卒業、3日前

賞味期限が切れそうになって、心が真っ青になる。暖かい午後、揺れるカーテン、お日様の香り。弛んだ空気、先生の声。ざわめき。綺麗にセットされた黒と茶色の髪の毛。揃いの紺色の肩、揺れるスカート。膝上10センチに切られたそれは、夜が終わってしまうときの空みたいな色をしていた。

思い出されるいちばん好きなこの季節の、いちばん好きな時間。ひとつひとつが、きっとナマモノなんだろう。旬の時間は一瞬で、それがすぎたら、どんなに惜しんで手を伸ばしたってもう届かない。僕はそんな青に恋をしている。青で、ピンクで。いつだって恋だって気づくのは終わってからで、いまだってもうあと3日、まだ終わってはいないけれど、もうどうやったって取り戻せない、2年と11ヶ月だ。僕は日々が好きだった。どうしようもなく、好きだ、胸が痛むほどに。僕の日々は、単調で、きっともっと充実しているひともいて、それでも僕は、幸せだった。僕の、僕だけの、日々が。

ずっと終わらなければいいなんていったら君は笑うだろうか。ずっと、ずうっと、僕は終わりを望んでいた。苦しみを、終わらせるために。いざ終わりが迫れば結局胸を抑える僕にきっと君は苦笑して、都合がいいなあだなんていって、それでもきっと肩を並べる。そのあたたかさに、安堵の気持ちに、僕はまた浸ってしまうのに。


もう二度と戻ってこない日々、辛かった日々。泣いた夜、悔しくて、ともだちと言葉のラリーを画面上で投げあって、そこにはいないのに、抱きしめあった日々。朝、頭が重くて動けない僕を叱咤して、最後は励ますあの人。全部やめたくなって、どうしようもないときに背中を押してくれたあの人。俯瞰したような僕を引き込む彼らに驚いて、その柔らかさに、笑いを堪えきれなくて。あーあ、もう二度と、僕には触れられない日々。愛おしい日々。いろいろ足りない僕をいつも支えてくれた同期、少ないけれど、大好きで、信頼している先生方、僕を大切にしてくれた友人たち。複雑に絡んだ糸を、切るしかない糸をなんども、なんどもそっと解いてくれた彼らがいたから、僕は。

仕舞おう。触れたら消えてしまう、時間が経っても消えてしまう、儚くて大切で愛しくてたまらないこの感情を。賞味期限付きだった大切な日々を。同じ、ナマモノである文章に、閉じ込めて。不完全さを文に成型して。

青春なんていらない。名前をつければ、きっとそれは、消えてしまうから。終わってからしか気づけないそれに、名前をつける意味なんてなくて。ただ、忘れないように、そのまま。そうっと。文に、箱に遺せば、それでいい。

苦しさ、寂しさ、華やかさ、笑い、恋心。

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