見出し画像

理科室※性描写あり

芦原恋(あしはられん)は出席番号一番の地味な女だ。
しかし高校生という幼稚な人種は彼女のような退屈で地味な人間を許さない。
華やかな花園にとって彼女は間引きされるべき存在なのだ。
間引きされた彼女を拾ってきて、強引に性器を咥えさせる。
股間に顔を埋め必死に舌を動かす彼女を見ていると、あんまり惨めで腹が立ち、それと同時に嗜虐心が刺激され萎えていた欲が膨張する。
口から溢れるペニスを頬張り、喉奥を付けば鼻を垂らしてそれに応えた。
惨めな奴。
理科室の椅子は背もたれが無くグラグラと不安定に揺れ上手く腰が動かせない。
校庭の常夜灯だけが差し込む真っ暗な部屋に、床と椅子が擦れる音と、蕎麦でも啜っているような猥雑な音が響く。
「暑苦しいなあ」
もう5月だというのに彼女は未だ黒のニットを袖も折らずに生活している。
汗ばんだ重たい前髪から鋭い眼差しが覗く。
生白い腿を足で割ると、甘酸っぱい匂いがむんと広がり、室内の温度が2度くらい上がった気がした。
室内履きのまま股間をなぞると彼女は自らゆらゆらと腰を動かし始める。
救えない奴。
今日は体育があったらしくいつもより油っぽくなった黒髪を掴み、喉に思い切り腰を打ち付けると、唾液や粘液のごぽりという音と共に低いうめき声漏れた。
それでも彼女の舌は挑発するように蠢き、男の足にぐいぐいと柔らかな丘を擦り付け快楽を得ようとしている。
負けじとひたすら口内を犯した。
ぼさぼさの眉に鋭い切れ長の目、刺激され真っ赤に腫れ上がった厚ぼったい唇。
黒フレームの安っぽい眼鏡のレンズは指紋だらけで、鼻息や湿気によりいつにも増して曇っている。
浅ましい奴。
ガキのくせに生意気に雌として生きようとしている。
一丁前に股間を濡らして雄を受け入れようとしている。
(お前なんかにくれてやるか)
ゴミ箱から拾っただけのお前なんかに。
下着も脱がさず、胸を開くこともなく。
便所で用を足す様に、シンクにカップ焼きそばの湯を捨てるみたいに。
顔面に思い切り雄を解放してやった。

早乙女二郎が知り合いの伝でとある女子校に生物の教師として赴任すると、生徒たちの間では俳優の○○に似てるだとか、あのミュージシャンに似てるなどという陳腐な話題で持ちきりになりちょっとしたブームを巻き起こした。
下らないと笑い飛ばすような些末な話だが、この学校の教職員にそこまでの柔軟性は無かった。
早乙女は教頭から学校の歴史や施設の紹介だけでなく、生徒との接し方から距離感まで事細かく説明される羽目となった。
実際の彼はそこまで注意深く観察されるほどの容姿ではないのだが、女子校という閉鎖された空間と、未来が約束された鳥籠のお嬢様達にとって、彼は一番身近に感じられるアイドルとして、弁当を食っているだけでもそのおかずや箸の持ち方について話題にされるほどの立ち位置となってしまった。
そういった過度な羨望の眼差しは度々若者を馬鹿にするものだが、早乙女二郎という悲しい青年は馬鹿に成ることさえできないほどに繊細で真面目だった。
二郎の父親は大学病院の院長で母親は専業主婦をしている。
1歳違いの兄は現在父と同じ大学病院の研修医として働いていた。
彼自身も幼い頃から医者になろうと頑張ってきたのだが、自分とそう歳の違わない優秀は兄に対しての嫉妬心と劣等感ばかりが募っていった。
いつしか同じ土俵に立つことが怖くなった二郎は教師の道を選んだが、その選択は医者家系の彼にとって逃亡という形に捉えられた。
もともとそう期待されていないと分かっていても、尊敬し追い求めてきた父に心底失望したと言われたときは死んでしまいたいとさえ思った。
そんな彼にとって唯一彼らより優れていると自覚しているところがある。
それは親しみやすく爽やかな容姿だった。
兄は昔から小太りで身長も低く、顔もふっくらと丸みのある全体的に野暮ったい風貌をしている。
それは恐らく父からの遺伝で、父も似たような要素を持っているのだが、目つきが鋭く顔に威圧感があるため、兄と造形は似ているのだが、どこかできる男の雰囲気を纏っている。
二郎だけはかつて大学のミスコンに選ばれた美しい母に似て細身で手足がすっと長く、それなりに華やかだが主張しすぎない目鼻立ちで、全体的にすっきりと爽やかな容姿をしていた。
そのため幼い頃祖父母や親戚に可愛がられたのは兄よりも二郎だった。
素養を気にしない人たちが自分の容姿を褒めてくれるときだけが、唯一兄に対して優越感に浸れる瞬間なのだった。
しかしそんなことが嬉しいと思えたのも幼い頃だけだった。
歳を取るにつれ男は学歴や社会的地位を重要視するようになり、女性は容姿と財力しか見ていないことに気がついた。
早乙女次郎という人間の内面や歴史を彼女達は見ようともしない、そしてそれは十代の女子高生も同じなのだった。
俳優やアイドルに例えられるのは偶像崇拝と変わらない。
女性は皆早乙女二郎という人間に興味はない。
早乙女二郎を形作る肉の壁にしか用がないのだ。
こうして二郎は自分の容姿に飛びつく女性を軽視するようになった。
折角の長所である容姿でさえ、コンプレックスを刺激し卑屈さを加速させるだけだった。
バレンタインデーには得体の知れないチョコレートを貰い、誰にも話していないはずの誕生日にはそこらの女子高生では買えないようなブランドものの煙草ケースや定期入れなどをプレゼントされる。
早乙女二郎という偶像に与えられた全てを、彼は自宅近くのコンビニで処分していた。
そうして二郎が赴任してきて2年目の誕生日にそれは起きた。
職員室が苦手な早乙女は普段第二実験室に居座って昼食をしたりテストの採点をしたりしていた。
その日も生徒からのプレゼントを処分するつもりで実験室の机に座り一通り開封作業をしていた。
一度開封して中身を見ておかないと後日生徒から感想をせがまれたときに嘘をつくのが大変なのだ。
面倒くさいと思いつつ開封してくと、ある紙袋から派手なブラジャーとショーツがずるりと飛び出した。
今まで色々なものを貰ってきたが、こんな下らない悪戯は初めてで流石の二郎も声を出すほど驚いた。
女子高生なんかに馬鹿にされている。
腹立たしい思いで名前を確認すると「芦原恋」と記されていた。
芦原恋は早乙女の担任している2年C組の生徒だ。しかし彼女に対する印象は地味で野暮ったくて、クラスの派手な女子に邪険に扱われているという印象しかなく、とてもこんな下品な悪戯をしてくるタイプには思えなかった。
恐らく問題児の竹内か誰かの仕業だろうと机に広げたプレゼントを無造作に紙袋に詰めていると背後に人の気配を感じた。
「それ、返してください」

「芦原ってなんでそんなに痣だらけなのぉ?」
竹内愛のわざとらしい大声がクラスに響き渡る。
今日は取り巻きの安藤楓と沢田奈緒子がいない。
周りの生徒は無視していいのか反応した方がいいのかお互いそわそわと目を合わせている。
竹内はふんわり巻かれた茶髪を一差し指でくるくる弄りながら芦原の机に座った。
横柄な態度だが、そんなことを黙らせるほどの美貌を彼女は持っている。
元々それなりに整っているのだが、彼女は十代前半から二重幅や頬の脂肪吸引などあらゆる整形をしている。
不自然なほど大きな瞳と尖った顎、欲しいものはなんでも手に入れることのできる彼女に怖いものは無い。
美容レーザーやビタミン注射は欠かせない。会員制のジムで体型を整え、夜は父親のコネで繋がった若手俳優や読者モデルを集めてコンパをしている。
彼女の父親は誰でも知っている飲料メーカーの社長をしており、大事な一人娘に好かれるため幼い頃からなんでも好き放題させていた。
愛にとって男というものは、自分を存分に甘やかし、無理難題に応え、ひたすら愛でてくれる存在でしかなかった。
だからクラスメイトがしている恋愛話などは自分とは関係のない別世界の話だと一切興味が無い。
担任が早乙女二郎になったときも、普段自分がセックスしている男達の方が断然スタイルも良く顔も良いので気にも留めなかったのだが、数ヶ月経っても彼の人気が衰えないことに愛をとても不満だった。
「ねぇ、聞いてる?芦原さーん?」
グレーのカラコンと睫毛エクステでギラついた目玉が芦原を見下ろす。
「あなたに関係ない」
見た目の野暮ったさからは想像もつかない凛とした声で芦原は応えた。
「はあ?関係ないとかじゃなくて、痣だらけでキモいっつってんだよ!」
芦原の座っている椅子を蹴り飛ばす。
不愉快だった。
ついさっき、仲良くしてやっている安藤楓が早乙女二郎の誕生日にプレゼントを買ってきたとはしゃいでいた。
気に食わなかったから「男の趣味悪すぎ」とプールに投げ捨ててやった。
愛に言い返すことのできる者などいない、それは仲良くしている楓でさえそうだった。
楓は「なんかごめんね〜」と笑ってはいたが、目には涙が滲んでいた。何日も前から悩み、自分の小遣いで買ったプレゼントだったのだ。
しかし愛にそんなことは関係ない。
とにかく虫の居所が悪かった。
芦原に因縁を付けているのは完全に八つ当たりなのだが、一番最初に目についてしまう彼女が悪いのだ。
「ねぇ、その痣誰につけられたの?親?彼氏…なわけないか!」
芦原の頭を叩きながらげらげら笑う愛を女子達は見ないフリを決め込んだ。
そんな空気も愛をよりイラつかせた。
このクラスの半分以上はあの早乙女二郎に恋愛感情を抱き、奪い合うわけでもなく、早乙女の授業でのエピソードや着ていた服の話をお互い共有している。
(馬鹿じゃないの?どうせ本心じゃ自分のものにしたい癖に)
気持ち悪い。
抜け駆けしたら悪口を言われ、こそこそ虐められる。
この学校で早乙女二郎と付き合うことが許されている人間なんか居ない。
本気で付き合おうとしている人間もいない。
共感が全ての女子社会で抜け駆けは通用しない。
ただ一人を除いては。
そのとき、偶然見下ろす形になったことで芦原の首の付け根に淫猥な鬱血を見つけた。
しかもそれは一つじゃないようだった。
大人しい顔をして。男をなんか興味無さそうな顔をして。
(このブス、実は超ビッチなんじゃないの?)
そのとき愛はある計画を思いついた。
「ねぇ、愛めっちゃ面白いこと考えちゃった!」
愛は芦原の腕を掴み強引に袖を捲ると、油性マジックで何かを記し、満足気な様子で教室を出ていった。

「それ、返してください」
振り返ると芦原恋が立っていた。
「え、あ、それってもしかしてこれのこと?」
声が上擦る。
女性の下着だというのに思わず鷲掴みにして差し出してしまった。
芦原は履いている意味が無さそうな布地の少ない下着を受け取ると、眼の前でショーツを履きだした。
「ち、ちょっと待て!」
芦原はきょとんとしている。
男の前で着替えるのも、いま現在下着を履いていないのも、人から受け取った下着を履くのも、何もかもがおかしい。
思考が追い付かない。
「俺が出ていくからその間に着替えてくれ」
廊下に出て、ひんやりとした壁に凭れた。
早乙女の頭の中は、芦原が自分の目の前で下品な下着を身に着けようとしていることも、下着を履いていないという状態だということも関係ない。
ただただ彼女の存在に心を掻き乱された。
(なんなんだよあいつ、頭おかしいんじゃないか?)
なんとか思考を落ち着かせる。
異性の前で着替えることに何の抵抗も無いのか、それとも何か試されているのか。
どちらにせよ誰かに見られたら大問題だ。
彼女の着替えが済んだら、プレゼントの件について軽く話を聞き、説教は明日にしてさっさと帰してしまおう。
「着替え済んだか?」
「はい」
教室に入ると芦原は何事もなかったかのように安定の悪い木製の椅子に座っていた。
先ほどまで自分が手に掴んでいた派手な下着を付けているかと思うと悔しいが身震いしてしまう。
「俺の誕生日プレゼントの中にお前の下着が紛れ込んでいたみたいなんだけど」
単刀直入に本題に入る。
芦原と目が合う。
丸裸にされているような気分になる。
さっさとこいつを帰してしまいたい。
「悪戯じゃないですかね」
どうでもよさげにそう言った。
怖い。
何かを見透かされているような気がする。
「他人事だな」
どう対応していいかわからない。
思考がどす黒い何かに飲み込まれそうになっている。
「お前はどうしたい」
悪戯の件を言っているつもりなのに、自分で何を言っているのかわからない。
「先生はどうしたいんですか」
そんなのしたいに決まっている。
芦原が膝の瘡蓋を掻く。その手がだんだん腿に上がっていく。
捲れたスカートから見える真っ白い腿につけられた無数の鬱血に目が離せなかった。


早乙女二郎は幼い頃家庭教師によって無理矢理強姦された。
自慰行為ですら自己嫌悪に陥るほど潔癖だった13歳の二郎にとって、女性に組み敷かれ強引に快楽へ導かれる行為は恐怖でしかなかった。
自分より体格の大きい女性が子供の小さな性器に跨り獣のように呻く姿は、悪夢として度々彼を苦しめた。
彼にとって女性は全てが敵であり、例えそれがあたたかな好意だったとしても、それに付随する「性」に対しての拒絶が強くなってしまう。
子作り以外の性交渉は排便や食事にも劣る下等な行為だと信じていたし、風俗などの性サービスに関しては、利用する男性よりも働く女性に対しての嫌悪感の方が強かった。
それ故に早乙女は確認したかった。
芦原の裸が見たかったわけでも、性行為がしたいわけでもなかった。
ただ確認したかった。
スカートを捲ると真っ白い脚に夥しい数の鬱血と、噛み跡のようなものが広がっていた。
脚の付け根は特に執拗なほど鬱血の跡があり、付けた奴の粘ついた執着心を感じられた。
次にブレザーを剥ぎ取りワイシャツを捲ると、お腹から胸の膨らみにも同じものが散らばっている。
気が付くと芦原を全裸に剥いていた。
彼女は不思議な熱を帯びた視線で早乙女を見つめている。
ずれた下着からは乳房が溢れ、茂みの奥から雫が零れていた。
真っ白いこの丘はどれだけの欲望を受け止めてきたのだろう。
自分よりも10歳以上若い小娘が、自分なんかと比べものにならないほど人間の欲望に触れてきた事実に劣等感と嫉妬心で頭の血管がはち切れそうなほど膨張する。
自分よりも弱い生き物が、自分よりも逞しく浅ましく生きていることに二郎はひどく安堵した。
上書きしよう。
そうすれば今度こそまともになれるのかもしれない。
「お前は何がしたいんだ?」
芦原は何も言わずにゆっくりと両手を開いた。
何かが許された気がした。
家族に対するコンプレックス、女性に対する恐怖、生徒に対する猜疑心。全てがどうでも良くなった。
とにかく今はこの白い丘に寝ころび、赤子のように乳を吸い、胎児のように子宮に挿入りたい。
世の中の男達が普通にしていることを自分もしてみたい。
まともになりたい。
冷たい床の上に寝ころぶ芦原の全身を舐めまわし、誰かが付けた鬱血の跡をいじましく吸った。
「可哀想な奴だ」
誰のことだろうか。
ただどれだけ汚せば上書きできるのかと、そればかり考えて居た。

「琴音ちゃん、今日お茶していかない?」
「ごめん、今日は彼氏とデートなんだよね」
「そっか~、じゃあまた今度!」
彼氏なんかいないけれど、嶋村琴音はアイドルの東雲ショウゴ関連の予定には全て彼氏とのデートと答えている。
そのため現在恋人と交際5年目ということになっているが、友人たちは垣間見える不自然さからそれを見栄を張るための嘘だと思っていることを本人だけは知らない。
今夜の21時からショウゴが主演を務めるドラマが始まる。
それまでに琴音は食事や風呂を済ませ、放送中に食べるお菓子やお茶の用意など、ドラマが始まるまでに色々と準備しなければならないのだ。
誘ってくれた五十嵐美紀には悪いが、琴音にとって東雲ショウゴとは、親が死んだりしない限り何よりも優先される存在なのだ。
(ママに輪廻堂のバームクーヘンを買っておいてってラインしないと)
今日のドラマのお供はバームクーヘンの気分だった。
均等に層を連ねた生地と、側面に固められた砂糖をフォークでさっくりと切ったときのなんとも言えない感触を想像してうっとりしていると、肩に誰かの鞄がぶつかった。
「あ、ごめん」
申し訳なさを微塵も感じさせない声音で芦原恋が通り過ぎて行った。
さっきまでの夢見心地な気分が台無しになる。
芦原とぶつかった方の肩を掃った。
(きも・・・)
琴音は芦原のことが苦手だった。
痣だらけでも眩しいほど白くきめ細かい肌、分厚いセーターを押し上げるほどのボリュームある胸と細い首。
眠そうなのか睨んでいるのか曖昧な特徴のある目元は何故か琴音を焦らせた。
芦原恋が誰かから暴力を振るわれているのは周知の事実だった。
着替えのときは目を背けたくなるような肌が嫌でも目につくし、夏でも第一ボタンまで閉めて暑苦しい恰好をしているのも、暴力の痕を隠すためだと皆わかっている。
わかっているけど、この学校に通う品行方正な少女達は、ただ一人を除いてそれを指摘することすら汚らわしいと彼女に近づこうとはしない。
芦原は地味だとかダサいとか評されることが多いが、琴音は彼女に対して妙に劣等感を抱いてしまう。
それは琴音のような健康的な少女たちが神聖視している「性」というものの醜い側面を、芦原という少女が体現しているよう無意識に感じてしまうからかもしれない。
クラスメイト達は芦原から漂うほの暗い性の香りを感じていないのだろうか?
それとも琴音のように彼女の女性としての魔性に気づかないフリをしているのだろうか。
(変態のおっさんにモテそう)
そう思うことで、琴音は芦原とは全く違う自分の健康的な魅力に自信を持つようにしていた。
(ショウゴは太ってる子が好きだからいいんだもんね)
琴音は誰が見ても肥満体型だ。
両親はよく食べる琴音をかわいいかわいいと甘やかし、美味しいものをたくさん与えてきた。
寝る前でもお腹が空いたと言えばケーキやお菓子が出され、出かけた先で目についた美味しそうなものは琴音が食べたいと言えばなんでも食べさせてくれた。
幼い頃は太っていることで揶揄われたりすることもあったが、高校生にもなると育ちのいいお嬢様しかいない中高一貫の女子高のおかげか、体型について言われることはなくなった。
今でも両親から毎日のように可愛いと言われながら暮らしている琴音が少しばかり容姿に対して盲目になり自信過剰になるのは仕方がないことだった。
しかしそんな彼女でも時折肥満へのコンプレックスが襲ってくることはある。
告白されたこともなければ、男友達もいない。
いつか彼氏が出来ると信じているけれど、彼女なりに太っている自分を受け入れてくれる人が少数であるという現実も理解していた。
そんなとき、人気アイドルグループの東雲ショウゴがとある雑誌のインタビューを受けているのを目にした。
それはよくある好きな女性のタイプについての質問だったのだが、それに対してショウゴはこう答えていた。
「痩せているよりは、少し太っている子が好きかな」
東雲ショウゴについては知っている程度だったが、このインタビューを見た瞬間から琴音は東雲ショウゴのファンになった。
潜在意識下にあった肥満に対する不安な気持ちが全部取り払われるようだった。
彼のいう「少し太っている子」というのが肥満に当てはまるかは別として、痩せていないということにこんなに自信が持てたことは今まで一度だって無かった。
そのとき琴音は初めて女性として生きることを許された気がした。
(お腹すいたし、早く帰ろう)
重たい身体を揺らしながら駆け出すと、丁度教室から出てきた人にぶつかってしまった。
「す、すみません!」
「いや、大丈夫だよ」
「早乙女先生・・・」
琴音は彼のことも苦手だった。
それはクラスメイトが早乙女に似ている芸能人として挙げられる中で圧倒的に多いのが東雲ショウゴだったからだ。
優しい奥二重の目元や、通った鼻筋など少し似ているかもしれないが、こんなに愛してやまないショウゴにその辺の男が似ているとは絶対に認めたくない。
琴音は毎晩ショウゴに抱かれる妄想をしている。
友人に借りた少しえっちな少女漫画や、ネットで連載されている素人が書いた恋愛小説の気に入ったシーンを自分とショウゴに置き換えて楽しむのが日課になっている。
それほどまでに強い想いを抱いているショウゴに早乙女が似ていると認めてしまったら、自分が今までショウゴに捧げてきた時間や想いが無駄になってしまうかもしれない。
だから琴音は絶対に二人が似ていると認めるわけにはいかなかった。
(男の人の手って、こんなに熱いんだ)
転びそうになった琴音を支えるため掴まれた腕がじりじりと痺れる。
大きな筋張った手が、自分の餅のような白い腕に食い込んでいる。
(私ってば何ぼーっとしてんだろ!)
はっとして、琴音は男性に触れられているという事実に驚き顔を真っ赤にして大慌てで手を振り払った。
「失礼しました、さ、さようなら!」
「さよなら、また明日」
心臓がどくどく脈打っている。
この程度のことでここまで動揺してしまう自分の初心さと、大嫌いだった早乙女に心動かされている事実がどうしようもなく恥ずかしくて、何より悔しかった。
(嫌い嫌い嫌い!早乙女も芦原もみんな嫌い!)
早く帰って濃いめに淹れたミルクティーと輪廻堂のバームクーヘンが食べたい。
絶対に付き合うことができない東雲ショウゴのドラマを見て穏やかにときめきたい。

早乙女二郎の父には愛人がいた。
その愛人は二郎の家庭教師も務めていたが、いつまで経っても結婚してくれない二郎の父への報復として彼女は二郎を犯した。
そのことを二郎の口から言えるはずもなく、いつしか彼女は二郎の子を妊娠し、女児を出産した。
DNA鑑定や浮気の様子などの証拠を突き付けられた二郎の父は、その女にマンションと金を与え二度と関わらないことを約束させた。
しかし既に用の無い娘をまともに育てられるはずもなく、彼女は9歳になった娘を愛人宅の前に棄てて行った。
ことを公にされては困ると思った父は、少女にマンションの一室を与え、その世話を実の父親である二郎に任せることにした。
少年時代に女性に犯され深い傷を負った二郎の歪みは、弱者を虐げることによってのみ安心感を得らるようになり、それはいつしか小児性愛という形に落ち着いた。
自分の娘だと知るはずもない彼は、父が自分の性癖に気付きあてがってくれたものだと自分勝手な解釈をし、自分のコンプレックスや挫折など様々なストレスを全てその少女にぶつけた。
小さな体を無理矢理開き、見えない部分に痣を付けることで自分は強い雄だという実感を得なければ正気を保っていられなかった。
しかし内と外での差異が激しくなると、今度は精神が追い付かなくなった。
コンプレックスに塗れた潔癖な自分と、少女を犯す醜悪な自分があるとき乖離した。
それは少女と二人きりのときにだけ起こる悲しい現象であり、彼女はそんな彼を可哀想だといつでも健気に慰めた。
二郎も少女と同じように家族に棄てられたというのに、本人だけがその事実に気が付く余裕がなかった。
彼は少女を哀れに思うことで救われ、少女は彼を慰めることで救われていた。
しかし挫折の果てに教師となった彼の精神は既に壊れていた。
マンションの一室で寛いでいる少女と教室の隅で佇む少女が同じだということが、彼にはわからないのだ。

顔面に生臭い液体が撒かれた。
私はこれが舌にしつこく纏わり付く感触が好きだ。
口の中でニチャニチャと味わう。
美味しくないけれど、愛しさで胸がいっぱいになる。
痛いのも苦しいのも平気だけど、悲しいのは好きじゃ無い。
この人とするのはとても気持ちがいいのに、私はとても悲しくなる。
動物や赤ちゃんみたいに、言葉はないけれどその分必死に体で表現してくる。
そんな必死な姿が可愛いから私もそれをしっかりと受け止める。
でも、そうして受け止めた私を見てその人は悲しそうな顔をする。
だから私はこの人に抱かれるのが嬉しいのに悲しいのだ。
(可哀想な人)
今日も沢山傷付いたのだろう。
寝顔が可愛かったので写真を撮った。
それにしても竹内愛は凄い。
自分たちの関係に気付いては居なかったけれど、弱い人間がどうしたら壊れてしまうかを無意識に
理解している。
単純な罠にも関わらず、彼は呆気なく壊された。
私たちは彼女にとって最も面白く熟すまで、理科室に閉じ込められた。
鍵のない部屋で監視員のライトを避けながら性行為をするのはなかなか肝が冷えたが、何かに怯えながらも何度も何度も精を吐き出す彼に普段とは違う愛しさを感じた。
こうして大事にあたためてきたものは満を侍して大々的に公開されることとなった。
彼女は生物の授業で使う予定だった動画を私達の性行為動画と差し替えた。
何も知らない彼が再生ボタンを押すと、プロジェクターにでかでかと私たち二人の痴態が曝け出された。
清潔な少女達の様子は正に阿鼻叫喚といったものだった。
ある少女は豚のような顔を歪め号泣し凄まじい金切声で私を罵り、ある少女は絶望と嫉妬に静かに涙を流す。教室はまさに地獄絵図だった。
そんな中で竹内愛だけがその様子をスマホに収めながらげらげら笑っていた。
彼はと言うと、動画を止めるでもなく、この騒ぎを収めようとするでもなく、ただ茫然と立ち尽くし吐き気を堪えていた。
顔面蒼白で今にも倒れてしまいそうな彼を今すぐ抱きしめてあげたかったけれど、その時の私にそれはできない。
もう誰も彼をアイドルのように持て囃さない。
犯罪者や変質者など、穢らわしい者として認識した少女達の負の感情や失意の念が教室中に立ち籠めていた。
暫くすると騒ぎを聞きつけた教師たちが駆けつけ、巨大なスクリーンに映る卑猥な映像にぎょっとし、確認もせずパソコンを強制終了させた。
映し出されていた裸の男女が今この教室内にいるなんて夢にも思っていなかったのだろう。
しかし少女達の様子から何かしらの事情に気付いた教師たちは大慌てで彼を外へ連れ出した。
それから彼は即解雇となったが、立派な父親のおかげで新聞沙汰にはならず、ネットの掲示板でこっそり話題にされるだけだった。
家族から完全に縁を絶たれた彼だが、この件により病気が明らかになり生活保護を受給できるようになったことで生活は最低限なんとかなっている。
私は被害生徒としてカウンセリングを受けたり婦人科に通わされたりと厚く保護されたが、細かい事情を知る大人たちや、彼の父親のおかげで今も変わらず同じ学校に通っている。
相変わらず腫れもの扱いなことに変わりはなかったが、一番大切なものが帰ってきた悦びは何にも変えがたい幸せだった。
我ながら図太いと思うが、私は竹内愛という生徒に感謝している。
「ん~おねえちゃん」
「二郎くん、どうしたの?」
もぞもぞと乳房を弄られる。先端をちゅうちゅうと吸う彼の頭を撫でてやるとくすぐったそうに微笑んだ。
「ねえ、おちんちん舐めて」
「また?さっき舐めたばっかだよ」
いいから早くと頭を掴まれる。成人男性の力に抗えるはずもなく私は再び性器を口に含んだ。
先端を舌で刺激し、その下の袋を手で優しく揉みしだく
男根を奥まで飲み込み唇で扱き、喉に向かって思い切りぶつけていく。
そうするとたまらなくなった彼は自ら腰を動かした。
子宮に挿れるときと変わらない力加減で喉を犯されるのは、とても苦しいが幸福だった。
遠慮のない行為は、信頼されていると感じる。
(これが家族なんだよね)
凄まじい口内への挿入に嗚咽と涙が溢れるが、余裕のない彼はより快楽へ昇りつめようと乱暴に腰を動かす。
「ああっ、出る、出るよぉ!」
性器をひくつかせながら、さっきよりも薄い体液が顔や服に飛び散った。
哀しい人。
弱いくせにまともな人間として生きようとしている。
一丁前に股間を腫らし雌を孕ませようとしている。
(大丈夫、普通じゃなくても、優秀じゃなくても)
「愛してるよ、先生」
眼鏡に飛び散った雄をシャツで拭う。
歯磨き後のうがいみたいに、彼の精液を吐きだした。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?