見出し画像

ビール傘2 毎週ショートショートnote

そこはひなびたというより、何か出そうな薄暗い宿だった。
でも女将さんは垢抜けた美人。

部屋に案内されると、私は一人旅の気楽さから、手酌でビールを飲みながら、山菜のツマミを味わった。

自家発電のためか、時々部屋の灯りは薄暗くなる。



 やはり、出た。
これこそが、この宿を選んだ理由。

布団を敷いてある隣の部屋から、妙な空気が流れて来た。
私には霊感がある。

「どうぞこちらへ」
そう声をかけた。

スーッと襖が開き、姿を見せたのは一本足の、から傘オバケだ。

「こ、怖くないのか」
彼は少し戸惑っているようだ。

「ふふ、大好物よ」

「まあ、一杯」彼と乾杯をする。
彼は、喉を鳴らしながら呑み干した。

「ビールが足りないわね」

すぐに女将がビールにツマミ、コップ三つを持って現れた。

女将は傘お化けを見ても驚かない。

彼女も座り込み、三つのコップにビールを注ぐ。



夜明けが近い。

から傘はビール傘になり、朦朧とする意識の中で彼が見たのは、酔ったろくろ首と猫娘の姿だった。









410