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高校「工芸」という科目の危機?

高校の教科「芸術」は多くの場合、1年生入学時に「音楽・書道・美術・工芸」の中から1つ選択する。1科目選択して1年間学ぶことが学習指導要領で決められている。しかし、文理選択などの関係で、これも多くの場合、進路希望の関係で2年以降も芸術を学ぶ人はぐっと減る。
私自身高校生のころ、芸術が選択性であったことも、2年生以降芸術の授業がなくなることもとても悲しかった記憶があるが、みなさんはどうなのだろうか…。

さて、本日の本題は、芸術は1科目選択するのだが、そもそも選択できるものが学校によって異なる(限られている)という問題である。
以下の表を見てほしい。
文部科学省が出している「高等学校の教育課程等に関連する資料(データ集)」の「各教科・科目【全学科共通科目】の開講状況(H25入学者)」である。平成25年だとちょっと古いが、それより新しいものが見つからなかったので…

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芸術の中で学習指導要領的に選択必修科目は「Ⅰ」がつく「音楽Ⅰ・美術Ⅰ・工芸Ⅰ・書道Ⅰ」である。その中で、普通科高校(グリーンの枠線で囲った部分)を見ると音楽はだいたいの高校で開設、次に美術が多く、書道が続く。しかし、工芸に至っては3.2%!!!全国におおよそ普通科高校は3700 校くらいあるが、その中で工芸を選択科目として開設しているのは200校以下。総合学科という興味がある教科・科目をより自由に選択できる単位制型の学科においても音楽や美術に比べるとかなり少ない22.2%に留まる。

なぜこれだけ選択されていない(学ばれない)科目がそのまま放置されているのか…。

「美術」と「工芸」の違いについて
中学までは「美術」だった教科が高校では細分化され「美術」と「工芸」に分けられるのだが、その名のとおり、扱う範囲が違う。少々簡略化してしまうと、美術では絵画や彫刻を鑑賞したり作品を制作をするのに対し、工芸では工芸品やプロダクトなど、生活の中のデザインや伝統工芸について学んだり、”技”を身につける制作をする。美術は「へた・うまい」で語られてしまうこともあるけれど、工芸における生活の中にある身近なデザインや意味のある造形は人によってより身近に感じられるのではないだろうか。

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「工芸」が学ばれないことにおける問題点
「美術」と「工芸」が別の科目となっているため、当然学ぶ内容が示されている学習指導要領も別々である。「美術」を柔軟に捉えることによって工芸的な題材を扱うことも可能であるが、例えば「陶芸」を扱う場合、工芸では「箸置きをデザインして制作する」と設定し、箸が転がらないデザイン、どのような使用場面を設定し、どのような人に向けて制作したのか、というような観点が想定される。一方美術では、「好きな形の陶器をつくる」という設定で、制作したものの造形美、色味、土という材料の特質を活かした制作というような観点の方が科目の特質に適していると考えられる。同じ材料でも、制作する上で重要視される視点や能力が異なる。「デザイン」分野においても「美術」はポスターや視覚デザインを扱うのに対して、「工芸」はプロダクトデザインから建築も含む環境デザインも扱う。どちらも学ぶことで「デザイン」とは何か、という包括的なイメージが形成される。教科を分けることで、学ぶ内容がある種分断されてしまっているのである。

このような現状について、私自身まったく知らなかった。しかし、美術・工芸の教員免許取得のための勉強をはじめて、「最近、工芸の免許を取る人はほとんどいない」ということを知った。これは負の連鎖でもある。工芸の免許は必要とされていないため、高校工芸教育は先細りだ。でも、この問題、新しいことではないらしい…1996年に書かれた評論に「工芸」開設が少ない現状が書かれている。

学習指導要領の改定、各学校での新しいカリキュラム編成時期真っ只中
高等学校は2022年より新しい学習指導要領が適用される。多くの議論を呼んでいるセンター試験から共通テストへの移行もその一環である。併せて、各高校で、新学習指導要領に沿った科目の編成(教育課程)決めがはじまっている。そのような中で、進学実績を上げることが優先され、芸術科目は一番に削減される。もちろん、芸術1科目は選択必修科目として設定されているが、教員の定数、講師の確保も含め、選べる選択肢が減らされたり、「芸術は音楽一択!」なんて学校もあるかもしれない。地方と都市部の格差もある。そんな現状、もっと広く知られて欲しいし、議論されて欲しいと思う。

大人の世界では、工芸はブームである。日本の伝統工芸を盛り上げようという取り組みも多い。でも、もっと地道で持続可能な伝統工芸やものづくり分野の底上げは別のところにあるのではないだろうか。

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