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ES 14

 女は薄暗い地下室の、冷たい地面に座り込んでいた。その向かいには、まだ幼い面影を残した少女が立っていた。その場所は、『我々の知る世界』に限りなく近い存在感を持ちながら、それでいて、『似ているようで何かが違う』神秘的な気配を漂わせていた。その世界は、人の魂に強く示す何か ー を、含んでいるようでもあった。

 女は座ったまま、顔をその少女の方に向けて言った。

「私、見たの。あの男が、あの男が…あの娘を、殺したのよ」

 女が少女に会い、話したのは、今ここが始めてであった。お互いに面識はなく、二人は気が付いた時に、ここにいた。そういった漠然とした状況に疑問が持てないほど、女は『ぼんやり』していたし、その少女は自身の魂が消滅しかけていたことを悟っていた。それ故に少女は、その女の話を聞きたかった。

「だったら、どうだというの。私はもう、死んでいるのに」

 女の向かいにいた少女は、女の質問に、淡々と答えた。その声の調子には、人としての情感はこもっていない。

「!?…そう、じゃあ、あなたが」

 女は何かを悟ったが、それでいて事態の全貌は未だ、把握できていない様子であった。

「いろいろと聞きたいことがあるわ。バカなことを聞くようだけど、あなたはなぜ、自分が死んだってわかるの」

「だって私は、死んだ時のことを覚えているもの。でも、あなたの場合…」

 少女は暗がりの中から、鋭く女の方を見つめていた。

「あなたはまだ死んでいないわ。でも、多分…」

 少女は伏し目がちになり、言いにくそうに言った。

「時間の問題、ってわけ、か」

 女はこの空間が、尋常ではない生と死の狭間のような何かであることを、なんとなく悟っていた。そしてそれに気づいたとき、女は自分の膝のあたりが自然と震えていたことに気づいた。

「…ごめんなさい」

「謝ることはないのよ。あなたも被害者なんだから…」

 女は気丈に振る舞いながらも、内心は恐慌に近い状態であった。これからどうなるのか、何が起こるのかをこの少女に問うてみようかと考えた。しかし、こんな幼いまま死んでいった少女に、聞いてどうなるのだ?と考え、結局思いとどまった。彼女に近づいている『それ』は、驚くほど静かでありながら ー とてつもなく怖くもあり ー しかしながら、結局のところ考えてもなんだか分かり得ないような漠然としたものであった。女は高鳴る自分の心臓の音を聞きながら、それを受け入れたい、と願った。

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気ままに小説を書きます/ ドイツから帰国しました/ 写真、音楽、小説が好き/