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実際に会ったことのないオンライン上の友達

 実際に会ったことのないオンライン上の友達がいる。インドネシア在住のリサというインドネシア人女性で、インスタグラムでたまにメッセージを送り合うだけの緩い交流がかれこれ五年くらいになる。ちょっと不思議な縁で繋がったのだけれど、英語が使えなければこういう出会いはなかった。

 コロナウィルスが世界的に大流行する一年位前の時期、僕はワーキングホリデーでオーストラリアに行くために日本で英語学習をしていた。英会話教室に一応通っていたのだけれど、そこでは単に日常会話をするだけだったので、自分でテキストを買ったり言語学習アプリを使ったりして基本的には独学だった。進行形にはbe動詞が必要だということも分かっていない有様だったので文法は中学レベルからやり直したが、ずっと洋楽を聴いたり歌ってきた影響で発音や聞き取りにはある程度の地盤があった。
 当時は英語学習系のYouTuberの動画をよく見ており、その中でも"The English Coach"というチャンネルはかなり役立った。運営しているアメリカ人のステファニーの発音は明瞭で聴き取りやすく、自分のリスニング能力が格段に向上したと錯覚するほどだった。彼女は自社サイトでオンライン英語学習コースを販売しているプロの英語教師である。ある時、そのチャンネルが主催でオンライン上での英語学習チャレンジが行われた。一ヶ月間ほぼ毎日お題やテーマが与えられ、参加者はそれに沿った英語での投稿をインスタグラム上で行ってお互いにコメントし合うというものだった。チャレンジの最後にはコミットメントの度合いによって上位三名が選ばれ、優勝者にはオンラインでの英語学習コースが無償提供されるという賞品があった。
 僕はそこでリサと出会った。チャレンジの課題の一つに参加者同士でのビデオチャットがあり、たまたまタイミングが合って一度英語で三十分くらい会話したのである。彼女の英語はその時点で完璧に聴こえた。訊いてみるとアジアを中心とした世界各国で英語教師としての経験があるらしく、これ以上勉強する必要なんてないんじゃないかと伝えると、リサはまだ満足していない様子だった。インドネシア語と英語以外にもあらゆる言語に精通しているマルチリンガルで、学習というよりもほとんど趣味みたいに言語を習得している様子だった。その結果なのかあるいは生来のものなのかは分からないけれど、人当たりが柔らかくて相手を緊張させない話し方や雰囲気を今でもよく覚えている。最終的にリサはそのチャレンジで優勝した。

 その後にも折りに触れてはインスタでのちょっとした交流が続いた。お互いの投稿にライクしたりコメントしたりすることもあれば、DMで軽い雑談をすることもあった。彼女は僕が音楽をやっているのを知っており、ある時カバー曲の制作の手助けを頼まれた。僕はトラックを作って彼女が送ってきた歌声を編集して曲を仕上げた。またある時は逆にこちらからも頼み事をした。僕は当時自分で作った英詞曲の歌詞をあらゆる言語に訳しており、彼女にインドネシア語への翻訳をお願いしたのだった。
 ちょっと前にやり取りをして近況方向をした時、リサが現在ステファニーと仕事をしているのを知った。例のチャレンジ以降ずっとコンタクトを取っていたらしく、実際に会ったことのないままオンラインのチームに加わったとのことだった。不思議な縁でもなんでもなく、リサが自分の力で掴み取った機会である。

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