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陸上女子長距離界への期待

「いや~今日の世界陸上面白すぎる!女子5000m日本代表の新谷仁美。ケニア,エチオピアが圧倒的な力を持つこの種目の決勝で,2000mまで集団を引引っ張るその気持ちは,今後の彼女の走りを期待させる。」と,私は,2011年9月2日に自身のfacebookに投稿していた。

あれから9年…新谷選手は2014年に突如現役引退を発表したが,2018年に復帰し,今や2014年以前の自身を上回る走りで他を圧倒。ハーフマラソンでは日本新記録も樹立している。そこには様々な要因があるようだが,今回はその話題ではなく,先日のクイーンズ駅伝で見せた新谷選手をはじめとする,現在の日本陸上女子長距離界をけん引する選手たちの走りから,日本は過去の栄光を取り戻すのではないかという話。

日本女子長距離は過去,世界をけん引する存在であった。とりわけマラソンでは,1992年のバルセロナオリンピックで有森裕子さんが銀メダルを獲得して以来,2004年のアテネ大会まで4大会連続でメダルを獲得。世界陸上(2年に1回の開催)でも1991年山下佐知子さんが初めてメダルを獲得してから2013年福士加代子選手が銅メダルを獲得するまでの間,合計11個のメダルを獲得している。

しかし,その栄光の記録も現在では霞みつつあり,オリンピックではその後,入賞さえない。世界陸上でも下位入賞がやっとである。この原因は,マラソンの高速化だと言われている。つまり,アフリカ勢の本格的なマラソン参戦により記録はどんどん向上し,2001年に高橋尚子さんが出した2時間19分46秒という当時の世界記録から現在は5分以上短縮され,ケニアのコスゲイ選手が2019年に2時間14分4秒を記録している。一方で日本記録は,2005年に野口みずきさんが記録した2時間19分12秒。マラソン王国として君臨していた時代から,トラック種目では日本人はアフリカ勢に圧倒されていた。そのアフリカ勢がトラックのスピードそのままにマラソンに来たため,当然と言えば当然の結果だ。

さて,前置きが長くなったが,ここからが本題。2011年の世界陸上で新谷選手の走りに興奮した私だが,それはあくまでも2000mまでの話。「2000mまで引っ張るその気持ち」と表現した裏には,記録ではなく順位を狙うチャンピオンシップでのアフリカ勢は,前半は様子をみながら走り,後半にえげつないペースアップで勝負を仕掛ける。それを分かっていて「前半から積極的に前に出るなんて素晴らしい」という言葉が隠れていた。その長距離における後半のトップスピードこそが,日本人とアフリカ勢の決定的な差。つまり,ベストタイムでまだ差がある日本人の感覚としては,最初から突っ込みながら,中盤以降にさらにペースを上げて記録を伸ばしていくという走りができない限り,トラックはもちろん,マラソンでも今後も世界で勝負することはできないということになる。

そういう視点で今回のクイーンズ駅伝を見ると、世界の中での日本の女子長距離は今の状況から脱するかもしれないと思えた。
駅伝のセオリー完全無視で1区の最初から後続をどんどん引き離すハイペースで走り,わずか6㎞で2位と31秒もの差をつけて区間賞を獲った日本郵政の廣中選手。
3区で10秒差の2位でタスキをもらい,最終的には従来の区間記録を更新した先頭を走る鍋島選手をわずか700mで捕らえ,1kmほど後ろに付かせたものの,「このペースでそのまま行ったら自分が潰れる」と鍋島選手に思わせる(私の想像ですが…)ようなペースで突っ込んだ新谷選手。この時の新谷選手の記録は、過去の日本のエースたちが走ってきたこの区間での区間記録を1分10秒も更新するタイムであった。
この2人の走りは完全に世界を見据えた,世界の強者たちをイメージした走りだと感じた。私は,鍋島選手の大ファンで,大学時代から応援している選手だが,正直その鍋島選手が凡人に見えるほど,彼女たちの走りは別格だった。レース直後,鍋島選手が,誰かからの問いかけに首を横に振っている姿が印象的だった。

この両名に加え,今年に入って1500mと3000mで立て続けに日本記録を更新している田中選手。彼女もまた常に世界を意識したレースをしている。5000mでオリンピックを狙っているのに,800mや1500mのレースに多く出場。そして,そのレース内容は,中盤から後半にかけての他を置き去りにする圧倒的スパートが特徴的。特に日本選手権1500mの600mからのスパートは見事だった。また,本命の5000mでも15分02秒を記録したホクレンディスタンス網走大会でのラスト1000m2分50秒にもたまげた。これは,これまでの日本人の課題である,後半のトップスピード強化のための走りなのだろう。世界で闘うための準備なのだろう。

この日本人離れした新谷選手,廣中選手,田中選手が同時期に台頭していることが素晴らしい。復活の新谷と若手の廣中,田中。この3選手を中心に新たな日本女子長距離界の栄光が作り上げられることを期待せずにはいられない。

そんな要注目の3選手が,12月4日の日本選手権長距離で,まずはオリンピック出場を狙う。新谷選手は10000m,廣中選手と田中選手は5000mにエントリーした。3名については,優勝でオリンピックが決まる。しかし,彼女たちのことだ,きっとここでも世界を見据えた走りをするだろう。そこに,鍋島選手やマラソンでオリンピック出場が決まっている一山選手,クイーンズ駅伝1区で同世代の廣中に負けたくないという気持ちを前面に押し出し唯一追走した萩谷選手などがどう絡んでくるのかなども見どころだ。優勝者,優勝タイム,レース内容,その全てに注目したい。

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