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あたしを作るものたち

高校生の頃、夏休みに小説を読み漁った事がある。

きっかけは、母が渡してくれた山田詠美の放課後の音符という、女子高生達の恋愛を主とした小説だった。
なんていうか、その頃のあたしはまだ処女だったので、セックスの事なんかが言葉として書かれているその小説がとても衝撃的だったのを覚えている。

そして、たぶん3日くらいかけて、睡眠と入浴と食事と排泄の時間以外をすべてあてて20冊ほどの山田詠美の小説を読みきった。
彼女の小説は恋愛小説が主だったので、思いの外スルスルと読めたし、当時のあたしには思いもよらないような恋の形が書かれていたりして、夢中で読んだ。
たぶん、後にも先にもあんなに本に夢中になることはないと思う。
それくらいにのめり込むようにして読んだ。

さすがに今ではもう、ぼんやりとタイトルを覚えているだけの小説も多いけど、放課後の音符と、ぼくは勉強ができないは今でも記憶に残っている。
どちらも学生が主人公で、やっぱり当時のあたしにタイムリーだったからなんだろうなぁ……と、思う。
今また読めば、きっと違うのが引っ掛かるんだろうなぁ……とも。

それでもあたしは、放課後の音符に出てくる「カナ」という女の子を今でもハッキリと覚えている。
カナは、他の女の子とは違って子供っぽいようなおしゃれはしないし、群れることもない。
はしゃいだりせずに、シンプルな装いで静かに微笑むような女の子。
地味に見えるけど歳上の彼がいて、もう処女じゃないし、それがとても自然に見える大人っぽさもある。

当時のあたしにはそれはもう、とても格好よくみえたし、こうなりたいと強く憧れた。
もちろん、憧れるだけで全然カナのようにはなれずに萌え萌えとオタクライフを過ごすのだけれど、子供だし、それはそれで素敵な青春だったと思っている。

とにかく、放課後の音符には他にも、アメリカンスクールに通う自由な帰国子女がいたり、歳上の女に彼氏を寝取られた子がいたり、嫌われもののヤリマンがいたり、当時のあたしにはとても刺激的だった。
当時でもう初版から10年は経っている本だったと思うので、言いまわしなんかがちょっと古い感じはしたけど、それでもそういう世界に憧れたし、とてもキラキラして見えた。

たぶん、あの多感な時期に山田詠美を読んだから、あたしがこんな風に出来上がっている部分もあるんじゃないかと思う。
現実のあたしは本の中の女子高生である彼女達にすら追い付けていない気はするけど、あんな風にはなれないと思うけど。
それでも、山田詠美の描く少しクセのある自由な女性はいつまでもあたしの憧れであり続ける。

おわり。

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