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光る種 #シロクマ文芸部


手渡されたのは光る種。
おばあちゃんは、いつものように少し寂しい顔で歩く人に『キャンディー』をひとつ渡しました。すると驚いたその人が、おばあちゃんに手渡してくれたのがこの種です。明るい顔になって微笑みながら、その人は言いました。

「この種は、すぐに埋めないで一晩待ってくださいね」

おばあちゃんは掌の種が光っているのに驚きましたが、そんなに不思議とも思わなかったのです。だって、世界は不思議に満ちているのですもの。
小豆ほどの種がなぜ光るのか、なぜすぐに埋めない方が良いのかわかりませんでしたが、おばあちゃんはその種が自分の小さな宝物になったのを感じていました。

おばあちゃんは家に帰ると、古い小さな宝石箱のフタを開けました。
その中に入っているには、おじいちゃんが若い頃くれた二つの宝物。
一つは、まだ結婚前におばあちゃんの誕生日に買ってくれた小さなカメオのブローチ。おじいちゃんはそのために無理をしてくれていたのをおばあちゃんは知っていました。

もう一つは婚約指輪としておじいちゃんがくれた真珠の指輪。それはおじいちゃんのお母さんの形見。大切なものでした。
どちらも今では、おばあちゃんの大事な宝物。

その宝石箱の中におばあちゃんは光る種を入れました。

光る種は二つの先輩に挨拶でもするように、二度三度点滅したように見えました。

その夜のこと。
おばあちゃんは、数年前に亡くなったおじいちゃんの夢を見ました。夢の中におじいちゃんが現れてくれたのは随分ひさしぶりでした。
夢の中で、おじいちゃんと一晩話し続けました。とても懐かしい素敵な時間。おじいちゃんは優しくおばあちゃんの肩を抱いてくれました。

目が覚めると、満ち足りた思いに包まれました。おばあちゃんは、宝石箱を開いてみました。もしやと思っていましたが、宝石箱の中の種はもう光ってはいなかったのです。

おばあちゃんは種を庭に植えました。美しい花がたくさん咲くはずだと思うのでした。


おしまい


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