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流れ星 シロクマ文芸部

流れ星はどこから来て、どこに流れていくのだろう。
地球に落ちた流れ星は、何かの使命を負っているのかもしれない。
流れ星と言うからにはそれは星なんだろう、でも考えつかないような別のものかもしれない、いや、宇宙船の名前かも。
流れ星に一度会ってみたい。と言うより乗ってみたい。星の世界ってどんなだろう。
そんなことを思いながら毎日夜空を眺めているトムリなのです。

トムリの望みは叶うのかな……

トムリがいつものように夜に外に出ると、裏庭に続く草原に彼女は立っていた。
夜にもかかわらず、彼女の姿はクッキリと見えた。
シルバーの長い髪に薄いピンクの長めの裾のワンピース。結構強めの風が吹いているが、彼女の髪もワンピースの裾も静止したまま。不思議に思った。この辺に住んでいる子ではない。誰だろう。なんで夜一人でこんなところに。

彼女はトムリに気づき、こちらに向かって歩き出した。ユックリと。
思わず身構えたトムリ。少し不安な気持ちがした。

少女は彼の側で歩みを止めた。
思っていたより小さな女の子で可愛い。トムリより少し年下だろう。

「こんばんは。私は宇宙を彷徨う者です。お願いがあるのですが、少し休ませて頂きたいのです」
「家に入りましょう」
気が付くとトムリはそう言っていた。

家の中には母だけがいる。父は隣町に。

ドアを開けると母が台所から出てくるところだった。
「お母さん、この子が少し休ませて」
トムリが言い終わらないうちに母がトムリの言葉を遮った。

「マリア!マリアよね?ええ、マリアだわ」
母は涙さえ浮かべていて、トムリは驚きを隠せない。

「エリー! 会いたかった」
二人は強く抱き合った。

「お母さんは彼女を知っているの?」
「ええ、子供の頃の友達、大事なね」

二人は長椅子に手を取り合ったまま座ると、女子トークを始めた。母が子供に戻っているように見えた。なんだか不思議な光景だった。

女の子同士の会話に入っていけず、トムリは二人のためにココアを用意した。

ひとしきり話が弾んだ後、母はトムリに言った。
「マリアは私たちと少し違うけれど、私の大切なお友達よ」

「マリアさんは宇宙人なの?」
トムリは一番聞きたかったことを尋ねる。
「トムリ君、驚かせてごめんなさいね。あなただって、宇宙に住む宇宙人でしょ」
「そうだよね、僕も宇宙人だね」

「ねえ、マリア。何日か泊まってくれるわよね」
「ありがとうエリー。今回は立ち寄っただけなの。次の時は泊めてね」

「マリアさんは、宇宙で仕事をしているの?」
「ええ、仕事と言うより宿命かしらね。寂しくて悲しかったけれど、エリーに会えて幸せな気持ちも知ることができたのよ」

マリアとエリーはしっかりと抱き合った。
そして、マリアはトムリの頭を撫でながら言った。
「ココア、とても美味しかった。ありがとう。トムリ、イイ男になるのよ」って。
トムリは年下の女の子に言われたような、大人に言われたような、ちょっとくすぐったい気持ちがした。

僕たちは裏庭に出た。

宇宙船が近くにあると思っていたけれど、それは違った。
エリーのワンピースは、洋服の機能だけでは無く別の物にも変化した。
あっという間にエリーの体全体を包み込んだ。

「またね」
声だけが残り、エリーの姿は消えた。
ボクと母は夜空に向かって手を振った。

「お母さんの友達って、とびっきりだね」
「そうでしょ。それに私の夫も息子もとびっきりなのよ」
トムリは久しぶりに母親と腕を組む。
そして、夜空に明るい星が幾つか流れて行くのを二人で見送った。


了 1417文字




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