夜の散歩

サンダルをつっかけて、外に出る。爽やかな風が頬をくすぐった。私は、小さな懐中電灯を持って、木々の間をのんびりと下っていく。
揺れる木の葉が囁きながら、月の光を遮ってはくすくすと笑う。
木々を抜け、最後の急な坂道を小走りで降りると、少しだけあたりを確認する。そうして小さな明かりを消すと、潮の香りが余計に強く感じた。
そろそろと水面に触れる。心地よい冷たさが私の手を包み、月の光が揺れた。サンダルを脱いで、今度は両足をいっぺんに海に突っ込んだ。水面が大きく揺らめき、遠くの方の水面まで何重もの輪が広がっていく。
足は浸したまま、コンクリートに腰掛ける。それからそのまま倒れ込むと、星が控えめに瞬きを繰り返していた。山の方に目を向けると、月が誇らしげに輝いているのが分かるけれど、眩しすぎて直視できない。
だから私は目を閉じた。聞こえるのは波の音と木々の囁きだけ。感じるのは爽やかな風と、足を優しく包む海の温度だけ。
この時だけは、すべてが私だけのもの。風も海も木々も、私1人のために存在してくれる。
まぶたを閉じていると、幸せな眠気が私の肩を叩いてくる。それと同時に、硬いコンクリートが、背中や頭を攻撃してくる。もうあまり、寝転がってもいられない。
名残惜しいけれど、暖かな室内が私のことを待ってくれている。
私はサンダルをゆっくりと履き、来た時と同じように、のんびりと帰った。