いつもパスされる人がやってしまうこと
後輩いわく、ブラジリアン柔術は引き込みからスタートできる数少ない格闘技であり、そこが魅力らしい。
魅力
たしかに、簡単にひっくり返されたあの日の自分も、パスよりガードに魅力を感じていた。
ということで、白帯の頃の私はガードから練習をはじめたが、待っていたのは、華麗にスイープしたり極めたりする前に先輩にパスされまくる日々だった。
『この記事は、いま簡単にパスされてしまっている人に向けて書いている。』
私が柔術家になって十数年、明らかに競技技術は進化した。ガードにおいても、今と昔で言われていることが違ったりする。
反面、ずっと変化しない本質もある。
人それぞれ辿る柔術家としてのルートが異なるので、積み残しは避けられないが、私が得た知識や犯したミスは伝えることができる。ぜひ、上達へのショートカットにしてほしい。
この記事の目的は、ガード上達のコツを
1 練習
2 技術
3 ウォームアップ
これらの観点から伝えることで、あなたのガードのレベルを向上させて、最終的には守りから攻めに転じてもらうことだ。
技を身につけるには、長い年月をかけた練習が必要だが、理論や知識なら、今日知れる。場合によっては、ちょっとした意識だけで、ガードのレベルが飛躍的に向上する。
本稿を読んだところで、絶対にパスされないとは言えないが、あなたのガードが耐えれる時間の延長やパスプレッシャーに対する心の余裕ができることは保証する。
第1章 練習
まず、核心を・・・
相手にやられるのは
体力を抜きにするなら、どちらかが原因である。
一般的には、ガードが上手い人をマネることが推奨されるだろうが、上手い人はすでに華麗に攻めれるので、そっちが印象的になってしまう。若い私も小さい人が大きい人をスイープしたり極めたりする動きに魅了された。
逆だ。
「バケツの穴を塞がず水を入れてはならない」
何が問題かを知らなければ改善のしようがない。まずはパスされてる人の特徴を知ろう。
この章では、よくパスされる人が練習中に意識できてないことや、やりがちなミスを取りあげる。
小難しい技術的なことではないので、今日の練習から意識できるし、間違いなくガード強者への一歩を踏み出せる。
では、日々の練習の観点からガードリテンションが上手くなるコツを見ていく。
意識の一点集中
スパーリングを動画で残す以前、白帯の私は、自分がどうパスされているかはよく分からなかった(見れないから)ので、他人(だいたい白帯や青帯の先輩)がスパーでパスされるシーンを観察して、どんな時にパスされてしまうのかを学んでいた。
あの頃に気づいたことは、間違いなく現在でも通用する。
一つ目の特徴、パスされる人は、
『攻撃されている部位に意識が集中している』
ことが多い。
例えば、パサーに右脚をレッグドラッグされたと想像してほしい。
この時、自由に動かすことができるのは、、右脚以外の両手と左脚なので、これらを上手く使って右脚を開放できるポジションまで戻さなければならない。
しかし、パスされる人は、右脚に意識が集中して反応が遅れる。
次いで左脚もピンされ、詰めてきた相手を止めようと両手に意識が集中する。この時には脚への意識が薄くなるのでどんどん後手に回ってしまう。
ここでの核心は、
『使える部位を動かすことに集中する』
である。
攻撃されてる部位への集中か、動かせる部位への集中か?
この時間的な違いは一秒にも満たない、文字通り一瞬だが、柔術はマルチタスクな競技である。一瞬の判断の違いで攻防は大きく変わる。
いま動かせるところを即座に動かそう。
想定の範囲外でパスされる
これは今でもそうだが、
「自分は自分が思っている以上に自分に甘い・・・」
スパーや試合の記憶は曖昧なところを良いように記憶改ざんするし、動画などの客観的事実を見ても、悪いところより良いところに注目したりする。ネガティブを避ける。バイアスだらけさ。人間だもの
の割に他人には厳しい。
冷静にパスされる他人を観察することで、当たり前のようで意外と気づかないことに気づいた。
一番効率的にガードを強化する方法は
『自分が使うガードにあったリテンション方法を学ぶこと』
である。
ガードの形が違えば、
・コントロールの仕方
・相手の姿勢
・仕掛けられやすいパス
などが変化するので、頻発するムーブも変わる。
過去の私みたいに床でエビを繰り返したところで、不安定な相手の体を踏むエビは上手くならない。感覚入力が異なるので、脳は同じように体を動かさない。
足回し、ブリッジ、レッグスイング、インバージョンなども同様、まずは自分が練習してるガードを想定して練習してほしい。
しかし・・・他人には厳しい私はさらに気づいた。
『自分の練習したいガードのコントロールを失ったときにパスされる』
のである。
というより、これが 核心だ。
「練習してないところを攻められてやられてるだけ」
なので、自分の練習するガードに合わせて、
①自分のガードを保つ練習
②ガードを外された時のリカバリー
少なくともこの二つのリテンションは練習したい。
リカバリーは密着のパス、遠距離のパスとそれぞれあるが、長く柔術を続ければ、どちらも必要になる。練習する順番はいま練習しているガードに合わせるといい。
最終的に密着されてパスされるのであれば、密着のリテンションを、ガードをブレイクされて脚を捌かれてるなら遠距離のリテンションを練習したい。
もう一つ大事なことがある。
一時的にパスは防いだものの、グリップをつくらずパスされてしまうことは少なくない。上手くなれば、カウンターで攻めれるようになるが、はじめは難しいので、
③再度、自分の攻めれるガードをつくる
ところまでを意識しよう。
ちゃんとリテンションの練習をしてない
柔術人生で私の犯した最大にミスは、白帯や青帯の頃にスパーリングばっかやっていたことだ。
黒帯の私から過去の私へのアドバイスは
『ガードリテンションは時間を作って意識的に練習しろ』
である。
いわゆるシチュエーションドリルであるが、ガードリテンションの打ち込みとして考えてもらってもいい。私は無駄にスパーリングばっかやっていたので時間を無駄にした。
若いころ、パスとスイープだけのドリル(パッスイ)をやらされたことはあるが、スイープは後回しにして、パスとガードリテンションだけのドリルをまず試して欲しい。
場合によっては、難度を下げて、パサーにはゆっくり動いてもらうようにお願いする。
はじめてこのドリルをやった時に気づいたのは、
「自分の手足は自分が思ってるほど正確に動かせてない」
ということだ。
例えば、相手の肩が落ちてきたら
1.手で肩を止めて
2.足を回し
3.グリップをブレイク
したいが、動く相手の肩を的確に止めるのは難しい。結果的に上手く止めれず、腰を押しつつプレッシャーに負けてパスされる。
足回しも同様、相手の二頭筋を蹴るとか腰を踏むとか、かなり意識して練習しないと良い位置をとらえることができない。
しっかり練習すれば、いずれ無意識レベル、感覚レベルで良い位置に手足を置けるようになるが、はじめは丁寧に意識して練習して欲しい。
技術の全ては練習次第である。
スパーリングで受けてない
パスすることは好きでも、パスされることを好む柔術家はいないだろう。
これを読んでるあなたも、スパーでパスさえれることを良しとは思ってないはずだ。
確かに試合でパスされるのは最悪だ。ハイレベルであればあるほど3点は数字以上に大きい差となる。
しかし、スパーは練習だ。
いまもし、必死こいてパスを防いでるなら、一個前のリテンションドリルと同じようにできてるか確認してほしい。
スパーリングの方が強度が上がって難しいが、同じように
「狙ったところを止める、狙ったところに足を回す、狙ったところに戻す、そしてガードをつくる」
ということを意識してほしい。スイープや極めは一度忘れてもらってかまわない。
ここでこそガードが上手い人を観察しよう。
余裕をもって対処してないだろうか?けっきょくは技術に自信があるかどうかが冷静にパスを防げるかを決める。
スパーでガードリテンションを練習する時の最大のポイントは
「あえての後手」
である。
パスを許容してほしい。まずは観察することだ。もちろん失敗してパスされることもある。無問題、練習だ。
理想的には、遠距離でも中間でも密着でも、複数のレイヤーを用意して対応できるようになりたい。その中で、堅くいくガードと柔らかくいくガードを使い分けれると良い。
試合を除けばスパーは一番難度と強度が高い練習だ。そこでこそ、ちゃんとリテンションの練習をして欲しい。失敗してパスされても無問題
1回づつ成功を重ねていけば、少しづつ自信が積み上がる。
そして技術習得に関する最大の核心は
「成功体験」
である。
練習した技が試合で決まったときに自信がついた経験をしたことがある柔術家は少なくないだろう。
試合での成功は自己肯定の最上級なので、試合で実行できるなら一番いいが、毎日あるわけではない。でも、練習は今日できる。
自信があるから成功するのではない。成功したから自信がつくのだ。
チャレンジしなければ成功も失敗もない。練習でチャレンジしてまずは一回成功させてほしい。場合によっては脳がクロックアップして飛躍的に成長する。
腰が動かない
「エビと足回しはどちらがガードリテンションに重要だろうか?」
私の記憶では、スパー中や試合中に
「エビしろ〜」
というアドバイスをもらったことはあるが、
「足回せ〜」
と言われたことはない。
この二つは、柔術をはじめたその日に、間違いなく教わる基本ムーブである。どちらもガードリテンションに役立つものだが、相手との距離により重要度が異なる。
パサーとの距離が近いガードほどエビを使う頻度が多くなり、遠いほど足回しが多くなる。
エビをしろというアドバイスを頻繁にもらうのは、相手に密着されパスされそうになっていたり、もうすでにパスされてリカバリーをしなければならないシーンでよく使うからだ。
そう、茶帯ぐらいの頃だったと思うが、
(ウォームアップのエビってガードキープでそんな使わなくね?)
という疑問が浮かんだ。
それまで、床でたくさんエビを繰り返してきた人生だったが、これが一番役立つのは、パスされた後や密着されて潰されそうな時に腰を逃すときであり、ガードキープにおいては相手の体を踏むことが多い。むしろ地面でエビをするとパスされやすくなる。
あと、どちらかといえば逆エビの方がよく使う。凡人ゆえに気づくのが遅れた・・・
パスのコツの一つは相手の腰の動きを封じることである。
逆にいえば、ガードリテンションやリカバリーは、
「いかに腰を移動させるか」
が重要になる。
エビ、逆エビ、ブリッジ、レッグスイング、ガンゴーハ、インバージョン
すべて腰の移動がともなう。
そして次の疑問だ。
「足回しって腰そんなに動いてなくね?」
おそらく、多くの人がイメージする足回しは仰向けになって行うウォームアップの足回しだろう。
まず、ちゃんと腰が床から浮いていれば、足を回した時に腰は左右に動く。でも、これだけでは実際のガードリテンションには使えない。より可動域を広げるためにインバージョン気味に回転して足を入れる角度をつくる必要がある。
という違いがあり、すぐパスされてしまう人は足が回ってないのではなく、足回しのインプットが間違ってたり、インバージョンができなかったりする。
ムーブが多様であるほど、防御力はあがる。パスされたくなければ腰を動かそう。
第2章 技術
この章では、パスされないための技術的なコツを紹介する。
とはいえ、十数年で見つけたコツはたくさんあり、一度に多くは意識できないので、今日から確実にできる7つの知識を厳選した。
あなたがどのガードを好んで使おうが、確実にメリットがあるので、ぜひやってみて欲しい。
ルール的には胸と胸、物理的には、脇下から腰までのラインを相手の体で埋められてしまうとパスが成立してしまう。身体的に生まれつき向いてる人がいるのは、上の記事に書いた通りだが、それでも膝と胸の隙間が小さいほどパスはされにくい。これはハーフガードも同じ。
しかし、たとえ世界王者クラスの柔術家といえど、ガードポジションの全ての時間で膝と胸が近づいてるわけではない。相手にプレッシャーをかけられた時や自分が攻めるには必ず、隙ができる。
よって、ガードリテンションの要は、頑張ってKnees to Chestをキープする意識ではなく、必要なタイミングで膝と胸を近づけるマネジメントにある。
完璧に膝と胸をつけれない時に意識すると良いのが、足を背屈(つま先を自分の方にあげる)だ。
足先の角度変化は、フリーハンドのオープンガードだけではなく、ガード全般の強度に影響する。
上記に3つの選択肢があるが、人によってやりやすさが変化するので、140字で説明できなかった大事なところを書かせてほしい。
内部意識と外部意識
運動指導ではCue(キュー)を出すことで対象者の動きを変化させるテクニックがある。
この時、
・自分の内部に意識を向ける
・自分の外部に意識を向ける
という2つがあり、指示しだいで効果や反応が変わる。
e.g. 猫背のように背中を丸めて座っている人の姿勢をまっすぐにしたい場合
「胸を張って下さい」
と、胸を張るための筋肉の操作という自分の内部に意識を向けさせるのか
「頭を天井にぶつけるイメージで」
みたいに外部を意識させるのか
という、ちょっとした言葉の違いで、対象の動きは全く違ったものになる。
①脛に力を入れる(内的)
②つま先を膝に向ける(中間)
③足裏を相手に向ける(外的)
なので、全部試してみて、一番しっくりくるのを見つけてほしい。
とはいえ
(そんな余裕ないぜ・・・)
っていう人もいるだろう。
そんな人は、練習中にまずは自分の足の甲や爪先をピンポイントで見ることからはじめると良い。
・カラー&スリーブのバイセップスキック
・デラヒーバ&リバデラ、ラッソーのフック
・ハーフのグレープバイン
・ニーシールドのインサイドフック
ガードは足の意識一つで強度が大きく変化するものばかりだ。自分ではできてると思っても意識できてなかったりするし、疲れると忘れる。私も最近、スパー動画を見てハイニーシールドのフックが甘いのを修正したばっかりだ。
省エネガードをつくろう
関節の角度しだいで、Knees to Chestの強度が変化する理由は複数ある。
まずは一番大事な物理的な理由
ガードポジションでは体幹部に対して脚(足)が重りとなっている。脊柱を屈曲させる腹筋群や股関節を動かす筋群が力を発揮して脚をコントロールしている。
相手のプレッシャーは抜きにして、戦ってる最中に自分の脚の重さは変化しない。
しかし、体幹部から脚が離れるほど、関節を回転させる力が大きくなる。これをモーメントアームという。
だから、体幹部や股関節からすれば、脚の重さが変化しなくても、股関節が曲がってるほど、膝が曲がってるほど、足首が曲がってるほど、省エネで戦えることになる。
(足首の数cmで?)
一般的にはテコより重さ(kg)の方が負荷としてのイメージが強いだろうが、テコはたった数ミリ違うだけで、大きな変化となる重さよりも厄介な負荷なのだ。
もちろん、実際にはここに相手がプレッシャーをかけてくるので、重さが追加されたりする。足を掴まれて良いことはないので、なるべく引いておこう。
次は、私が紫帯の頃に知ったことだが、ガードの強度だけでなく極めの精度にも一番大きい影響を与えた技術だと思う。
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