矛盾ディスタンス

Re:vale・モモの夢小説です。
ヒロインは小鳥遊紡ではありません。

「お疲れ様でしたー!!」
スタジオ中に響く元気な声にディレクターに続いてスタッフも声をかけていく。人懐っこくて大人気の彼は笑顔で対応している。ようやく一段落したかなというタイミングを見計らって私は背後から抱きついた。
「おっつかれー!!」
「うわ!?」
突然のことにさすがに驚いたのか、バランスを崩しかけた彼だったが、いとも簡単に体勢を修正した。そのことに私の方が密かに驚いた。
「なぁーんだ、コズっちじゃんか~!いきなりずぎてモモちゃんビックリしちゃったよ~」
そう言って振り向いた彼こと、アイドルの絶対王者・Re:valeのモモは少し眉を下げて笑っている。私は半目になった。
「はい、嘘~!だってモモっち全然余裕で受け止めてたじゃん!!」
「あ、バレてた??そりゃあオレ、運動部だからね~♪ここで倒れたりしたら名折れでしょ」
「まぁ、確かに・・・あ~でも悔しいなー!今日こそモモっちを驚かせてやるって思ったのに~!!」
悔しがる私にモモは変わらずあはは!と笑っている。なんかさらに悔しくなってきた。それが顔に出たのか、モモは笑うのをやめて一度口をつぐんでから今度は少しだけ微笑むように笑った。・・・!?と思ったらすぐに満面の笑顔を浮かべた。
「はー・・・お腹痛い。コズっちってば本当に笑わせてくれるよね!おもしろいよー!」
「え・・・あッ、本当にそう思ってる~?」
「本当だよ!絶対王者の片割れのモモちゃんが言うんだから信じて??」
「あはは!それ自分で言う??モモっちこそ笑えるよ~!って驚かそうと思ってた私がなんで驚かされた上に笑ってるの!?」
「え?今のでなんか驚くようなところあった??」
いきなりキョトンと真顔で聞いてくるモモに私は若干慌てながらも誤魔化した。
「え!?いやなんだったっけ??分からないから間違いだな!うん!!」
我ながら強引である。けど、特に気にした様子もなくモモは納得したようだった。・・・よかった~!私が一人安堵していると、ふと近くから声がかかった。
「お疲れ様、モモ。収録終わったみたいだね」
「ユキ!お疲れ様ー!そっちも終わったの??」
振り返るとそこにはモモの相方の絶対王者のもう一人であるユキさんが微笑んでいた。モモがすぐさま喜びの表情を浮かべるので分かりやすい。
「うん、だからモモを迎えに来たんだよ」
「きゃー!ダーリン、イケメン!!」
「うん、知ってるよ。ありがとう。けど・・・これは知らなかったな。君は確かモモと一緒に番組の司会をしているコズエさんだよね?君たち、いつからそこまで仲良しだったの??」
「「・・・へ?」」
ユキさんの言葉の意味がよく分からなくて思わず素っ頓狂な声を上げたら、モモとハモった。加えてたぶん同じような顔をしていたのか、小さく吹き出したように笑ったユキさんが続けた。
「だって、ただの司会パートナーの間柄にしては妙に君たちの距離が近くない?」
「え・・・な!」
「え・・・あ!」
ユキさんの説明でまたもや同時に声を発した私たち。私はモモにさっきほぼほぼ飛びかかったままの体勢でいたことだった。かろうじて床に足はついていたし、腕も離れていたけどいかんせんものすごく近くてすぐ触れられそうな・・・いわば至近距離というやつだったのだ!しまった!!慌てた私と同じく焦ったらしいモモは反射的に飛び退くように離れた。なんだか・・・モヤモヤする。いやいやいや気のせいだろう!モモの方をチラリと盗み見ると、目が合った一瞬に人差し指を口の前に添えながらウインクされた。動揺した私をよそにすぐさま頬を染めて眉を下げながらユキさんの隣に俊足で移動した。
「もう~!ダーリンってばヤキモチやいてくれちゃってモモちゃん嬉しい!!」
一気に完全にユキさんの相方のモモになった。それに応えるようにユキもふわりと笑った。
「ごめんね、ハニー。思わず本音が出ちゃった」
「そんな素直なユキもイケメン!!!」
これが噂の夫婦漫才かと、なるほどと納得したし、感心していた。そこへ、今度は私のマネージャーから声がかかって次の仕事へ向かうことになった。
「それじゃユキさん、失礼します!」
「はい、またね」
「モモっちもまたー!」
「はーい!またね~♪」
なんだかついでみたいになってしまった、モモごめん。だってユキさんがいたから・・・って言い訳だけど。私は頭をぶんぶんと振って次の現場に急いだ。

よく人からおもしろいと言われていた私は人を笑顔にできる仕事として、タレントを志した。無謀だなんだと言われたし、決して楽な道ではなかったけれど、ようやく念願叶ってデビューできたのは本当に幸運であり、もう一生分の運を使いきった気がした。もちろんデビューしてからも険しい道のりだけど、なんとか過ごしていて、そして今はなんとあのRe:valeのモモと番組の司会を任されているのだ!最初聞いた時は、夢かと思った。けど、現実で・・・実際モモの隣に並んだだけで足がすくんで緊張はピークだった。今まで自分なりにあったトークの自信もモモを前にした時、正直失いかけた。ただただ悔しくて仕方なかった・・・と同時にこれが名司会者・下岡さんに認められているモモの実力なんだと理解した。憧れたし、弾けるような笑顔はとにかくまぶしかった。もっと勉強しようと思う反面、やめてしまおうかと落ち込んでいた時、モモに声をかけられたんだ。番組開始前の打ち合わせの時からフレンドリーに接してくれていたけど、その時がきっと初めてちゃんとモモと話した時だと思う。憧れながらも悔しくてどうにもならない気持ちをモモにぶつけた。今思い出したらものすごく恥ずかしいけれど。呆れられるかなと思っていたけど、そんなことはなくモモはちゃんと最後まで聞いてくれていた・・・。

「ーーそっか。そうだったんだね」
Re:vale相手についに言ってしまった。もう番組を降ろされるかもしれない。私が途方に暮れかけた時、ふと頭の上に重みが増した。その正体はすぐに分かった。斜め上に目線だけ向けると、モモが私の頭を撫でていた。かなり動揺しすぎて声さえ出なかった。眉を下げた悲しそうなモモの顔を初めて見た。
「ごめんね。オレ、君がそんなに苦しんでいたのに全然気づけなかったよ・・・辛かったよね。本当にごめん」
謝るモモに面食らった。
「そんな!モモさんは全然悪くないですから・・・!私が勝手に悩んでいるだけで」
「うん、でも仲間だから」
思いがけないモモの言葉に私はキョトンとした。
「なか、ま?」
「そうだよ、仲間。同じ番組を一緒に作り上げる仲間だよ。プロデューサーもディレクターもADさんも音響さんも、オレたちのマネージャーも、みんな仲間!そして、もちろんオレと君もね」
モモさんの言葉が腑に落ちた。あふれていたけど堪えていた涙が頬を伝った。モモさんの前で泣くなんて、と止めたいけど止まりそうになかった。
「大丈夫だよ、オレしか見ていないから・・・泣きたいだけ泣いていいよ。他のみんなには内緒にしておくからさ!」
少しだけ悪戯っ子のように言うモモさんに私はその日初めて笑って泣いた・・・。

その日以来、私は肩の力が抜けて変に気を張ることもなく、自由に、自分らしく司会を進行することができるようになった。まだまだ勉強中だけど。回想しながら足を進めていた私を、快晴の空が迎えてくれている。
「んー!気持ちのいい天気だなぁ~♪」
太陽がまぶしくて思わず手で遮った。それでも差し込んでくる日の光に勢いを感じる。
「なんだかモモっちみたい」
そういえばモモと初めて話したあの日にモモっちって呼んでと言われたことも思い出した。理由を尋ねると、その方が仲良くなりやすいからだと即答された。きっとモモの努力の賜物なのだろう。モモの言ったとおり、すぐに打ち解けることができた。本当にすごい人だな・・・。

ーー尊敬してるよ、モモっち。

少し暑いけれど、手をよけて太陽に視線を向ける。案の定、直射日光は暑くてすぐに日陰へ滑り込んだ。我ながらなにをしているんだろうと笑った。その時、ラビチャが受信を告げた。すぐに起動させて驚いた。

【やっほー!さっきぶりのモモちゃんだよ~(≧▽≦)今日結構気温高くなるらしいってユキが言ってた!コズっち外歩いてるんなら熱中症には気をつけてね!それと今度ユキがオススメのUVケアグッズ教えてくれるって~!楽しみにしててにゃー(=^..^=)ミャーそれじゃお仕事がんばってね☆】

モモっち・・・!なんだかいろいろツッコミたいけど、それ以上にツボに入って外なのに笑ってしまう。声を抑えながらも肩が震えてしまっている。ふー、と呼吸をどうにか整えながら、どう返そうかと考えていて時刻が目に入って気づいた。
「!じ、時間、ヤバイ!!」
そう、私は今次の仕事への移動中なのである。青ざめた私はとりあえず感謝を込めたスタンプを一つ返信した後、鞄にスマホをしまって走り出した。遅れたらマズイのに、走っていて息苦しいのに、私の心は軽い。それがどうしてなのかは、分かるような、分からないような。とりあえず今は、間に合わせることだけを考えた。鞄の中でスマホがなにやら訴えているのが分かるけど、確認している暇はない。マネージャーかな。これもしも間に合わなかったら完全に怒られるなと自然に眉が下がる。間に合え、間に合えッ、間に合え!!必死に走り続けている身体的疲労に反して私の頬が緩んでいるのは、自覚済み。矛盾だ。どうかスルーしてほしい。

ーー今は、まだそのままで・・・いつかはーー

END

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