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開いたって。アジじゃなくて海ね。

「アジってひらくの?」

「碧、しらねーの? アジの開きって料理だよ」

へぇ、と碧は力なく呟いた。僕の隣でひざを抱えて座る彼女は、ちょっと眠たそうな顔をしている。

「康二くん、眠たくなっちゃった」

僕の予想通りだ。電気を消して、二人でベッドに横たわる。

「海にたくさん人が来るんだねぇ」

「僕たちも行こうよ、海」

碧が微笑む。

「ねぇ、康二くん、これからも碧のこと、大切にしてね。碧のまわりの人たちのことも」

「どうしたの、急に」

なんでもない、という風に首を振った後、碧は寝息を立てて寝てしまった。

次の日、珍しく太陽と同じ時間に目覚めると、部屋のあちこちに水滴が落ちていた。酒にでも酔って、水でもこぼしながら歩き回ってたのだろうか。

雑巾でそれらを拭こうとする。わりと広い直径でできている水滴を拭こうとしたその時、一瞬、女性が映ってこちらに微笑みかけた気がした。見覚えのあるような、ないような……

拭くのをためらっていると、その水滴は魔法のように蒸発して消えてなくなってしまった。

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