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迷い込んだトンボの話

仕事帰りの電車の中、途中の駅で一匹のトンボが車内に迷い込んできた。
まだ帰宅ラッシュには早い時間で、電車の中はさほど混んでいない。

何だ?と目で追うおじさん。
トンボが近くに来るたび、ちょっとよける女子高生二人組。
あらら~と見ている私。

迷惑なような、かわいそうなトンボ。
どうしようもないな、と車内にはあきらめムードが漂う。
誰も、何もしない。

次の駅で、学校帰りの小学生が乗ってきた。
男の子と女の子。3年生くらいだろうか。
男の子、すぐにトンボに気がつき、トンボの方へ吸い寄せられていく。

車両の端っこ、3人掛けのシートの所へやってきた。
両端に座る、女子学生とおじさん。
男の子は構わず突撃する。
おー捕まえて捕まえて、とおじさん。
女子学生は黙って席を立つ。

あっという間に男の子はトンボを捕まえて、満足気。
女の子に促されながら次の駅でトンボと一緒に降りて行った。

車内は再び、静かになった。
平穏と、男の子に対する関心と感謝の気持ちが漂ったように感じた。
少しすると新しい乗客が加わって、何事もなかったようになる。

トンボは小さな手から飛び立っていった。

<2021年秋>

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