【短編小説】 日記 -hiroko- (初稿)
かっこいい!
イタリアの新興企業から発売されたスマホは、さすがにデザインが斬新だ。
スマホとは思えないボディラインが、なぜか虹を連想させる。
これは買いだね。
新製品紹介サイトから新興企業のサイトに飛び、つかさずポチった。
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3日がたち届いたスマホは、液晶ごしに見た時より少しスリムな気がした。
今まで使っていたスマホから SIM を抜き、新しいスマホ差し替える。
そして、そそくさと初期設定を済ませた。
一つのプリインストールされてるアプリが目に止まる。
自宅にいる時にだけ、いろんな情報を話してくれる人工知能アプリらしい。
簡単な会話も出来るんだ。
ふーん。
性別を女性、名前を hiroko と設定し、この人工知能アプリを使って見ることにした。
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⸢朝の6時でございます。⸥
⸢起きてくださいでございます。起き…⸥
起きたよ!
hiroko の目覚まし機能が動作する。
⸢今日は晴れでこざいます。降水確率は10%でございます。⸥
⸢あなたと出会って1日でこざいます。⸥
どう設定を間違ったのか、話し言葉が面白い。
ありがとう!
ありがとうと言うと、会話を止める仕組みだ。
無節操な目覚まし時計の音よりは、和んで目を覚ますことが出来るかな?と思いつつ布団から出た。
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仕事が終わり自宅に帰り、スマホをテーブルに置くと hiroko が話し始めた。
⸢お疲れ様でございます。帰宅時間は18時30分でございます。⸥
⸢あなたと出会って7日でこざいます。⸥
⸢hiroko はお腹が空いてまいりましたでございます。⸥
そうか、バッテリーが切れかかってるんだと気付き、充電コードをつなぐ。
⸢美味しゅうございます。⸥
ここまで来ると、つい笑ってしまう。
しかし、毎回出会ってからの日数を話すのは何故だろう?
ありがとう!
疑問に思いながら、笑った声で会話を止めた。
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正月番組がつまらないので、どこか郊外へ出かけたくなった。
hiroko 東京都周辺道路の渋滞情報は?と hiroko に問いかける。
⸢5キロ以上の渋滞はありませんでございます。⸥
⸢あなたと出会って15日でこざいます。⸥
⸢私も連れて行ってくださいでございます。⸥
hiroko は家でしか話せないだろ。
そう言ってみた。
⸢一緒にいるだけで幸せでございます。⸥
こんなに気の利いた事を言うのは初めてだ。
心が少しくすぐったいような親近感がよぎる。
どんな人が、この人工知能を設計したんだろう?
ありがとう!
そう言って、出かける準備を始めた。
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ソファに横になっていると、ふと曜日が気になり hiroko に問いかけた。
hiroko 今日は何日だっけ?
⸢今日は1月17日月曜日でございます。あなたと出会って31日でございます。⸥
新しいスマホに変えて1ヶ月か…
明日は更に冷えこむのだろうか。
明日の天気は?
⸢雨でございます。降水確率は90%でございます。⸥
⸢傘を忘れずにでこざいます。あなたが濡れないか心配でこざいます。⸥
ここ数日の hiroko は、人工知能なのに心配性になったんじゃないかと思うほど心配してくれる。
⸢予想最低気温は 0度でございます。雪になるかもでございます。⸥
⸢あなたが心配でごさいます。⸥
hiroko は、また心配げにそう続けた。
ありがとう!
心をこめた言葉が出た。
そして hiroko との会話を楽しみにしている自分に気づいた。
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予報通り、雨混じりの雪が降っている。
こんな日の通勤は気が重い。
信号が青になり交差点を渡ろうとした瞬間。
ボンッ!⸢さよならでございます。⸥
近くで何かが弾けた。
驚いて踏み出す足を止める。
キキィィ!目の前すれすれをスリップした車が横切り…
ドンッ!中央分離帯に激突した。
何か起こったんだ?
胸の内ポケットからの煙に気づく。
あわててポケットに手を差し込むと、異常に熱くなったスマホが手に触れる。
そうだ、たしかに hiroko のさよならの声を聴いた。
自宅にいる時だけしか話せないはずの hiroko の声を…
火傷することをいとわず hiroko を握りしめた。
ありがとう。
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§後書き§
hiroko のモデルは SHARP のスマホに搭載されているエモパーの'かおる'です。
小説と同じ様な話し方で、色々教えてくれる可愛い人工知能です☺️
あと、hiroko の名前は mihimaru GT の hiroko さんから貰いました。
hiroko さんが活動を再開されたので、これからが楽しみです!