パプリカ (ショートストーリー)
口笛って、人の口が笛になるので世界一持ち運びに便利な楽器だって、誰かが言っていたなあ。
最初に人間が口笛が吹ける事に気付いた人は誰なんだろう。それはいつの事だったのかな。気がついた人は驚いたかな。喜んだかな。
実は私、口笛が吹けないの。何度も練習してみたのに無駄だった。
綺麗な曲、口笛で吹いてみたいな。
音が出る事もあるけど、メロディーにならないの。
口笛が吹けなくては、お話しにならないよ。
でも、でも、アイツは、きれいな音色でメロディを奏でる。いつも得意げに、わざわざ私の前に来て口笛を吹く。腹たつー!
でもそんなアイツだけど、弱点がある。アイツは音痴なのよ、それもかなりの。口笛も音痴のはずだと思うでしょ?でもそうじゃない。信じられないよね。
それがね…
音楽の時間に、リコーダーのテストがあったんだ。吹く曲は 『パプリカ』。
皆んなの前で、1人づつ吹くの。
私は、まあまあの出来でホッとした。
アイツは、リコーダーを忘れて来た。
ところがアイツ、
「口笛でパプリカを吹きます」と、先生に申し出たの。まかさでしょ?
それがなんと、先生は許可したのよ、信じらんない。
アイツは、明るく楽しいパプリカを披露したの、さすがの演奏。
口惜しいけど、つい私はアイツの口笛に声を合わせて歌ってしまった。
私の歌声とアイツの口笛が、こんなにハモるなんて。
やだ、ドキドキする!なんでよ。
皆んなの拍手の中で、私はアイツの顔をチラ見した。アイツの視線とぶつかった。
『パプリカ』はね、私の大好きな曲になったんだ。
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私は残念ながら、口笛が吹けません。
子供の頃、夜に口笛を吹くとドロボーが来ると言われたものです。本当に当時、ドロボーの合図に使われていたのかな? めい