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この世の全てを知りたいと思うから、溺れてしまいそうになる

 時は金なり。30代も半ばとなり、本当にその通りだと思うようになった。1日の時間は24時間で変わりないのに、ここ十数年で世界が進むスピードは爆発的に速くなった。おそらくIT技術が進歩したことにより、凄まじい量の情報にアクセスできることが関係していると思うのだけど。都会に住んでいると、数分で訪れる電車だとか、一瞬で移り変わっていく広告や店舗だとか、目的地に向けて歩いている人の量だとかで、より一層そう感じる。

 そうして漏れなく私も、効率や生産性という言葉に惹かれていた。SNSでは、その人の興味のありそうな広告を選んで出していくという。目に飛び込んでくるのは「生産性を高める」「思考力」「効率よく」という言葉たち。それらを解説するページには未来が詰まっているように見えた。私もそんな風に、確実に一歩一歩進みたいと思った。

 毎日のほとんどを仕事に費やし、家に帰れば疲れ切って寝るだけの生活。それだけじゃ、みんなに置いていかれそうな気がして。もっと効率よく仕事をしなきゃ、そう思って説得しようにも経験の壁に阻まれて意見を通すことが難しかった。自分が納得できない方法で仕事をすることが、こんなにしんどいことだとは。

 本当は、ゆっくりと過ごしたいんだ。静かな部屋で、気ままに本を読んだりして。好きなご飯を作って、美味しいおやつを楽しんだりして。ときどき海辺や川辺などの水のあるところを訪れたり、星を眺めたり、美術館を巡るのも楽しそうだなぁ。

 時間に追われる毎日。贅沢に時間を使うことで、人間性も豊かになっていくと思うのだけれど、置いていかれるのが怖くて動けなくなっている。だったら挑戦してみればいいと思うのに、失敗が恐ろしくてたまらない。結局、パソコンの前でダラダラと時間を費やし、コーヒーを啜って、1日を無為に過ごすのだ。何も起こらない人生。詰まらないけど、心は凪いでいる。今だけは。

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