柔術でレベルが上の人に勝つ方法
ブラジリアン柔術に限らず、多くの競技の構造は、後輩(後進)が先輩(先達または先進)に挑む形の不利なゲームである。
年齢による限界はあるものの、柔術家は年を重ねてもそこそこ強いという特徴があり、先行者有利が十分に発揮される。
私自身、歳を重ね体力は衰えたが、知識や経験という部分は、日に日に積み重なるアドバンテージだと感じる。
本稿では後進が先達を上回るために何が必要かを解説していく。
結論
先達に勝つパターンはいくつかあるが、体力で上回る(なんだかんだ一番多いのはコレだが)を除けば
戦略や戦術で勝つ
相手の知らない技で勝つ
相手の予想外で勝つ
という3つは技術的にどうにかできそうなところである。
1と2も機能すれば有効だが、本命は3なので、メインは相手の思考の外に出る方法を探っていきたいと思う。
戦略と戦術
個々の技術でどうこうしようというのはミクロな視点での戦い方であり、よりマクロになると戦術、戦略というフレームが出てくる。
しかし、ミクロな戦いになるほど知識や経験のアドバンテージが発揮されてしまうので、戦術や戦略の戦いは先達が優位になりやすい。
わかりやすいのがフローチャートを作ることで、チャート(i.e.戦術)は作成者のレベルによって精度も広さも異なってくる。逆にいえば、チャートを全く展開できないのならば、頭の中で技術がこんがらがっているので戦術を練るもクソも無い。
さらにマクロの戦略となればより難度が上がる。ルールの穴を見つけたり、相手のチャートを推測して、自分の勝ち筋を見つけなくてはならない。より高度な知識と経験、そして分析力が求められる。
弱者こそ戦いを略す戦略を用いるべきというのは、フィジカルだけが劣る場合には使えるかもしれないが、全体的には難しいものであり、実践できる人はかなり才能があると思われる。
対応される新技術
15年以上も柔術をやってきたものだから、だいたいの技は見てきたし触ってきた。ブラジリアン柔術の技術を全て知ってるとは言わないが、練習や試合に出てくる技はすでに頭の中にある。よって使うこともできれば、防ぐこともできる。
今後も新しい技術は出てくる可能性は否定できないが、2009年頃のベリンボロみたいな革命的な技術は恐らく出てこないのではないだろうか?※
ハファ・メンデスが相手を転がしまくってたベリンボロも、全世界の柔術家がこぞって研究した甲斐あって、数年後にはスタンダードな技になってしまった。
つまり何が言いたいかというと、
新しい発想というのは99%ぐらいは、すでにある知識の組み合わせであるので、ここも先達が優位になる可能性が高い。既存の知識に依存しない残り1%の革命的な技なんてそんなに簡単にできないから、この方法で勝とうとするのも効率が悪い。
相手の予測を狂わせる方法
心理学に詳しい人っぽいことを言いたかっただけだが、柔術はマインドゲームでもある。
予想外とは、すでに頭にデフォルトがあるが故に起こる。
(その技は知っている・・・)
という安心こそが、先達の最大の弱みになる。
①コンビーネーション
まず一番簡単な方法としては、複数の技(技術)を組み合わせて使うことである。
(そんなこと知っとるわ!)
などと言われそうだが、打ち込みレベルから意識的にコンボの練習をしているだろうか?
私は白帯の頃にクローズドガードからの腕十字を教わったが、その日のスパーリングで潰されまくってその技が使えないことに気づいた(まだ全然練習してないけど)
もちろん、白帯の頃にありがちな、誰に対しても極まる究極の腕十字を夢想して打ち込んだものだが、後に習った十字絞めとのコンボで腕十字があっさり極まったのを機に改心した。夢より現実
コンボの最大のポイントは、
『ジャブが強力だからこそストレートが活きる』
ということである。
上の例ならば、十字絞めの精度や威力があるからこそ、相手の意識から腕十字が消える。
なので、打ち込みは
十字絞めを磨く
腕十字を磨く
コンボを磨く
という三段階を踏んでいくが、フェイントの技は特に練習する。そのうち実力が下の相手にはフェイントの技だけでも極まるようになるが、そこで慢心せずコンボを磨き続けるべきである。
また、コンビーネーションの流れは技を単体で繰り出すよりも時間がかかるので、後述する緩急をつける練習もすると良い。
②常に逆または裏を狙う
これもコンボといえばコンボだが、極め技を狙う場合、右腕を腕十字に取りたいなら左腕から攻める。首を絞めたいなら、腕を攻める。足を極めるならetc・・・これらはパスやスイープにも同じことが言える。
この練習も打ち込みレベルでやるべきだが、経験に則ると打ち込みではできていても、スパーや試合ではできなかったりする。
ゆえに、スパーリングで意識的に練習する必要がある。初めは逆や裏を狙うと失敗することが多いが、気にせず続ける。そのうち逆を狙うのが癖付いてくれば、戦ってる最中も頭は冷静なはずである。
一つコツを上げるならば、相手の視線を意識すると良い。人は見えないものを意識するのが難しい。パスやバック取りは常に相手の死角を探すし、極めは首を狙いつつ腕を攻めると見せかけて手首が本命だったりする。
③緩急
知ってる技もタイミングをずらせば知らない技になりえる。また頭でわかっていても圧倒的な速さで凌駕されることもある。
普段、趣味で動画を垂れ流しているのだが、一連の流れにかかる時間は技によって異なる。
ベリンボロからのバックテイクとタックルを切ってからのバックテイクだと、前者は緩急をつけやすいが、後者は0.001秒の勝負となる。
シンプルな技ほど威力が速度に依存しやすいので、フィジカルに自信がある人はこちらを強化し、フィジカルに自信がない人は緩急をつけれる技術を磨くといい。
上述の十字絞めからの腕十字なら、十字絞めの組み手を作った瞬間にズバッと絞める。これは相手に技が来たと認識させデフェンスさせるのが目的なので、実際に絞まってなくてもいい(絞まればさらに良い)
多少の膠着があった後、本命の腕十字をズバッと仕掛ける。つまり一連の流れの中にズバッと動くべきところ(急)が二つある。緩急も込みで打ち込みをするのを推奨
まとめ
予測を超えれば、先達にも勝てることを認識したのは、跳びつき腕十字を青帯の先輩に極めた白帯の頃である。一般的な常識として白帯が跳び十字なんてするとは思わないであろう。
たまたま道場に流れてたDVDを観てやってみたら偶然極まったわけだが、ゲームの攻略本を手に入れた気分だった。
長期的にみて、定石をマスターすることは大事なことだが、ゲームの勝敗を考えるなら、定石外しを考え普段の練習に反映させるべきである。
すべては練習次第であり、普通に練習したら普通に上達するが、それは先達の後ろを普通に走るだけなので距離は一向に縮まないのである。ゲームは強者を上回ってこそ楽しい。
Yusuke Yamawaki
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