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ゲームサンプル『ねこつなぎ』

●タイトル:
ねこつなぎ

●ジャンル:
ほんわか系恋愛ストーリー

●ボリューム:
25KB(約12500字)

●スケジュール:
10時間

●スタイル:
ゲームシナリオ(一枚絵のあるPCゲームをイメージ)
メッセージボックス内制限 25字×3行

●あらすじ:
飼っていた猫が亡くなって49日目、見知らぬ少女が現れた。その少女は猫の幽霊に取りつかれ、あなたと仲良くなってと言われた……らしい。最初は半信半疑だったが、納得。それから、放課後のデートを重ねて、恋心をはぐくんでいく。これは猫が導いたちょっと不思議な恋の物語――。

●キャラクター:
・小平大輔(こひらだいすけ)
愛猫を病気で亡くしてしまいふさぎこんでいる大学生。
誰にでも優しくできる性格。
見た目:中肉中背・黒髪

・又野愛子(またのあいこ)
猫に取り憑かれた女子高生。
冷静で慎重。それは生い立ちから来る劣等感から、誰かの怒りに触れないように生きてきたため。
自分の家(姉の家)にいることに罪悪感を感じている。
見た目:小柄・ツインテール

・ユキ
大輔がかわいがっていた猫。
亡くなって、愛子に取り憑く。

・こなゆき
ユキの葬式の日に現れた子猫。
ユキに似ている。

・毒島(ぶすじま)
大輔の大学の先輩

・椎名(しいな)
アルバイト先の店長。

・愛子の親戚のおじさん、おばさん

■本文:

第一話 猫と少女と大学生

;表情差分、定義等省略します。
;(背景指定、SE指定のスクリプトは残します)
;メッセージボックスに表示する名前は【】の中の文字列です。
;bg=背景、SE=サウンドエフェクト、その他演出になります。

;bg:リビング

【】(※【】だけの時は、小平大輔の心の声/地の文)
その日、世界が真っ暗になったのを覚えている。

【】
あの日から今日で49日――。
いまだに彼女がこの部屋にいるような気がして、
部屋の隅やキャットタワーを見つめてしまう。

;SE:チャイムの音

【】
日曜の朝っぱらから、誰だよ。

;bg:玄関

【大輔】
はい。

;SE:ドアを開く音

【?】(又野愛子)
はじめまして。
小平大輔さんですよね?

【大輔】
はい……え?
どなたですか?

【愛子】
あ、私の名前は、
又野愛子です……にゃ。

【大輔】
いや、えっと……。

【】
というか今この子、
『にゃ』って言ったよね?

【愛子】
じゃあ、お邪魔します。

【大輔】
いや、お邪魔しますって。
ちょっと待って!

;bg:リビング

【大輔】
君、なんで家に入ってくるの?
困るんだけど。

【愛子】
私は『君』ではありません。

【大輔】
それは……すみません。
いやそうじゃなくて……。
……ああえっと、中学生だよね?

【愛子】
高校生ですっ。
近くにある西高の二年生です。

【大輔】
あ、高校生なんだ……。
いやいや、高校生でも十分マズいんだって。

【愛子】
大輔さんって、独り暮らしですよね。

【大輔】
え、うん。

【愛子】
二駅隣の大学で、バイトは休日だけ。
それで、合ってますか?

【大輔】
合ってますけど。
……あれ、もしかして、
どこかで会ったことがあるの?

【愛子】
普段、女子高生とお知り合いに
なるようなことをして
いらっしゃるんですか?

【大輔】
いや、ないない!
そういうのやってないよ。

【愛子】
ふふ、冗談ですよ。
そういう人だって知ってましたから。
いえ、〝聞いてました〟から。

【大輔】
聞いてた?

【愛子】
ええ、ユキちゃんから。

【】
そう言って彼女が見つめたのは、
今でも毎日取り換えているペットシーツに、
おやつを入れていたお皿。

【】
そして、土に埋めることができない、
小さな骨壺――。

【愛子】
ユキちゃんは今でもいますよ。
成仏できないんですって。
あなたが心配で。

【】
先日亡くなった飼い猫、
『ユキ』の名前を言い当てられて驚いた。
でも、それ以上に怒りもわいてくる。

【大輔】
どこでユキの名前を知ったのかは
知らないけど……。
その言い方はあんまりだよ。

【愛子】
それは……すみません。
でも、本当のことです。
知ってほしかったんです。

【大輔】
大事な家族を亡くした気持ち、
わかる?

【愛子】
わかりません。
ペット飼ったことがないんです。

【大輔】
うん。わかっているなら、
そんなことを言い出さないはずだ。

【愛子】
…………。

【大輔】
……出て行ってくれるかな?

【愛子】
わかりました。

【愛子】
……でも、私に取り憑いているユキちゃんが、
あなたを心配していることだけは
気に留めておいてください。

【愛子】
いきなり入り込んできて、
失礼しました。

;SE:足音
;SE:ドアを閉める音

【】
ひどく静まり返った部屋の中に、
テレビの音だけが響いている。

【大輔】
…………。

;SE:猫の鳴き声

【大輔】
ユキ?

【大輔】
本当に……まだいるのか?
俺のこと心配しているのか?

【大輔】
ユキ……。

【】
まだここにいるのか、ユキは。
もしそれが本当だとしたら……。
俺は、俺は――!

【大輔】
――っ!

;bg:廊下
;bg:玄関
;bg:マンション外階段

【】
外階段の一階に降りる最上段に、
彼女、又野愛子は
膝を抱えて座っていた。

【愛子】
大輔さん。

【大輔】
はあ、はあ……。
本当にユキが……?

【愛子】
今もここにいますよ。

【】
俺には何も見えない。
嘘をつかれているのかもしれない。
でも……もしそれが本当なら。

【大輔】
あのさ……よかったら、
ユキのこと詳しく聞かせてくれるかな?

【愛子】
はい。

【】
その時の、彼女の嬉しいようで
切なそうな微笑みが、
ユキの最後の姿と被って見えた。

第二話 ファミレスで女子高生と……

;bg:ファミレス

【愛子】
本当におごってもらっていいんですか?

【大輔】
ここまで連れてきたのは俺だし、
高校生にお金出させるわけにはいかないよ。

【愛子】
そーですね。
世の中にはお小遣いを上げてまで、
女子高生とランチをしたがる殿方もいるそうで。

【大輔】
人聞きの悪いことを言わないでくれ。

【愛子】
にゃふふ。

【大輔】
それで、ユキが君の体に取り憑いているって?

【愛子】
一週間前くらいですかね。
朝起きたら突然、
白い猫が私の中に入ってきたんです。

【愛子】
それで、出て行って欲しいって言ったら、
大輔のことをどうにかして欲しいにゃ――
って言うもんですから、仕方なく。

【大輔】
君はそういう体質なの?
あまりそっち方面には詳しくないんだけど。
なんて言うんだっけ?

【愛子】
霊媒体質ってことですか?
まさしく、それですよ。
おばあちゃんがイタコやってたらしいです。

【大輔】
イタコかぁ……。
幽霊って本当にいるんだなあ。

【愛子】
…………。

【大輔】
……ん、なに?

【愛子】
ここまですんなりと信じてくれたのは、
大輔さんが初めてだなって思って。
普通信じませんよ、こんな話。

【愛子】
また変なこと言ってるよとか、
気味が悪いから二度と言わないでとか、
そういうのが普通です。

【大輔】
『普通』ね……。
最初は、そう思ったよ。

【愛子】
今は違うんですか?
どうして?

【大輔】
もしそうだったらいいなって。
ユキのことが大切だったから。
……ユキが……。

【愛子】
わっ……泣かないで。
ごめんなさい。

【大輔】
泣いてないよ。
ごめんね。

【愛子】
そんなになるほど
大切にしてたんですね。
ユキちゃんのこと。

【大輔】
子供の頃から一緒だったんだ……。
初めての一人暮らしだったんだ。
だから、実家から連れてきてね。

【愛子】
誰かを大切にできる人は、
きっとすごい人です。

【大輔】
ありがとう。
そう言ってもらえると……。
優しいね、愛子ちゃんは。

【愛子】
え?
……違いますよ。
私は優しくなんてないです。

【】
照れではないだろう。
むしろ、痛みを感じているような……。
触れちゃいけないことだったか?

【大輔】
あ、えっと……。
それで、ユキは今なんて言ってるんだ?

【愛子】
はい。
3つあるみたいです。
して欲しいこと。

【大輔】
3つか……。
ひとつ目は?

【愛子】
彼女を作りなさい、だそうです。

【大輔】
ぶっ……ごほごほっ!
ユキが本当にそれを言ってるの?

【愛子】
ユキちゃんにとって大輔さんは
飼い主ってよりも息子って
感覚だったんじゃないでしょうか。

【愛子】
一人息子が心配であの世に行けない、
って幽霊の中じゃあるあるみたいですし。

【大輔】
実の母にもよく言われる言葉だよ。
彼女作れって。

【愛子】
彼女の当てはあるんですか?

【大輔】
……ないこともない。

【愛子】
本当にですか?

【大輔】
……いえ、ないです。

【愛子】
じゃあ、こうしましょう。
期間限定で私が恋人になってあげます。

【大輔】
え、いやいや、そこまでは。

【愛子】
期間限定で制限付きです。
キスとかそういうことはしない。
で、わたしからユキちゃんが離れたら終了。

【大輔】
愛子ちゃん、彼氏とかいないの?

【愛子】
え、いたことありませんよ。
それに、セクハラですからね、今の。

【大輔】
あ、ごめっ。

【愛子】
にゃふふ、簡単に手玉に取れちゃいますね、
大輔さんって。
ユキちゃんが呆れて笑ってますよ。

【大輔】
あまり笑わないでって、
言っておいてくれるかな。

【愛子】
嫌だそうです。

【】
はは……。
ユキがにゃーにゃー言っているのが
聞こえてくるみたいだ。

【愛子】
じゃあ、二つ目。

【大輔】
ひとつ目はクリア?

【愛子】
期間限定ですけどね。
二つ目は――散歩です。

【大輔】
散歩?
ユキはイエネコだったし、
あまり散歩に連れてったことないんだけど。

【愛子】
うらやましかったみたいですよ。
隣のワンちゃんが自慢してきてたんですって。
はしゃいでいたのが気に食わなかったって。

【大輔】
あーそういえば、
隣の部屋で飼われていた犬の鳴き声を
ユキ、迷惑そうにしてたっけ。

【愛子】
そうみたいですね。
とういうことで、
これから毎日、散歩をしましょう。

【大輔】
毎日?

【愛子】
はい、毎日。

【大輔】
俺は大丈夫だけど。
でも、愛子ちゃんは大丈夫?

【愛子】
ユキちゃんのためですから。

【】
今日は夕方までお互いのことを話して、
それが散歩の代わりだということで別れた。

【】
愛子ちゃんと話していると、
ユキが本当にそこにいるように感じられて
少しだけ心が軽くなった気がする。

【】
毎日の散歩か。
今から楽しみだ。

第三話 大輔の元通りになりつつある日常

;bg:大学講義堂

【】
今日は平日で、大学に向かった。
久しぶりに朝の空気を
清々しく感じられたかもしれない。

【毒島】
よー、大輔。

【大輔】
ああ、おはよう。

【毒島】
あれ、なんか元気になってんじゃん。
ユキちゃん亡くなってから塞ぎ込んでたのに。
もう立ち直ったか?

【大輔】
まあ、そんなところかな。

【】
愛子ちゃんのことは黙っておこう。
なんだかからかわれそうだし。

【毒島】
そっか、よし!
そんなあなたに合コンのお誘いなんだけどさ。
お前、金曜日の午後のコマ取ってたっけ?

【大輔】
合コン? 俺はいいや。
サークル内で他の奴誘ってよ。

【毒島】
なに、それ?
あーもしかして女か?
どんな子、どんな子?

【大輔】
ちがうって。

【毒島】
じゃあいいじゃん。
前を向いて歩きだすんだろ。
数合わせでさ、来てよ。

【大輔】
……わかったよ。

【毒島】
よーし、ドタキャンしたら、
ゼミの女衆にあることないこと吹きこむからな。
恐いぞ~。

【大輔】
それだけはやめろ。

【】
合コンの話を聞いた時、
愛子ちゃんの顔がちらついた。

【】
本当の恋人だったら
是非もなく断るべきだろうけど……。

【】
俺たちは本当の彼氏彼女じゃない。
期間限定の恋人だ。
合コンに行くくらい構わないだろう。

;演出:暗転(時間経過)
;bg:ペットショップ

【】
大学の帰り道、
バイトをしていたペットショップに向かった。

【椎名】
あ、小平君!

【大輔】
椎名さん、ご無沙汰してます。
あれから来なくてすみません。

【大輔】
あの、もしまだ働かせてもらえるなら、
ここで雇ってもらっていいですか?

【椎名】
事情が事情だったからね!
大輔君がもう平気って言うなら。
で、今から大丈夫かな?

【大輔】
はい!
頑張ります!

【椎名】
うん! こちらとしても助かるよ!
そうそう、1週間前からもう一人バイト雇ったんだ。
もうすぐ来る頃だけど。

【?】(愛子)
お疲れ様です。

【椎名】
あ、ちょうどいいね。
又野さーん、こっち来てくれる。

【愛子】
なんですか、店長。
……あ。

【大輔】
あ、あれ、愛子ちゃん?

【愛子】
どうも。

【椎名】
あれ、二人とも知り合い?
じゃあ自己紹介は大丈夫だね。

【椎名】
お互い、シフトが被るところが多いから、
仲良くやってよ。
じゃ、俺はバックにいるから。

【大輔】
愛子ちゃん、1週間前からって。

【愛子】
はい。
ユキちゃんからここで大輔さんが
働いているって聞いて。

【大輔】
俺に会うために?

【愛子】
もともと動物が好きなんです。
……家で飼うのはダメだったんですけど。

【大輔】
そっか。
でも、それなら毎日の散歩も楽になるね。

【愛子】
それも狙ってました。
では、先輩、よろしくお願いしますね。

【】
そうか、先輩後輩になるのか、俺たち。
なんかちょっと嬉しいな。

【大輔】
うん、これからよろしくね。

;bg:街(夜)

【】
バイトが終わり、
愛子ちゃんと一緒に帰ることになった。
ユキの散歩もかねて。

【大輔】
お疲れさま、愛子ちゃん。

【愛子】
はい!
大輔さんも、お疲れ様でした。

【大輔】
あれ、愛子ちゃん、楽しそうだね。

【愛子】
私が、というよりユキちゃんが。
大輔さんの働いている時の顔を見られて、
新鮮だそうです。

【大輔】
すっかりお母さんだな……。
で、そのユキお母さんは、今何をしてるの?

【愛子】
えっと、寝てますね。

【大輔】
えー。
ユキが散歩連れてけって言ったんだろ。
まったく。

【愛子】
あの、大輔さん。
3つ目聞きますか?

【大輔】
ユキからのお願いのこと?
そういえば、2つしか聞いてなかったっけ。
3つ目か……。

【】
それはどんな内容なんだろう。
聞きたい気もするし、聞きたくない気もする。

【】
その三つ目を叶えてしまったら、
愛子ちゃんが俺に会ってくれる理由もなくなるんだ。

【】
愛子ちゃんがいなくなる。
ユキがいなくなってぽっかりと開いた穴が、
また広がっていくのかと思うと踏ん切りが付かない。

【大輔】
それって急がなくていい?
ユキと愛子ちゃんに負担かけないんだったら、
もうちょっとだけこのままで。

【愛子】
わかりました。
大丈夫ですよ、わたしは。
ユキちゃんも大丈夫だと思います。

【大輔】
ありがとうね、愛子ちゃん。

;bg:住宅街

【愛子】
じゃあ、わたしはこっちなので。

【大輔】
うん。
ユキが起きたら、よろしく言っておいて。

【愛子】
はい。
では、また明日。

【大輔】
また明日。

【】
その三差路で別れて、
もういないかなと振り返ってみると、
まだ愛子ちゃんがこっちを見ていた。

【】
なんだろう?

【】
声をかけようとしたら、
彼女はすぐに回れ右して行ってしまった。

【大輔】
……愛子ちゃん?

第四話 子猫な少女は夜に泣く

;bg:居酒屋
;SE:ガヤガヤと居酒屋の声

【毒島】
じゃあ、これから二次会のカラオケなんだけど。
出られる人ーっ。
よっし全員だね、朝まではっちゃけるぞ!

【大輔】
いや、俺はいいよもう。
時間遅いし。

【毒島】
ばっか、お前!
そんなこと言ったら便乗して帰っちゃう
女の子がいるかもしれないだろ!

【大輔】
行きたい人だけで行けばいいだろ。

【毒島】
今度、なんかおごるから。
今日のところは俺の顔を立てると思って、な!

【大輔】
いやでも。

【毒島】
よーっし、みんな立って、
会計は済ませとくからさ!

;bg:居酒屋外観

【】
毒島のやつ、強引だな……。
狙ってる子でもいるのか?

【】
ん……?
今、向こうの方で知っている顔を
見たような……。

【】
でも、
あの子がこんな時間にこんなところを
歩いているはずがないんだけどな……。

【合コン女子】
ねえ、小平君だったよね。
席遠くてあまり話せなかったじゃん。
カラオケではさ、隣で話さない?

【大輔】
あーうん。

【合コン女子】
あれ、どうしたの?
向こうになにかあるの?

【大輔】
いや……まさかな。
でも。

【大輔】
ごめん、
毒島には先帰ったって言っておいて。

;SE:走る足音

【合コン女子】
え、ちょ、小平君!?

;bg:繁華街
;bg:路地
;SE:走る音

【大輔】
はあ……はあ……!

【】
やっぱり間違いない!
『あの子』だ!

【大輔】
――愛子ちゃん!

【愛子】
うわっ!
びっくりした……!

【愛子】
はあ……。
なんだ、大輔さんじゃないですか。

【愛子】
びっくりさせないでください。
後ろから女の子に、突然、
話しかけるなんて非常識ですよ。

【愛子】
わかっていますか?
反省してください。
酔っぱらいの大輔さん。

【大輔】
……そんなに飲んでないよ。

【愛子】
合コンですか?

【大輔】
……な、なんでわかるの?

【愛子】
大輔さんはわかりやすいんです。

【大輔】
今日はたまたま友達に数合わせで
呼ばれちゃって……。
って、そうじゃなくて!

【大輔】
こんな時間に危ないよ。
帰ろう。

【】
手を掴んで引っ張ったが、
愛子ちゃんは動かなかった。

【愛子】
帰りたくないんです……。
えと、ユキちゃんが……。

【大輔】
ユキが?
本当に?

【愛子】
…………。

【大輔】
とりあえず、ファミレスに行こっか。
走ったら小腹が空いちゃった的な。

【愛子】
それなら……はい。

;bg:ファミレス

【大輔】
スイーツとか食べる?
俺は、スイートポテト頼もうかな。

【愛子】
じゃあ、わたしも。

【】
それからとりとめのないことを
二人で話した。

【】
どうして家に帰りたくないのか、
愛子ちゃんは話してくれなかったし。
俺も無理に聞こうとはしなかった。

【愛子】
あ。

【大輔】
ん?

【愛子】
いえ、夜遅くまで一緒にいてくれる人、
初めてだなって。

【】
その時、
愛子ちゃんがいつも見せる寂しい笑顔が、
ちょっとだけ和らいでいる気がした。

第五話 家出のお誘い

;bg:大学共有スペース

【大輔】
ふわ~。

【毒島】
おーい、大輔ちゃん!
昨日、なんで二次会来なかったんだよ。

【大輔】
ごめん。
ちょっと眠くて。

【毒島】
早く帰ったのに、眠れてなさそうだな。

【大輔】
あー。ちょっとな。

【毒島】
まいいや。
俺さ、夏鈴ちゃんとライン交換したもんね。

【大輔】
それでちょっと機嫌がいいのか。

【毒島】
へへへ。
あ、でもさ、中学生はやめとけよ。
犯罪だから。

【大輔】
え?

【毒島】
お前がファミレスで女子中学生と一緒にいるとこを
見た奴がいるんだよ。

【大輔】
あ、いや。
違うって!

【毒島】
ははは、まさか大輔がロリコンだったとはな。
でも、中学生は犯罪だべ。

【】
高校生だって言っても、
たぶんロリコンってからかわれるんだろうな。

【大輔】
し、親戚の子だよ。

【毒島】
ふーん。

【】
そのあとも毒島の追求が続いたが、
親戚の子ということで突き通した。

;bg:大学外観(夕方)

【毒島】
じゃ、またなんかあったら誘うからな。
今度は抜け出すなよ!

【大輔】
わかったわかった。

【】
夏鈴ちゃんと会う予定があるらしい毒島は、
ご機嫌な調子で駅の方向に向かっていった。

【】
友人にエールを送ってから、
帰路につこうとして――。

【愛子】
にゃー。

;演出:ぽんっといきなり立ち絵表示

【大輔】
うわっ!
愛子ちゃん、か……。

【愛子】
この前の仕返しです。
……というか、そんなに驚くって。
なにかやましいことでもあるんですかねえ……?

【愛子】
ユキちゃん、疑惑の目ですよ。

【大輔】
なにもないよ!
ないから、そんな目をしないでって言っておいて。

【愛子】
わかりました。
では、わたしに付き合ってもらいますよ。

【大輔】
はいはい。散歩だね。
今日はどこに行こうか?

【愛子】
散歩というか……。

【愛子】
家出、ですね。

第六話 家出少女と……。

;bg:電車の中(地方のローカル線、向かい合わせの座席)

【大輔】
あの、愛子ちゃん。
これって本当に家出?

【愛子】
はい。
荷物も持ってきましたし、
大輔さんもいますし準備万端です。

【大輔】
さては俺のこと財布か何かだと思ってるな?

【愛子】
いえ、そんなことは……。

【大輔】
いいよ。
昨日みたいに一人でいさせるよりは、ずっといい。

【愛子】
大輔さんこそ、
わたしのこと小さな子供だと思ってますよね。

【大輔】
はは、どうかな。

【愛子】
もうっ。
たとえば彼女との逃避行だと思ってください!
ロマンチックじゃないですか?

【大輔】
ロマンチックって……。
家の人には言ってないんだよね?

【愛子】
あの人たちはわたしのことなんて、
目に入ってもないでしょうから……。

【愛子】
心配しないで大丈夫ですよ。
あとで友達の家に外泊すると連絡します。
それで一応、捜索届けは出されないでしょうし。

【大輔】
…………。

【愛子】
ダメですか?

【大輔】
まあ、ユキもいることだしね。
付き合うよ。

【愛子】
ありがとうございます。

【大輔】
で、どこに行くの?

【愛子】
私が昔、住んでいたところです。
富士山の裾野にある小さな里なんですが。

【大輔】
へえ。富士山の。

【愛子】
良いところですよ。
まず、空気が美味しいです。

;SE:電車が、がたんごとん
;bg:黒バック

;演出:暗転(時間経過)

;bg:電車の中

【車内アナウンス】
次は岩波旭、岩波旭。
お降りの方はお忘れ物のないようにお願いします。

【愛子】
降りましょう、大輔さん。

;SE:電車の、緩やかな制動音キーンかしゃん
;bg:田舎の駅舎外観

【愛子】
ふーはー。
やっぱり空気が美味しいです。
懐かしい。

【大輔】
ほへー、こんなに近い富士山、
生で見るの初めてかもしれない。

【愛子】
ふふ、水も美味しいんですよ。
さ、こっちです。
歩くんですけど、大丈夫ですよね?

【大輔】
うん、俺も歩きたいって思ってた。

;bg:田舎の道

【愛子】
にゃー。にゃー。

【大輔】
ユキも喜んでるの?

【愛子】
ユキちゃん、
自然の中が好きみたいですね。

【大輔】
やっぱり散歩とかしたかったのかな?

【愛子】
それもあると思いますけど……。

【愛子】
ユキちゃんが一番うれしいのは、
大輔さんとだからだと思います。

【大輔】
そっか。
俺と一緒だからか。

【】
それは嬉しいな。

【大輔】
あのさ、愛子ちゃん。
猫ってさ、死ぬときはどこかに隠れるっていうじゃん?

【愛子】
はい、よく聞きますね。

【大輔】
ユキは死ぬ間際、寄りそってきたんだ。
たぶん寂しかったんだと思う。

【愛子】
いいえ、恐かったんですよ。
あなたを一人にするのが。

【大輔】
だから、彼女を作れってことか。

【愛子】
にゃ。

;bg:滝

【愛子】
良くここで遊んでました。
ほらそこ、岩場の。
小さいですけど、魚もいるんですよ。

【大輔】
ほんとだ。
釣れるの?

【愛子】
うーん。釣れませんでしたね。
それより、あの滝つぼのところで、
水切りしてました。

【愛子】
あと、裸になって泳いだり。

【大輔】
はは、わんぱくだったんだ。
なんか今とは印象が違うな。

【愛子】
こ、子供の頃の話ですよ。
大輔さんが子供の頃は?

【大輔】
俺は普通。
ゲームやったり、あと空手やってたかな。

【愛子】
へえ!
知りませんでした。

【大輔】
ユキには空手なんてわかんないもんな。

【愛子】
あの、大輔さんの小さなころのこと。
もっと教えてください。

【大輔】
え、うーん。
ユキはなんだって?

【愛子】
えっと、メガネかけてたって。

【大輔】
そうそう。
今はコンタクトだけど、
高校生までメガネだったなー。

【愛子】
メガネの大輔さん。
なんか想像できそーです。

【大輔】
どうせ地味な顔ですよ。

【】
そんな無駄話をしながら、
益体のない時間を過ごし――。

;演出:暗転(時間経過)

【愛子】
さて、そろそろ行きましょうか。

【大輔】
もしかして、ホテル……とか?

【愛子】
ホテルが良かったですか?

【大輔】
あーいえ。
ははは……。

【愛子】
残念ですが、ホテルじゃないですよ。
親戚の家が近くにあるんです。

【】
あーなるほどね。
そりゃ、ホテルなんてお金がかかるもんな。

【愛子】
大輔さん。
わたしの彼氏ですからね。

【大輔】
ん……?
え! そう言ってあるの?

【愛子】
だって、そう言うしかないじゃないですか。
……嫌でした?

【大輔】
嫌というか……。

【】
女子高生を彼女にしている大学生って。
通報されないよね?

;bg:親戚の家

【おじさん】
よっし! 飲め飲め!

【大輔】
い、いただきます。

【おばさん】
いや、まさかあの愛子ちゃんがね。
彼氏連れてくるなんてさ!

【愛子】
あのって、おばさんいつの話してるの?
わたし、もう大人だよ。

【】
愛子ちゃんが、敬語じゃない。
昔を知っている人には、
あんな風に笑えるんだ。

【おじさん】
ところで、愛子ちゃん、
理沙ちゃんはどうだい?
元気にしてる?

【愛子】
あ、うん……。
元気だよ、理沙おばさん。

【おじさん】
おばさんって、お姉さんだろ。
腹違いでもよ。

【おばさん】
あんたッ!
ごめんね、愛子ちゃん。
この人、本当にデリカシーがなくて。

【愛子】
ううん、大丈夫だよ。

【おばさん】
本当にごめんね。
だいたいこの人はむかしっから、
空気が読めないんだから!

【おじさん】
俺がいつ空気が読めなかったよ!

【愛子】
おじさん、おばさん、
わたしは大丈夫だから。

【おばさん】
あんたはいつだって家のことほったらかしで、
子供の世話だって私に
まかせっきりだったじゃない。

【おじさん】
それは今、関係ないだろ!

【】
喧嘩が始まってしまい、
愛子ちゃんが助けを求めるような
目を向けてきていた。

【】
よし。

【大輔】
あ、おじさん!
お酒注ぎますよ。はい、どうぞ。

【おじさん】
……ああ。ありがとう。

【大輔】
おばさんもどうですか?

【おばさん】
……もらおうかしらね。
ごめんね、気を遣わせちゃって。

【大輔】
いえ、そんな。
俺、愛子ちゃんの彼氏ですから。

【おばさん】
あら。

【おじさん】
ははは!

【愛子】
…………。

【】
俺の調子がいい軽口が効いたのか、
宴会が和やかに再開された。

;bg:寝室

【愛子】
大輔さん……。

【大輔】
大丈夫だよ、衝立の向こうには行かないから。
安心してね。

【愛子】
わたし、大輔さんが、
ユキちゃんの飼い主さんでよかったです。

【大輔】
ん?

【愛子】
いえ、おやすみなさい。

【大輔】
う、うん。おやすみ。

【】
ちょっと不思議に思いながらも、
俺の思考はやがて眠りの淵に落ちていった。

;bg:黒バック

【】
――翌日。

;bg:公園

【】
午前中、愛子ちゃんの親戚の家から近くにある
公園に散歩に来ていた。

【大輔】
ふー、なんだかあったかいねこっち。
なんかもう夏を感じるよ。

【愛子】
たしかに静岡は気候が安定してますよね。
あれ、子猫……?

【大輔】
お、ユキが小さかった頃に似てる。
よーし、お前、こっち来な。

【子猫】
みゃー。

【大輔】
よしよし。
かわいいなー。
お母さんはどこ行ったんだい?

【子猫】
みゃー。みゃー。

【愛子】
ずいぶん懐いていますね、その子。
きっと、この人なら大丈夫って本能的に
わかるんですよ。

【大輔】
はは、そうかな。

【愛子】
そうなんですよ。
ユキちゃんもそう言ってますし。

【子猫】
みゃー!

【大輔】
あ、行っちゃった。
母猫が呼びに来たのかな。

【愛子】
そこの木陰に座りましょうか。

【大輔】
あ、じゃあ、飲み物買ってくるよ。
待ってて。

;bg:木の下
;SE:木の葉のさざめき

【愛子】
ユキちゃん。
大輔さんなら、話しても大丈夫かな?

【愛子】
ふふ。
すごく信頼してるんだね、大輔さんのこと。
うん、わたしも信頼してみる。

【大輔】
お待たせ、炭酸ありとなし、どっちがいい?

【愛子】
じゃあ、なしで。

【大輔】
はい、どうぞ。

【愛子】
ありがとうございます。

;SE:ジュースを開ける音(しゅわしゅわという泡立ち)

【大輔】
ふぅ~、なんか気持ちいいな。
公園でこんなことしてるの、
子供の時以来だ。

【愛子】
大輔さん。
わたしのこと知りたいですか?

【大輔】
え、あーうん。
もし教えてくれるなら、嬉しい……かな。
でも、無理はしなくていいよ。

【愛子】
無理はしてないです。
でも、ちょっと重いですけど、大丈夫ですか?
気を悪くしちゃうかも……。

【大輔】
俺は絶対にそんなことは思わないよ。

【愛子】
…………。
わかりました。

【愛子】
……わたし、隠し子なんです。
おじいさんの……。
わたしにとっては父親ですが。

【大輔】
そうだったんだ……。

【愛子】
…………はい。

【大輔】
お母さんは?

【愛子】
わたしが小さいうちに。
今はおばさ……腹違いの姉が
保護者になっていてくれています。

【大輔】
そっか……。

【愛子】
もしかしたら、
わたしが勝手に負い目に感じているだけかも。
でも、あそこの家にはあまりいたくないんです。

【愛子】
家出をしたのも今回が初めてじゃなくて。
でも、帰る場所はわたしにはあそこしかなくて。

【愛子】
人の善意を素直に受け取れなくて。
そんな自分が嫌いです。

【】
愛子ちゃんはそう言って、
ひどく落ち込んだ顔をしている。

【大輔】
ユキが君の前に現れた理由がわかったよ。

【愛子】
ユキちゃんですか?

【大輔】
あいつ、必要以上に寂しがり屋でさ。
人が寂しいのもわかるみたいで、
いつも寄り添ってくれてた。

【大輔】
きっと愛子ちゃんもなんだよ。

【愛子】
私……も?

【大輔】
うん。
ユキは、君にも誰かが必要だって
思ったんだろうな。

【愛子】
だから、ユキちゃん。
私の前に現れてくれたんだ……。

【大輔】
ありがとうね、愛子ちゃん。
俺に、自分のこと話してくれて。
嬉しいよ。

【愛子】
嬉しいなんて……。
大輔さんだから話せたんだと思います。

【大輔】
今度さ、ユキの墓を作ってやろうと思うんだ。
そのほうが安心できるかなって。

【愛子】
安心……すると思います。
でも――。

【愛子】
たぶん、その時、ユキちゃんは
わたしのところからいなくなっちゃう。
そんな気がするんです。

【大輔】
だったら、その前にユキの未練を
解いてあげなくちゃね。

【愛子】
どうやってですか?

【】
ずっと考えていた。
ユキが俺と愛子ちゃんを引き合わせた理由を。

【】
もしかしたら、
ユキは俺がこんな気持ちになることを
見越していたのかもしれない。

【大輔】
あ、愛子ちゃん、
俺と付き合ってください。
期間限定じゃなくて、ずっと。

【愛子】
……え?

【大輔】
えっとね、つまり。

;一枚絵:告白に驚いている愛子

【大輔】
好きです。
一生そばにいてくれる嬉しい。
って、プロポーズみたいだね。

【愛子】
待ってください。
わたしですよ?
隠し子で、居場所がなくて。

【大輔】
君がユキの居場所になってくれたように。
今度は俺が君の居場所になるよ。

【愛子】
…………。

【愛子】
寂しいです。

【大輔】
ん?

;一枚絵:告白に驚いている愛子(差分・涙ぐんでいる)

【愛子】
大輔さんがいなくなったら、
寂しくて……嫌です!

【愛子】
ずっとわたしのそばにいてください。

【】
まさか泣かれるとは思っていなかった。
驚いていると、愛子ちゃんが抱き着いてきた。

【大輔】
あ、愛子ちゃん!?
えっと、俺さ……その……あの……。

【愛子】
ここでヘタレるんですか?
大輔さんってば、ふふ。

【】
彼女はからかうようにそう言って、
俺のほほにキスをしてくれた。

【】
そして、俺からは、その唇にお返しを――。

第七話 いつまでも一緒に

;bg:墓地(昼)

【】
今日はとても天気がいい。
まさに旅立ちにはふさわしかった。

【大輔】
ユキ。
そっちでは友達ができたか?
美味しいもん、食ってるか?

【大輔】
俺はお前のおかげで、
今はもう寂しくなくなったよ。
ありがとうな。

【】
となりで、
一心に手を合わせていた彼女が口を開いた。

【愛子】
ユキちゃん、
わたしももう寂しくないよ。

【愛子】
ありがとう。
ユキちゃんのこと絶対忘れないからね。

【】
葬式の最中、
ユキの気配がなくなったらしい。

【】
最後に「にゃあ」と鳴いたらしいのだが、
その声は、俺には聞こえなかった。

【大輔】
安心して逝ってくれたかな。

【愛子】
そうだと嬉しいです。

【大輔】
俺たちが寂しがってたら、
そのうち帰ってきたりしてな。

【愛子】
わたしを寂しがらせるつもりなんですか、
大輔さんは?

【大輔】
俺の方が寂しくなっちゃうかもな。

【愛子】
だから、同棲しましょうって
言ってるじゃないですか。

【大輔】
はいはい。
君が卒業したらね。

【愛子】
絶対ですよ。

【子猫】
みゃー。

【大輔】
あれ、この子。
前に公園で会った?

【愛子】
違うんじゃないですか。
だいたい、ここ静岡じゃないですし。
ほら、耳の形が違います。

【大輔】
でも、この子のほうが
ユキに似てるかも。

【子猫】
みゃー。

【大輔】
お前、どうしたの?
もしかして迷子かな?

【愛子】
あそこの段ボール。
拾ってあげてください、って。

【大輔】
そうか、あそこから出てきたのか。
……お前、行くところがないんだな。

【愛子】
飼ってあげるんですか?

【大輔】
子猫用の、いろいろ買ってこないと。

【愛子】
うふふ、やっぱり。
休日はわたしも『こなゆき』に会いに行きますね。

【大輔】
こなゆき、か。
それでいいか、お前。

【こなゆき】
みゃー。

【愛子】
決定ですね。
こなゆきちゃん、これからよろしくね。

【愛子】
じゃあ、ペットショップと動物病院に行かないと。
ほら、早く行きましょう!

【大輔】
待って、愛子ちゃん。

【?】(ユキ)
にゃあ。

【大輔】
今の声……。
こなゆきじゃないよな?

【こなゆき】
みー?

【愛子】
どうしたんですか、
大輔さん?

【大輔】
ううん。
ユキの声が俺にも聞こえた気がしてね。

【愛子】
そうですか……。
また一緒に来ましょうね。
ユキちゃんに会いに。

【大輔】
うん。一緒に来よう。

【愛子】
そうだ、お願いの3つ目、
言ってなかったですね。

【大輔】
そういえばそうだったね。
3つ目ってなんだったの?

【愛子】
ふふ、それはですね――――。

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これは猫がつなげてくれた不思議な縁の物語。
優しい恋の物語……。



エンド

※表紙絵は、みんなのフォトギャラリーより、kei02様の『つかの間の休息』を使用させていただきました。

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