【読書記録】2022年9月

ごきげんよう。ゆきです。

今月はついに!私が愛してやまない創元推理文庫縛りで選書しました!縛りを決めてからそわそわそわそわ、9月を迎えるのが楽しみで仕方ありませんでした。読みたいものが多すぎて、次は何を読もうかなと考える前に指が勝手に動いていたおかげで選書時間がとにかく少ないという。何を選んでも面白いという信頼感のもと出来た所業ですね。

今月もどうぞよろしくお願い致します。

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その日、神紅大学ミステリ愛好会の葉村譲と剣崎比留子を含む9人が、人里離れた班目機関の元研究施設“魔眼の匣”を訪れた。その主であり、予言者として恐れられている老女は、来訪者に「あと二日のうちに、この地で4人死ぬ」と告げた。施設と外界を結ぶ唯一の橋が燃え落ちた後、予言が成就するがごとく一人が死に、閉じ込められた葉村たちを混乱と恐怖が襲う。さらに客の一人である女子高生も予知能力を持つと告白し――。残り48時間、二人の予言に支配された匣のなかで、葉村と比留子は生き残って謎を解き明かせるか?! ミステリ界を席捲した『屍人荘の殺人』シリーズ第2弾。

「創元推理文庫縛りをするなら今だ」と即決させたのは、この文庫が発売されたからに他ならない。前作『屍人荘の殺人』に衝撃を受けてからずっとこの時を待っていた。

2作目でここまで面白く出来るのかという衝撃。いやー、最高だった。期待を2倍も3倍も超えてくる。終盤は興奮し過ぎて息をするのも忘れて没頭。

とにかく私は剣崎比留子が好きで好きで仕方がない。前作よりも本作、めちゃくちゃ痺れる。事件解決パートのスタートからラストまで、「これを読んで剣崎比留子を好きにならない読者いないんじゃないの?」と思うくらいの格好良さ。前向きな探偵じゃないけれど、だからこそ彼女が事件を解決する意味がきちんとあって、事件を引き寄せてしまう体質だけれどもそこに悩む人間味もあって、とにかく好き。ちなみに『屍人荘』読了後に色々と気になって実写映画を観たせいで、私の中の比留子ビジュアルイメージは完全に浜辺美波さんになっている。うん、ピッタリだと思う。

ミステリとオカルトの掛け合わせが本シリーズ恒例だが、こんなに面白くなるのかと毎度感動する。オカルト要素を余すところなく活かしきる著者が凄い。ミステリの謎解きも別解なく鮮やか。設定もトリックも動機もキャラクターも、全てが唯一無二で、このシリーズでないと出会えない物語となっている。文庫化を待ちきれないので、単行本で最新作まで揃えようと決意。

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風ヶ丘高校の旧体育館で、放課後、放送部の少年が刺殺された。密室状態の体育館にいた唯一の人物、女子卓球部部長の犯行だと警察は決めてかかる。卓球部員・柚乃は、部長を救うために、学内一の天才と呼ばれている裏染天馬に真相の解明を頼んだ。アニメオタクの駄目人間に―。“平成のエラリー・クイーン”が、大幅改稿で読者に贈る、第22回鮎川哲也賞受賞作。待望の文庫化。

『ノッキンオン・ロックドドア』以来の青崎作品。創元推理文庫の代表作と言わんばかりに、書店で平積みされている事が多い印象。『ノッキンオン』のラノベ感がどうにも合わず敬遠してきた作家だったが、こちらの方が有名作なので思い切って選んだ。

結果、相変わらずのラノベ感。何故なのか。文章力がないとかそういう事ではなく(私自身が人の事をどうこう言える文章力の持ち主ではない)、なんだか没頭しにくいのである。私が持っている文章のリズム感とこの作家のリズム感は上手く共鳴出来ないらしい。

とはいえ面白かった。舞台設定、キャラクター、謎解き、全てのバランスがよく、読了後の満足感は高い。犯人が反論できない所まで完璧に追い詰める裏染探偵は、読んでいて清々しいし非常に格好良かった。謎解きパートの充実感、満足感は他ミステリを凌駕するくらいの仕上がり。エピローグで更に裏を暴く系ミステリ(伝われ)が大好物の私にとってはラストも痺れる。好みの文体かどうかは一旦見ないふりをして、続編を読みたくて仕方ない。

ちなみに本書の探偵役、裏染くんはアニメオタクという設定があるのだが(これもラノベっぽさを感じる所以)、彼がぽろぽろと呟くアニメネタの中に西尾維新の戯言シリーズが混じっていて、ちょっと、いや割と、興奮した。10年以上読んでいない作品だがすぐにピンと来たあたり、自分がどれほど西尾作品にずぶずぶだったかを察する。来月どこかで西尾作品読もうかな。

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児童書の出版社で働く香衣は、とあるきっかけで“カフェ・チボリ”に通うようになる。そこは土曜日しか営業せず、おまけに店主は高校生という不思議なカフェだった! 美味しいデンマーク料理と温かいもてなしにくつろぎながら、常連客たちと身の回りで起こった謎について語りだす。それらは『マッチ売りの少女』や『人魚姫』など、アンデルセン童話を連想させる出来事で――せわしない日常にひと時の安らぎをもたらす、安楽椅子探偵譚!

創元推理文庫におけるグルメ×謎解きの傑作は近藤史恵のビストロ・パ・マルシリーズをおいて他には無いと信じていたのだが、あった。上記あらすじにもあるように、デンマーク料理を提供するレストランの高校生シェフが探偵役。この設定だけで他にはないと思わせる。

正直、読み始めてしばらくは「あーやっぱりパ・マルが至高だし私にはイマイチはまらないかもなー」と思っていたりもしたのだが、最終話を読み終える頃には普通に泣いていた。親になってから、人間の温かさに触れると勝手に涙腺が緩む。最初は苦手だった登場人物に対しても、最後は「存在してくれてありがとう」などと思ってしまうほどの手のひらの返しっぷり。登場人物全員がきちんとキャラ付けされており、連作短編ながら単調になる事もなく、美味しく読了。

執筆の裏話が書かれた著者あとがきがとても面白かった。物語同様、どこか温かみを感じる語り方をする著者である。私自身が詳しくないので、もう少しデンマーク料理の描写があったらもっと楽しめたなと思ったり。でもこんなカフェ、私も行ってみたい。

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慣れない山道に迷い無人駅での一泊を余儀なくされた大学生の佐倉と高瀬。だが深夜、高瀬は一軒の理髪店に明かりがともっていることに気がつく。好奇心に駆られた高瀬が、佐倉の制止も聞かず店の扉を開けると……。第4回ミステリーズ!新人賞受賞作「夜の床屋」をはじめ、子供たちを引率して廃工場を探索する佐倉が巻き込まれる、ある夏の日の陰謀劇「ドッペルゲンガーを捜しにいこう」など全7編。奇妙な事件に予想外の結末が待ち受ける、新鋭による不可思議でチャーミングな連作ミステリ。

創元推理文庫縛りをしようと考えた時、候補は何冊もあったのだが、その候補に全く入っていなかったのに手が勝手に動いてページを開いていたのがこの本。正直著者の名も知らなかったし、書店で本書を見かけたこともなかった。たまたま「あなたへのおすすめ」にポっと出てきただけの本書に吸い込まれるように導かれたあの時間は、まるで魔法のようだった。

ミステリの連作短編である本書。半分読了した段階では、1つ1つの短編の完成度に唸り、非常に感激していた。だが、後半に進むにつれ「あれ……今読んでいるのは何だっけ……?」と迷路に迷い込んだ気持ちになり、読了する頃には「今まで読んでいたこの本は何だったんだ……?!」という新鮮な驚きに包まれる。他の本では味わえない斬新かつ大胆な仕掛けが隠されていた。絶対に表紙やあらすじからは予想もできない顛末。

今村昌弘がオカルト×ミステリ、近藤史恵がグルメ×ミステリのジャンルを構築しているとすれば、本著者はファンタジー×ミステリと言ったところか。純ミステリを好む人にとっては消化不良となるかもしれないが、私はとても楽しめた。夢を見ていた気分である。

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治安が悪く、地獄のような街で地べたを這いずって暮らしていると考えていた俺は間違っていた。
出会ったら命がないと言われている、伝説の殺人鬼・奈良邦彦。本当の地獄は、あいつとの出会いから始まった。
彼女を、そして両親を殺された俺は、それからも執拗に奈良に狙われ続け……。
四一歳の若さで急逝した作家による、最期の挑発&最後の小説。

『夜の床屋』を読み終えた段階で月末だったので、9月中にもう1冊読了は無理だと判断して創元推理文庫と全く関係ない所から1冊選書したら、即刻読了してしまったという。せっかくなので縛り関係なく記録。

大学時代にジャーナリズムの講義にどっぷりハマってしまった私は、一時期ルポルタージュを読み漁っていた。小説とは違い完全ノンフィクションの中にあるドラマは思った以上に刺激的で、今でも書店でルポ書棚の前で時間が溶けていくことはザラである。そんな中、実在の地名であまりにも物騒なタイトルに目を奪われた。本書である。ただしこちらはフィクション。舞台はリアルな川崎であるものの、100%創作なので気軽に読むことが出来た。

言うなれば、『翔んで埼玉』の数倍酷い自虐小説ver.だろうか。川崎に足を運んだことがある者が読めば、あまりの自虐ように思わず吹き出してしまうことだろう(私がそうだった)。

しかし結論を言ってしまえば、賛否両論あるのは間違いないオチである。私も思わず「あぇ?!」と声を上げた。私より先に読了していた夫は、そんな私をニヤニヤしながら眺めていた。この結末は正直、煮え切らない。文書も単調で物足りない。ただ実在の都市をモデルにした創作物を楽しみたいだけの方にはおすすめだが、あまり万人に勧めようとは思えず残念。メフィスト賞受賞作家ゆえ期待していただけに拍子抜けである。

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創元推理文庫は間違いないという再確認のひと月でした。何を選んでも傑作。まぁでも1冊選べと言われたら、やっぱり『魔眼の匣』ですね。期待を裏切らないどころかその何倍も楽しませていただきました。

まだまだ読みたい作品があるので、来月も(縛りとまではいきませんが)創元推理文庫多めでいきたいと思っています。翻訳もので気になるものも溜まっているので、バラエティに富んだ選書になりそうでわくわくです。

今月もお付き合いいただきありがとうございました。先月の読書記録以降、フォロワーが倍増して驚いています。沢山の出会いに感謝しています。今後ともよろしくお願い致します。

またお会いしましょう。ゆきでした。

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