鳥山明さん旅行に行けましたか?

 ご無沙汰しています。
   
 驚きました。鳥山明さんの訃報です。
 彼を取材したのは、三十年以上も昔のことです。川崎で個展が開催されたのを機に何とかインタビューにこぎつけました。ですが売れっ子とはいえ年下の作家で、しかも、当時文化部記者として手塚治虫氏をはじめに石ノ森さん、赤塚さん、藤子さん、さいとうさんなど、ビックネームの作家を取材してきた、漫画の歴史の証言者の一人だ、とかいう何とも身の程しらずの自負も災いして、いまひとつ、深い取材ができなかったという恨みが残ったものでした。その後、また取材をと願っていましたが、作家自身もマスコミへの露出を避けはじめた頃合いもあったことで、なかなか実現できませんでした。まもなく自身も移動で取材現場を離れてしまい、以降は一読者として、漫画を、その世界を眺めてきました。その間に、新しい作家や話題となった作品も生まれ、楽しみな反面、その状況を現場でみることはもうないのだと淋しくも感じてきました。それも、今はぶつぶつと世間の愚痴をつぶやく無職年金老人として人生のラストスパートに入っておる次第です。
 いや、鳥山さんの件でした。その慚愧に堪えぬ取材の中ですが、彼が語ったある話が今も印象に残っています。
 多忙極まる流行作家となった。旅行に行きたくとも時間がない。そこで友人に世界バイク旅行の代行を頼んでいるという、冗談のような内容。経費はすべて作家持ちというから、何とも言葉がありませんでした。
 漫画の世界をトップ集団の一人として走り続けてきた鳥山さん、あれから、ゆっくりと旅する時ができたかどうか。
 ですが、彼もまた、かつては漫画好きな少年であったことは、私自身と同じ。その意味では「こころのとも」。また会える時を。
 


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