

 「なんじゃい!女やからってか弱そうにしやがって!」

 私はぽそっと「すみません…」としか言えなかった。
 お客様は「お前なあ!」とまだ怒り足りないようだったが、怒鳴り声を聞いた先輩が間に割って入ってくれた。

 そのお客様とは先輩の方が長い付き合いだったこともあり、うまく私が妊娠していることとちゃんとそれを伝えられなかったこと、普段荷物持って行くのにもたもたしたことを私の代わりに謝ってくれた。

 妊婦様になったつもりではなかったが、妊娠しているから、ということを盾にしてしまったようですごく自分に対して気分が悪かった。
 重いものを持たない、という選択は正しかったとは思うが、それを相手に伝えられずに嫌な思いをさせてしまったことに少し後悔している。

 それからはお客様対応をするときにはマタニティマークを付けるように指示をされた。
 それはお客様に対してこいつには特別な配慮をしろ、という圧力ではなく、あくまで別の手が空いている社員が荷物運びだけ手伝いますよという印。
 理解をしてくれるお客様がほとんどだったが、まあ中には「いいご身分だねえ」とちくっと嫌味を言ってくる人もいた。
 驚くことに嫌味を言ってくる大半は女性だった。
 妊婦ははたしてほんとうに「いいご身分」なのだろうか?
 同じように妊娠・出産を経験した立場からそう言えるのはなぜなのだろう?
 妊娠期間を終えて振り返ってみると、彼女たちが発した嫌味にはとんと理解ができない私だった。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?