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栄養ドリンク

アルバイトをしていて、いろんな人を見る。

私は某24時間営業店でアルバイトをしている。
ここで雇ってもらってから1年半ほど経った。
バイトし始めてから間もない頃は、レジでお客さんに接客することにとても緊張していた。レジの操作ミスが怖くててきぱきとレジを打てなかったし、お客さんを前にすると声も手先も震えた。

「あんた、ここで何年仕事してるの?(怒)」

お店に入って2ヶ月経つか経たないかの頃、お客さんがなんと言っているか聞き取れなくて何度も聞き返してしまった時、強い口調でこう言われた。「私ですか?入って2ヶ月程度です」と、事実をそのまま伝えると、そのお客さんは「あっそう」とだけ言ってお店を出て行った。

私はとても気が小さい。子供の頃から少しでも強く言われた時や、回りくどくチクチクすることを言われた時は、決まって泣き出してしまっていた。
「自分がこんなに辿々しいからダメなんだ」
そのお客さんに強く言われた時も、恥ずかしながら涙がこぼれた。

そんなことがあった日から数日後。その日は私が住んでいる関東でも雪が降り、とても寒い日だった。

昼間、バイトをしていてもお客さんはなかなか来なかった。「こんな天気だもん、そりゃみんな家にいるわなぁ」そう思いながら商品の陳列をしていた。
そんな時、60代くらいの1人のお客さんが来店した。

そのお客さんは忙しなく商品をカゴに入れ、すぐにレジに来た。私が商品をレジに通し、「〇〇円です」と言うと、お財布をいじっていた。しかし、なかなか小銭が取れない。「時間かかっちゃってごめんね。寒くてねえ。」「今日すごく寒くて手も悴んじゃいますよね。ゆっくりで大丈夫ですよ。」そんなやり取りをし、ようやく小銭を取り出すとまたお菓子売り場に行った。追加でお菓子を3つ購入された。そのうちの一つを私の開いた手を取りポンと置いてギュッと閉じさせた。「あなたすごく頑張っているから。これでも食べて。」一度は、申し訳ないですと断ったが、私が着ている制服のポケットにそっと入れて帰られた。一緒にシフトに入っていたパートさんに、これ貰ったんですけどいいんですかね?と言ったら、まあいいんじゃない?と言ったので、申し訳ない気持ちになりながらもありがたく頂いた。
また私は涙がこぼれた。「こんなに辿々しいところを鬱陶しく感じる人もいれば、頑張っていると評価してしてくれる人もいるんだ」
その時にもらったお菓子は、今まで食べたお菓子の中で1番美味しくて、今までで1番元気になれたお菓子だった。

私はこのお店の役に立つどころか足手纏いになってると自信がなかったけど、これからどんなことがあっても逃げずにやってみようと思えた出来事だった。

それから時間が経ち、今でもどんな仕事も丁寧にやることを心がけている。
そして、つい先日、またほかのお客さんから栄養ドリンクをもらった。あの雪の日と同じパートさんとシフトに入っていた。自分の祖父と同年代くらいのお客さんが、トイレを借りにきた。そして、トイレを出た後、3本の栄養ドリンクを購入していた。「気持ちよくトイレを貸してくれてありがとう。これ飲んで。」お客さん自身、パートさん、私の3人分のドリンクを買って行った。その3人とも笑顔になり、ありがとうございますと伝えた。

その栄養ドリンクを貰った前日、嫌なお客さんが来ていた。こんなことは言いたくないが、とても横柄な態度だった。それだけならまだよかったが、レジのカウンター内にあったお店のものに手を伸ばし、勝手に使っていた。
それは困るので、もしお困りのことがあれば先にお申し出ください、と言ったものの、完全に無視され使い続けていた。そのお客さんが怖くなると同時に、すごく腹が立った。そして、すぐ腹を立ててしまった自分が嫌だった。
世の中いい人ばかりではない。いいことばかりでもない。心の中でそう自分に言い聞かせた。
そんなことがあった次の日だったからか、より心に沁みた。

夏休みということがあり、いつもより多くシフトに入る予定。まだまだ暑い日が続くだろうこの夏、いろんな意味で私に栄養をくれるドリンクになった。

元気をチャージさせてくれた栄養ドリンク

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