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ひこうき雲と再生と巻き戻しと

この文章は私と彼の会話でほぼ進行していきます。 私『』 彼<> で括弧の違いにより会話を読んで頂けると幸いです。



仕事帰りにひこうき雲を見た。

『まだ大丈夫』
<まだ大丈夫ってどした?>
『………見て!ひこうき雲。』
<おおぉ。久しぶりに見たわ!なんか運動会思い出す>
『運動会でひこうき雲みたの?』
<いや、そうやないけどなんとなく飛行機雲って秋の空というか>
『秋の空といえば、天高く馬肥ゆる秋やん。今春やけど』
<そやな。確かに春やけど春と秋って間やん。寒くなるのと暑くなるのの間。再生か巻き戻しかだけの違いやで>

そう言いながら私たちは、人々が足早に歩く夕方の駅近くに立ち止まってひこうき雲を見た。 
ある日、突然元彼から連絡があった。久しぶりに会った彼は、どこかスッキリした表情で、あの頃より少し痩せていた。

『時間進んでるのに巻き戻しってなんかいいなぁ。じゃあ今からが再生ってわけやね』
<えっ??今から巻き戻しやん。
夏に戻って冬に進んでいくんや。>
『え??芽吹き始めていくんやもん。再生かと思った』
<なるほど。土に戻っていくんや再生やと思ってたわ>
『卵が先か鶏が先かやね』

足早に歩いている人たちを見ながら、家に帰って『ただいま』って言う人はどのくらいいるんだろうと思った。

<俺らなんで離婚したんやろうな。>
『なんか突然の質問やな……
なんとなくやけどお互い結婚し続けてる理由がなかったからやない?』
<みんな理由がなくなったら離婚する?んな訳やないやろ>
『私はな、正直あの頃ちょっと窮屈やってん……』
<大丈夫。俺もや。理想のカップルなんて言われてたのにな……
なんか最近結婚てな、不安やけんするんやと思ったんや。あの頃お互い不安やけん結婚した。けど俺らはお互いで不安を埋めあうんやなく、お互い自分を自分で埋めていった。そしたらだんだん結婚した頃の不安がなくなった。>
『そうやな。お互い結婚というよりは、共同生活やった気がするわ。』
<そう。共同生活。お互いを尊重しあった結果お互い自立した。>
『一緒にいる意味がなくなった。家族にはなれんかった。
でも私後悔してないよ。ありがとうって思ってる。今は兄弟みたい。』
<兄弟って家族やん。違うか。兄弟が家族なのは、子供の時だけか。あの頃の俺らは、子供やったんかな……>
『金八先生の人という字は……ってやつあるやん。
私達寄り添ってはいたけど支え合ってはいなかったんかもな。つまり、人じゃなかったんやないかな(笑)』
<人じゃなかったって、なんかちょっと違和感やけど。まぁそうやな>
『そうやよ。でもな、一緒に暮らしたからわかることもたくさんある。一緒にいるだけで、今楽しいと思ってるとか、朝ごはん食べたくなさそうとかわかったもん。やからわかるんよ今が楽しいとか、無理してるとかなんとなく。合ってるかは知らんけど……』

ひこうき雲は、うすくなって見えなくなってしまった。なんとなくそのまま周りの足早な流れについて行く気にもならず近くのベンチに座った。

<そか。お互い色々わかるんかもしれんなぁ。合ってるかは知らんけど。答え合わせせんほうがロマンがあるな。>
『そうやね。世の中答え合わせしないほうがいいことの方が多いね。』
<片思いの方が楽しいやろ。好きってのはハテナがついてる方がずっと楽しい。勘違いやった!ぐらいが一番楽しいわ。確定したらなんか責任とか色々出てくるやん。現実になってくるし、どうしよってなるわ。>

だんだんと暗くなって夕日より街灯のほうが明るくなってきた。

<再生と巻き戻しの話やけど、俺今からまた芽吹くためにまずは、土に向かうわ。後悔せんように土に向かう。>
『なんやのんそれ。まぁ、と言う事は私の1歩先行ってるって事やん。私今から花咲かせるから(笑)
巻き戻しやないよ。どっちも再生やわ。』
<そうか。そうやな。時間は進んでいくし止められん。巻き戻しもできん。そう言うもんやな。両方再生やな。>

『ひこうき雲見れたら大丈夫やわ。きっと大丈夫。ちゃんと上見て歩いてるってことやもん。』
<そっか。そやな。飛行機雲やな。これからたくさん探していこう>

そう言って別れた。
少し痩せた彼とまた会う事ができるのだろうか。
私のなんとなくわかるの答え合わせをする時が来るのだろうか。
そう思いながら春の空を見た。

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