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リョウ【chapter45】

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リョウには不定期に会う女の「友達」が何人かいる。

リョウから連絡をすることはない友達から、勤務中の時間が空いた時、また微々の休日。携帯を確認するとLINEがある。

「電話にはでない」

「電話をするな」を内包したリョウの言葉に必然、連絡手段はラインのみとなり、叙情豊かな愛のようなラインには返信をしない。許容量は有限であるため、会いたい。や、愛してる。や、それにまつわる込み入った、感情を伝えるための文章をインプットするための余白は持ち合わせていないという、ソウを欠くホウレンソウを真綿にもオブラートにも包まず「友達」に伝えている。

そのラインさえも相手によっては、ミュートの設定であるため、友達との関係性において主導権は完全にリョウが握ることとなる。

ミュートに設定していない数人のなかの一人からは、そもそも、滅多に連絡がこない。

『夜、行く』

と飛ばせば既読がつき、返信はない。

「ダメな時は返信するけど大丈夫な時は返信しないから大丈夫」

と、笑ったひと。

ミュートの友達とのやりとりは確認したそばから削除にするため、前回会ったのが一週間前なのか、一ヶ月前なのか一年か。ラインの削除と共に記憶も削除される。

仕事以上に優先順位の高い付き合いを求めずに生きてきた。会える時間が三時間ならば二時間、二時間ならば一時間「会える」旨を友達に伝える。

淡々と。つかず離れず。去るものは追わず。追うほど夢中にならず、追われるほど夢中にさせず。

元来、面倒くさがりなのだ。抱えることも抱えてもらうことも望まない。

乱すことも乱されることも性に合わない。

きっと、自分はこのスタンスで生きていくのだと思っている。でも、ふと思うときがある。弟のこんな生き方をタカシはどう思っているのだろう。と。何故タカシなのか分からないけれど。

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髪を切り、携帯の電源をいれると「友達」である女の一人からLINEが入っていた。夕方か夜にはタカシのマンションに行こうと思っている。まだ時間があることを確認すると携帯の着信履歴から女の番号を探す。

リョウの向かいに座った女は切ったばかりの髪をなぜか嬉しそうに「似合う」と言う。愛想笑いすらせずリョウはコーヒーカップに口をつけると、一人、喋り続ける女の口を見つめる。この後、数十分後には自分の唇を当てているであろう、その女の口を見てリョウはなんでもいい。と思う。

女のお喋りが一区切りつくのを待つと、

「行こう」

伝票を持ち立ち上がる。

自分の部屋に女を入れるのはもちろん、相手の部屋に入ることをしないリョウは、頭の中で一番近くのホテルの場所を探しながら運転席に乗り込む。

女が助手席に座りドアを閉める。

瞬間。

店にいるときには感じなかった香水の匂いが鼻をつき、頭の真ん中を突き抜ける。甘い匂い。フワリと笑うあの人を想わせるような、とても、甘い匂い。


タカシの部屋の玄関をあけ、「おかえりなさい」と見上げる切れ長の目。

夜遅く、タカシの部屋を訪れるといつもたいがい、風呂上がりの清潔な甘い匂いを撒き散らし、見慣れたキャミソールとショートパンツ。伸びる細く白い手足。その無防備な滑らかさ。化粧気のない顔で手際よくリョウの夕食をテーブルに並べる。

「先に済ませちゃってごめんね。淋しい?リョウくん野菜をちゃんと食べるのよ。あ、アイスクリーム、リョウくんの分もあるわよ、食後に食べてね。ほうじ茶味、きな粉と黒蜜のマーブル。とってもおいしいのよ」

相づちの隙を与えぬ一人喋り。

顔の造作にそぐわない低音。夜のタカシの部屋で聞くその声は、眠気を帯びとろとろと甘い。穏やかな月夜の、波の満ち引きのような響きは途端眠気を誘う。

まじまじと、そばかすの一つ一つまでまじまじと眺め、睫毛に唇を当て、頬や唇に触れたいと思う。柔らかそうな髪の中に鼻を埋め深く深呼吸する。肩や、想像にしかない胸や太ももの付け根。よく笑う小さな顔を両手で包み瞳をのぞきこむ。「今日はなにしてた?」話を聞かせてほしい。

明日は、その先は?誰となにしてる?お前の未来に俺はいる?


助手席から車中を充満する甘い匂いが、リョウを包む。誰の声か。リョウの心に問いかける。「本当の気持ちは?本当の答えは?」

ハンドルに顔を伏せ目を閉じる。

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