見出し画像

ポン酢

 長年に渡って主張してきているのだが、ポン酢は過小評価されている。あの味は唯一無二である。醤油の亜種くらいに思っている人間には、己の無頓着ぶりに恥入ってこれを機会に認識を改めて欲しい。たしかにポン酢が使用される場はいささか限定されており、醤油ほどの高い汎用性はない。鍋のつけ汁に始まり、大根おろしに染み込ませて焼き物や揚げ物に添えられたり、あとは餃子のタレとして使われるくらいのものだろう。それ以外は創作性の強いマイナーな料理になってくる。勿論それらのメニューは一定の支持を集めるし、多くの人がカジュアルなポン酢好きではある。しかし、タバスコやマヨネーズなんかがある種のカルト的ファンから異常な偏愛を受けて支持されるのに対し、ポン酢がそんな風に日の目を浴びてフィーチャーされる機会は不当なまでに少ない。看過ならない事態だ。
 僕はありとあらゆる食事のメニューの中で、しゃぶしゃぶをする際に最も白米を消費する。豚肉というよりポン酢で米を食っている状態である。申し訳ないのだけどゴマだれをちゃんと試したことはなく、今後もその予定はない。一度、高校生の頃にしゃぶしゃぶの途中でポン酢が切れ、ストックを買っていなかった親にキレながら急いでコンビニに買いに走ったことがある。そして社会人となって一人暮らしをするようになってからは、二リットルのポン酢をアマゾンで定期的に買うようになった。冬場には週八くらいで鍋をする。

 少し話が脱線するが、今ここでこの愚かな文章を読んでいる暇な方には自宅にあるポン酢を思い浮かべて欲しい。僕には超能力なんてないのだけど、それはほぼ間違いなくミツカンの「味ぽん」である。あの商品はポン酢市場を独占していると言っても過言ではなく、僕もあれ以外のポン酢はまず買わない。スーパーマーケットへ行けば様々な醤油を見つけられるが、ポン酢のバリエーションは限定的だ。ゆず風味のものやご当地ものがあったりするが、一般的に広く普及しているプレーンなポン酢はあの「味ぽん」一択である。ミツカン以外の会社が「味ぽん」に取って代わるような商品の開発に乗り出さないのは、市場価値を見出していないからなのだろうか。まあなんにせよ、バンドエイドやサインペンのように商標が一般名詞と化す現象に近いことが、ポン酢業界にも起こっている。僕はこの事実を高校生の頃から周囲の友達に訴え続けてきた。特に目的はない。

 色々と書いたけど、ポン酢は今のやや報われないポジションのままでも良いという気もしている。少し前に梨が異常にフィーチャーされてあらゆる関連食品が登場したが、あんなのはほとんど悲劇である。僕も梨は普通に好きなのだが、梨味のジュースなんかに「そういうことじゃねえんだよ」とうんざりしたものだ。これは好きなインディーズバンドに売れて欲しいけれど、にわかファンが増えた挙句に音楽性が変わってしまうのを恐れる心情と全く同じである。ポン酢とそれを取り巻く状況は今のままでいいのかもしれない。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?