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転職物語⑥ ㋥実際に応募する

色々検索して、応募する段になるまでには少しばかり時間がかかるものである。というのも、先述したように㋩の段階が一番楽しいからである。切羽詰まった状況であったりしない限り、そこから抜け出すのには難儀するものだ。

しかし動かねば何も始まらないし、転職する意思が本当にある人間であれば「とりあえず送ってみるか」ということで、知らず知らずのうちに実質的な転職活動がスタートしていたりする。転職活動だと結構返信が早かったりして、新卒の就活しかしていない身からすると「会社って意外とフットワーク軽いな」と私はすっかり感心していた。

ここで留意しておきたいのが、書類通過率の低さである。これは自慢ではないのだが、私は新卒の時はまず書類で落ちることは殆どなかった。新卒の時の書類通過は40打数31安打(.775)というなかなかナイスな成績である。開幕直後の助っ人外国人のような打率であると考えてもらえればいい(しかし、そのうち1社しか内定をいただけなかったということは、紙で書いていることはそれなりだが実際に会ってみて「ああ…」となったケースが殆どであったという事なのだろう。冷静に考えると少しヘコむ事態である)。

一方、転職の時は16打数4安打である。打率は.250と、やや調子の悪い3番打者くらいのイメージであろうか。

この書類通過率の差は歴然としている。この理由は簡単で、会社が求めている人材が新卒の時とは異なること、そして競合する人間の年齢やスキルの多寡が新卒の時のように限定的ではないこと、というこの二点に尽きる。

一つ目の、「求めている人材が新卒の時とは異なる」という点について、少し述べよう。

新卒の時の「求めている人材」には、大概「ガッツがある人」とか「モノをよく考えられる人」とか「コミュニケーション能力のある人」とか、まあそういう都合の良い人間像が並んでいるだけの話で、実はこれといった「経験」が必要なわけではないのである。人間性に近いところについて注文を付けているにすぎない。

別に自分が全力で演劇をすればそういう人間になりきることは出来るだろうし、会社の求める人間を演じ続けるだけの忍耐力があるのであれば、別にそういう風に仮面を被ることは悪いことではないと思う。私自身はそういう仮面を被り続けてまで、世間体がそれなりで給料がもらえる/自分のしたくもない仕事をしたいとは思わないから、そういうことはしていないだけの話である。

一方、転職の時にはそうはいかない。「実務経験3年以上」とか、「○○のスキルある方歓迎」とか書いてあって、新卒の時のような「人間性」というよりは「能力・スキル」に焦点が当たっている場合が多い。

だから、演劇をしてもどうにもならない場合が多い。因みに、「○○のスキルある方歓迎」と書いてある場合、この「歓迎」の意味は殆ど「必須」くらいに考えて間違いない。なんせ、そのスキルがあるやつが送ってくれば、当然そちらの人間を採用することになるわけで、自分は落ちるからである。まあ、最初から諦めて送らないのは勿体ないことであるから、とりあえず送ってみて断られたら断られたでドンマイという気持ちを持っていく方がいいと思う。

そして二つ目、「人間の年齢やスキルの多寡が新卒の時のように限定的ではないこと」についてである。新卒の時も確かにそれらしい差はあるわけだが、実際TOEIC900点とか(確かに凄いが)、そのくらいの差であって、新卒の人間は皆まともに仕事をした事が無いという点では横並びなのである。

大体年齢も一緒だし、能力もさほど変わりはしない。だからこそ、先述したように評価基準も何だかふわっとした人間性のような部分にフォーカスされるわけである。

ただ、「転職」となれば自分より年齢が上で、能力やスキルもある人間がいる。逆に企業にとっては「有用な」労働力が、何の力も経験もない「あなた」と同じ選考にかかっている場合もあるかもしれない。

企業の中途採用の目的は基本的に空いた労働力を”あてがう”ための人間を探すことであり、新卒のように育成して会社の幹部を…なんて発想を当初から持ち合わせているわけではない。

そのとき、企業が採用するのはあなたなのかその人なのか―答えは一目瞭然であろう。若者を育成したいとか思っている企業であれば話は別だろうが、基本的に「あなた」は採用されることはない。

新卒の時であれば書類そのものを送れない企業というのはあまりないと思うが、転職となると結構「そもそも応募要件を満たしていない」というケースもあるから気を付けられたい。送るのにだって手間はかかるから、やみくもに送ればいいというものでもないのが新卒の採用とは少しばかり違うところかもしれない。

3月下旬、ひとまず応募をし続けてボコボコ落ち続けたとき、ふとある時に「書類選考に通過いたしましたので面接にお越しいただきたく…」なんて連絡が来たりする。「一体この会社はどんな思惑で私を面接に呼んでいるのだろうか―」と少しばかり訝しみながら、即座に電話で面接のアポイントを取るわけである。(つづく)

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